筋力トレーニングは、呼吸器疾患患者に対して有効なの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「呼吸器疾患患者に対する筋力トレーニング」に関するQ&Aです。
下地大輔
東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科
筋力トレーニングは、呼吸器疾患患者に対して有効なの?
COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者への筋力トレーニング
呼吸器疾患患者に筋力トレーニングを行う根拠として、COPD(慢性閉塞性肺疾患)*患者に対する効果が挙げられる(表1)。運動耐容能の改善に効果が期待でき、COPD患者における予後との関連性も報告されている7。
エビデンス | 効果 |
---|---|
A | 運動耐容能の改善、呼吸困難感の軽減、健康関連QOLの向上、COPDによる上肢機能の改善 |
B | 上肢の筋力と持久力トレーニングによる上肢機能の改善、効果はトレーニング終了後も持続、生存率の改善 |
C | 呼吸筋トレーニングは特に全身運動トレーニングと併用すると効果的、心理社会的介入療法は有用 |
|
筋力トレーニングを行う際、栄養状態の評価が必要である。特にCOPD患者では、%IBW(%標準体重)*より低い患者が約90%を占めるとされる8。このような低栄養の呼吸器疾患患者に対する負荷の高い筋力トレーニングは、タンパク異化を助長させる恐れがあるため注意が必要である。
重症呼吸器疾患患者に対する適切な栄養療法は、いまだ明らかになっていない9が、筋力トレーニングは栄養状態を判断しながら低負荷から開始し、コンディショニングとADLトレーニングを併用して進めることが推奨される。
- COPD(chronic obstructive pulmonary disease):慢性閉塞性肺疾患
- %IBW(% ideal body weight):%標準体重
[文献]
- (1)Scanlan CL, et al. Bronchial hygiene Therapy Fundamental of Respiratory Care(Wilikins RL), Mosby, St.Louis, 2003: 883-910.
- (2)山川梨絵, 横山仁志, 武市尚也, 他 : Cough-Peak-Flow測定の信頼性と妥当性. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌2012; 22(1): 110-114.
- (3)山科吉弘, 田中一行, 増田崇, 他 : 姿勢が咳の最大流量(Cough Peak Flow)に与える影響. バイオフィリアリハビリテーション研究 2012; 7: 1-5.
- (4)日本呼吸ケア・リハビリテーション学会, 日本呼吸器学会, 日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会編:呼吸リハビリテーションマニュアル─運動療法 第2版.照林社,東京,2012.
- (5)Levine S, Nguyen T, Taylor N, et al. Rapid disuse atrophy of diaphragm fibers in mechanically ventilated humans. N Engl J Med 2008; 358: 1327- 1335.
- (6)Martin AD, Smith BK, Davenport PD, et al. Ispiratory muscle strength training improves weaning outcome in failure to wean patients: a randomized trial. Crit Care 2011; 15: R84.
- (7)Marquis K, Debiqare R, Lacasse Y, et al. Midthigh muscle cross-sectional area is better predictor of mortality than body mass index in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med 2002; 166: 809.
- (8)厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班 : 栄養評価法.呼吸不全-診断と治療のためのガイドライン.メディカルビュー社, 大阪, 1996: 64-73.
- (9)Stapleton RD, Jones N, Heyland DK. Feeding critically ill patients: what is the optimal amount of energy?. Crit Care Med 2007; 35: S535-540.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社