身体表現性障害|一般病棟でもよく出会う精神疾患・症状の基礎と対応のヒント

『エキスパートナース』2014年10月号<精神症状への対応>(照林社)より抜粋し転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
一般病棟でもよく出会う精神疾患のひとつ、身体表現性障害について、基礎知識と現れやすい症状への対応をまとめました。
治療の場での精神症状へのかかわり方』で解説した基本的なかかわり方を、実際に現場で、どのような言葉かけで生かしていけばいいのかを紹介します。

 

宮内倫也
可知記念病院精神科

 

〈目次〉

 

身体表現性障害の基礎知識

身体の症状はあれど、内科的外科的な検索をかけても原因が十分にわからないものを、身体表現性障害と言います。

 

医学がさらに進歩したら原因がわかるかもしれませんが、現段階では精神科の範疇。「気のせい」と言われて患者さんが納得いかず、ドクターショッピングをするというのが典型でしょうか。

 

なお、身体表現性障害は、アメリカ精神医学会の診断基準の最新版DSM-5では名称が“身体症状症”に変わり、身体疾患の有無にこだわらなくなって、身体症状とそれに伴う思考・感情・行動のズレに重きを置くようになりました。

身体表現性障害

 

身体表現性障害の薬剤治療の進み方

痛みに鎮痛薬や鎮痙薬、動悸にβ遮断薬など、対症療法的な薬剤も、使いすぎなければ悪くないかと思います。

 

ベンゾジアゼピン系は使わないのが理想的で、身体の症状は慢性化しやすく長期投与は好ましくありません。SSRI*1などの抗うつ薬も治療に使われるものの、患者さんは副作用にとても敏感で注意が必要です。

 

*1【SSRI】=selective serotonin reuptake inhibitor、選択的セロトニン再取り込み阻害薬。

 

身体表現性障害の経過観察とアセスメントのポイント

患者さんの訴える症状は軽視しないこと。症状に見合う身体的な原因があるかどうかというのは必ず確認しましょう。身体表現性障害の患者さんも身体疾患を発病することは当然あるので、全部を「気のせい」にすると大変な目に遭うことがあります。

 

後述しますが、診察を行うことも重要です。“手当て”という行為は、まさに手を当てることから始まります。

 

身体表現性障害の対応のポイント

患者さんは抱えきれないつらさを、こころが破れないように身体の症状として表出せざるを得ない状況にいます。よって日常生活や人間関係を少しでもゆとりあるものにしていくのが目標ですが、なかなかその苦しさを語らないことも多く、かかわりは難渋します。

 

こちらも症状以外のみに重心を置きすぎることは避けること。理由はどうであれ患者さんは身体の苦痛があり、そこへの医学的な関心を示すことが重要です。

 

こんなとき、ナースに何ができる?:器質的な原因が見つからない身体症状を訴えるとき

事例:患者さんの視点を、“あせり”から“ゆとり”にずらす質問法

Dさんは器質的な原因が否定された腹痛を訴えています。

 

  • Dさん:「ぎゅっとして痛むんです。異常はないって言われたんですけど……」
  • Ns:「異常はないと言われたけど、ぎゅっと痛くなるんですね。痛くなるとどういう気持ちになりますか?」
  • Dさん:「何かあるんじゃないかなって。異常がないと治しようがないのかなって」
  • Ns:「何かあるのか、原因がわからないとなかなか手が打てない」
  • Dさん:「はい。だから不安になってお腹に神経が行っちゃいます」
  • Ns:「確かに原因がわからないと不安になりますね。無理もないと思います。ひょっとして、神経が行くと痛みがまた来るんじゃないかって思いませんか?」
  • Dさん:「そうなんです。そしてやっぱり痛くなって……」
  • Ns:「神経が行くと痛みが出てくる」
  • Dさん:「そうなの。なんでかしら」
  • Ns:「神経が行くと緊張して腸とかの動きが滞るから、それで痛みが強くなるかもしれませんね」
  • Dさん:「そうなんですか」
  • Ns:「寝てるときは痛みで飛び起きたり?」
  • Dさん:「寝てるときは大丈夫なんです」
  • Ns:「睡眠は人間が一番リラックスしてる状態だからかもしれませんね。そういえば、この前は温めると少し楽って言ってましたね」
  • Dさん:「そう。湯たんぽでね」
  • Ns:「温まると神経の緊張がほぐれるから、それで痛みも軽くなるのかもしれません」

 

このように患者さんの言葉をうまく繰り返して“聞きの姿勢”をつくり、かつ、もっともらしい(?)説明を加えて、患者さんが気づかないところで“緊張”しており、それを“リラックス”させると症状緩和につながることを説明します。

 

そのために生活の中で“ゆとり”を得ることが大事だというのを患者さんと一緒に話し合っていき、視点を症状にとらわれた世界から、日常生活の場にずらしていきます。

 

この疾患に限ったことではないですが、質問も押しつけがましくならないように「ひょっとして……」「もしかしたら……」などの言葉を添えます。

 

そして、身体にも注目している証として診察も行いましょう。実況中継しながらの方法がよく「今、腸の動きの音を聴いています。しっかり動いてるみたいですよ」などと伝えます。

 

そうやって生活の中の“ゆとり”への注目と、身体症状そのものへの配慮との両方を扱っていきます。

 

ここが大切!

  • 身体症状そのものへの配慮をしながら、生活の中の“ゆとり”に視線をずらして。
  • 質問は「もしかしたら……」と前置きして、押しつけがましくならないように。

 

(illustration:江田 ななえ)

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

P.83~「治療の場での精神症状へのかかわり方」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2014年10月号/ 照林社

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