人工呼吸中の鎮静管理のポイントは?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「人工呼吸中の鎮静管理」に関するQ&Aです。

 

植村 桜
大阪市立総合医療センター看護部

 

人工呼吸中の鎮静管理のポイントは?

 

過剰鎮静による弊害を避けるため、「analgesia-based sedation」の考え方に沿った鎮静管理を実施します。

 

〈目次〉

 

人工呼吸中の鎮静管理

近年の鎮静管理は、過剰鎮静による弊害を避けるため、十分な鎮痛を基盤として、早期に鎮静を中止するか必要最低限の浅い鎮静状態を目標とする考え方(analgesia-based sedation)が主流となっている。

 

人工呼吸中の過剰鎮静を避ける方法として、PS(鎮静スケールを用いてプロトコール化された鎮静管理)、DIS(1日1回鎮静を中断する鎮静管理)が推奨されている。

 

十分な鎮痛管理を実施することで、鎮静薬を使用しない無鎮静管理も実施されている。

 

鎮静薬の減量や中止は、興奮や不穏を助長する可能性があるため、十分な監視下で実施する。

 

浅い鎮静によりストレス反応の増加が懸念されるが、PADガイドラインでは心筋虚血との関連は否定されている。急変への備えは必要であり、十分なモニタリング下で実施する。

 

SBT(自発呼吸トライアル)の実施や抜管時には、鎮静効果の遷延に注意する。

 

過少鎮静の徴候には、興奮・不穏、不快感・不安の増強、人工呼吸との不同調などがあり、鎮静の目的が達成されているか継続して評価する。

 

睡眠障害のある患者では、持続鎮静を日中に中断するなど、鎮静に日内変動をつけることで概日リズムを保ち、睡眠・覚醒リズムを確保することも重要である。

 

Column概日リズムって?

概日リズム(circadian rhythm:サーカディアンリズム)とは、1日のリズムを調整する約24時間周期のメカニズムである。ヒトは、この概日リズムによって、身体の働きを昼夜の環境変化に適応させている。

 

概日リズムが崩れると、昼夜逆転(睡眠-覚醒リズムの混乱)が生じる。概日リズムの混乱に影響する因子は、ストレス(痛みや不安など)、非生理的・非日常的環境の持続などである。

 

鎮痛・鎮静下で人工呼吸器を装着している患者は、重症で多大な生体侵襲が加わっているだけでなく、非生理的な状況に置かれている。そのため、概日リズムの混乱が生じやすい状況にあることを理解したうえで、ケアを行うことが重要となる。

 

概日リズムを整えるケアの例
  • 身体的苦痛・ストレスの緩和
  • 環境の調節(光、音、温度、医療機器)
  • 夜間のケアによる刺激を避ける(夜間は最低限のケアとし、一度にまとめて行う)
  • 夜間の経管栄養は避ける
  • 睡眠導入のための体温調節・湿度管理
  • 時間感覚を維持する
  • 日中の活動(リハビリテーション、清潔ケア、日中に日光を浴びるなど)
  • 家族・友人の協力を得る(面会など)
  • 可能ならば、日中は覚醒状態を保ち、夜間は十分な睡眠がとれるような鎮静薬の増減も考慮する(患者の状態による)

道又元裕  
(杏林大学医学部付属病院看護部長)  

 

略語

 

  • PS(protocolized sedation)
  • DIS(daily interruption of sedation):毎日の鎮静中断
  • SBT(spontaneous breathing trial):自発呼吸トライアル

[文献]

  • (1)日本集中治療医学会:ICUにおける鎮痛・鎮静に関するアンケート調査. 日集中医誌2012;19:99-106.
  • (2)日本呼吸療法医学会人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン. 人工呼吸2007;24:146-167.
  • (3)Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al. Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation,and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med 2013; 41: 263-306.
  • (4)飯田有輝, 坪内宏樹:ICU患者の早期運動療法の効果. ICUとCCU2012;36:407-413.
  • (5)臼杵理人, 松岡豊, 西大輔:集中治療室における急性ストレス障害(ASD)と心的外傷後ストレス障害(PTSD). ICUとCCU2012;36:181-187.
  • (6)古賀雄二, 若松弘也:ICUせん妄の評価と対策:ABCDEバンドルと医原性リスク管理. ICUとCCU2012;36:167-179.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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