入院中の患者の、何に注意して “予防策”を考えるべき?|患者の症状別 転倒予防策のポイント
『エキスパートナース』2015年9月号<根拠に基づく転倒予防Q&A>より転載。
入院中の患者の転倒予防策について解説します。
村井敦子
国立病院機構東名古屋病院看護部
入院中の患者の、何に注意して“予防策”を考えるべき?
〈目次〉
- はじめに
- 転倒予防策の第1歩:患者の情報を得て、状態を把握する
- 転倒予防策の第2歩:抱える問題点に対応した転倒予防策の立案
- 転倒予防策の第3歩:転倒予防フローチャートの使用
- 転倒予防対策チャートを“たたき台”に、最善の検討を行う
はじめに
入院という新しい環境下での生活や日課に対して、誰でも順応できるわけではありません。高齢の患者にとっては、なおのことです。
また看護をする私たちも、入院して間もないころの患者については、以下のような個人についての理解が十分ではありません。
- どのタイミングでトイレに行くのか
- 夜間の排泄回数はどのくらいなのか
- 食後はどのように過ごすのか
- 楽しみにしていることは何なのか
よって、まずは情報を得ることが転倒防止のための第一歩となります。
転倒予防策の第1歩:患者の情報を得て、状態を把握する
転倒予防のために得ておきたい情報として、「移動能力レベル」「姿勢保持障害の有無」「寝返りの可否」「認知症状の有無」などが挙げられます。これらを家族などから情報収集することによって、情報を得ます。
認知症・精神症状・意識障害(認知症状) のある患者は突発的で予測不能な行動をとり、通常の転倒防止策では予防できないため、外傷予防(プロテクター装着や転倒予防ソックスの着用など)が必要となることから、これらの有無も確認します。
転倒予防策の第2歩:抱える問題点に対応した転倒予防策の立案
当院では平成16年度厚生労働省精神・神経疾患研究委託費「政策医療ネットワークを基盤にした神経疾患の総合的研究」班7施設の1つとして、神経疾患入院患者の転倒調査を行いました(1)。
調査の結果より転倒事例を分析し、入院患者に対する転倒予防対策①~⑬ を立案しました(表1、表2)(1)。
運動症状のみの場合と運動症状に加えて認知症・精神症状・認知症状のある場合に分けて表記を行いました。これにより、後者の患者に多い突発的な行動を考慮した対策の適切な実施が可能となりました。
転倒予防策の第3歩:転倒予防フローチャートの使用
当院では、“13の転倒予防対策”をもとに、転倒予防対策フローチャートを考案しました(図1)(2)。以下にその使い方を示します。
- 各問題点で挙げられた対応策はすべて行う必要はない
- 患者ごとに転倒のきっかけとなりそうなことを検討し、「現時点で必要か否か」で判断する
フローチャートの使い方①:移動能力別に3分割する
転倒予防対策フローチャートは第1段階として、対象者を移動能力レベル別に「独歩可能」「歩行や起居動作に介助が必要」「臥床状態」の3つに大きく分けます。
フローチャートの使い方②:3つの判断基準から13の 転倒予防対策案に振り分ける
①で分割したあとは、それぞれ「姿勢保持障害の有無」「寝返りの可否」「認知症状の有無」という3項目によって再度分類します。その結果を①~⑬ の転倒予防対策を組み合わせて使用します。
転倒予防対策チャートを“たたき台”に、最善の検討を行う
転倒が起きてしまったら、患者自身に「何か、したいことがありましたか?」と尋ね、その内容に応じて転倒予防対策を検討します。
転倒予防対策フローチャートはあくまでもたたき台であり、すべての番号の対策があてはまるわけではありません。転倒につながるきっかけ(未遂だった事案などをもとに)などによって「不要」と判断できれば、対策案を絞り込むことができます。
「おむつが濡れて気持ち悪いからトイレに行こうとした」など、患者のそのときの行動の理由を聞き出して、できるだけそれに応えられるようにあらかじめ排泄誘導をしたり、次に転ばないようにどうしたらいいかを患者と一緒に対策を考えたりしていくことも大切で、患者に合わせた対策の修正・追加を行う必要があります。
また、認知症がない患者には、ご家族も含めて「どうしたら転倒しなくなるのか一緒に考えましょう」と提案して実行してみるなど、「患者・家族参加型」も効果が期待できます。
[引用文献]
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P.94~97「入院中の患者の、何に注意して “予防策”を考えるべき?」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年9月号/ 照林社