パーソナリティ障害|一般病棟でもよく出会う精神疾患・症状の基礎と対応のヒント

『エキスパートナース』2014年10月号<精神症状への対応>(照林社)より抜粋し転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
一般病棟でもよく出会う精神疾患のひとつ、パーソナリティ障害について、基礎知識と現れやすい症状への対応をまとめました。
治療の場での精神症状へのかかわり方』で解説した基本的なかかわり方を、実際に現場で、どのような言葉かけで生かしていけばいいのかを紹介します。

 

宮内倫也
可知記念病院精神科

 

〈目次〉

 

パーソナリティ障害の基礎知識

パーソナリティ障害はいろんな種類がありますが、共通するのは“つらい感情を感情として抱えられず、言葉でなく行動で表現してしまうこと”です。悲しみや不安を、リストカットや行きずりの性交渉や薬物依存などで表します。

 

こういったことを“行動化”と言いますが、そのようにしか人生の苦しみに対処できないんだなという理解が必要。

 

看護で困る代表格の境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder、BPD)の患者さんは、感覚が繊細な人たちで、他人の何気ない発言や行動を深読みして対人関係に難をきたします。わかってくれる人を探し求め、すがって傷ついて……の繰り返し。結果的に医療者を振り回すことになります。

 

ただ、パーソナリティ障害という診断をつけることは、慎重にすべきであるのは言うに及びません。

パーソナリティ障害

 

パーソナリティ障害の薬剤治療の進み方

薬剤治療は難しいですが、抗うつ薬(特にSSRIやSNRI*1)やベンゾジアゼピン系は、衝動性を増すため推奨されません。気分安定薬少量の抗精神病薬が用いられます。

 

メモ*1SNRI

serotonin-noradrenaline reuptake inhibitor、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬。

 

パーソナリティ障害の経過観察とアセスメントのポイント

特にBPDの患者さんは“不安定のなかに安定している”と言われます。ちょっとしたことで感情が定まらなくなるのだという認識をもち、変化があっても、こちらが「どうしよう!」とあわてふためかないことが第一歩。

 

パーソナリティ障害の対応のポイント

後述しますが、不安定な患者さんに対しては、医療者が安定した態度で接するのが大原則です。

 

また、BPDの患者さんの特徴を知らないと、治療チーム内でケンカが勃発しバラバラになってしまいます。方針を統一するためにもこまめなカンファレンスが必要でしょう。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:自傷などの行動化があったとき

行動化のプラス面も認めたうえでかかわる

行動化にはよい面もあります。虚しさを和らげるとか、より強い行動化になるのを食い止める(親を殴る代わりに壁に穴を開ける、など)といったプラスの意味に注目を。

 

しかし、現実には自身を傷つけて、長期的に見るともっと深い無力感に襲われるなどがあります。

 

「あなたにとってはこういうプラスがあるのは事実で、そうやってつらい毎日を何とか生き延びてきたんですね」とまずはプラス面を認識したうえで、「一方で、自分の身体を傷つけているし、長い目で見てちょっと“やってしまった”と後悔したり、周りから白い目で見られたりすることもあったのではないでしょうか」と、ループの図(図11を説明しながら伝えます。道徳的や感情的に行動化のことを言うのはよろしくありません。

 

図1境界性パーソナリティ障害(BPD)で見られる悪循環

境界性パーソナリティ障害(BPD)で見られる悪循環

 

そして「私はあなたに、しないでほしいと思っています。入院環境はループから出るきっかけになると思います」と率直に伝えましょう。言葉で限界設定*2を行うのです。

 

メモ*2限界設定(リミットセッティング)

「ここまではよい」「ここからはダメ」という枠を決めること。こちらでカチッと枠を決めることで安定化を促す方法で、医療チームの方針をブレなくする役割ももつ。

 

ナースにできることは“感情”の認証

ただ、ここまでは主治医が設定すべきだと思います。

 

ナースの皆さんは行動化に遭遇したとき、行動するに至った感情を「どんな気持ちだったんだろう」と聞いてみましょう。そして、その感情はどんなものであれ認証します

 

行動には「先生の言葉を忘れないでね」「身体を大事にしてほしい」などと伝えてみます。

 

行動化は複数回なされるでしょうが「またやったの!?」「何度も言ったでしょ!?」という言葉は禁忌です(ぐっとがまん)。1回1回を、初回と同じように接しましょう。

 

精神科以外の一般病棟は開放病棟ですから、限界設定は言葉で行うしかありません。

 

精神科に相談しながら、場合によっては患者さん自身の代わりに閉鎖病棟の壁にコントロールしてもらわねばならないときもあります。

 

ここが大切!

  • 行動化に至る“感情”を認証しましょう。
  • 「また!?」という言葉や態度は禁忌です。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:極端に好意的な態度や攻撃的な態度をとられたとき

「あなたしか頼れる人はいないの!」という“理想化”と、「そんな人だったなんて、サイテー!」という“価値下げ”がめまぐるしく生じます。

 

数時間でコロコロ変わることもまれではありません。みんな振り回されてしまい、医療チーム内にも亀裂が入ります。

 

好意的な態度を寄せられると悪い気はしませんし「何とかしてあげたい」と思わせますが、特別扱いはダメです。“あくまでも職業として接している”ということを伝えましょう。

 

また、ちょっとしたことで被害的になりいきなり攻撃的になることも多く、医療者は混乱します。しかしそれに対しても、変わらない態度で接すること。つられてしまうと火に油を注いでしまうので、理想化に対しても価値下げに対しても、一定で変わらない医療者というのをキープします。

 

患者さんと話をする場所も固定しておいたほうがいいです。患者さんは不安定な人生を送ってきていますから、話す場所や医療者の態度を安定させることが重要になってきます。

 

ここが大切!

  • つられると火に油を注ぎます。
  • 医療者として常に一定の態度で応えましょう。

 

(illustration:江田 ななえ)

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)神田條治,他:うつ病治療-現場の工夫より-.メディカルレビュー社,大阪,2010.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

P.83~「治療の場での精神症状へのかかわり方」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2014年10月号/ 照林社

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