医師がよく言う蠕動痛(ぜんどうつう)って どうやって判断するの?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「蠕動痛」に関するQ&Aです。
出口惣大
大阪市立総合医療センター消化器外科
清水貞利
大阪市立総合医療センター肝胆膵外科副部長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
医師がよく言う蠕動痛ってどうやって判断するの?
一般的に蠕動痛とは食後のしぼり込むような、時にフワッと和らぐことがある痛みです。
〈目次〉
蠕動痛は内臓痛と体性痛のどちらに分類される?
腹痛には、消化管の収縮や伸展などによって起こる内臓神経を介して感じる内臓痛と、内臓をとりまく腹膜や腸間膜に分布している知覚神経が刺激されて起こる体性痛があります。蠕動痛は内臓痛に含まれ、腸管が蠕動運動をすることによって生じる腹痛を指します。
特に腹部手術では、術後一時的に腸管麻痺が生じますが、しだいに蠕動が始まります。術後は知覚過敏となっているうえ、腸管浮腫となっているため、腸管壁が蠕動によって引き伸ばされて蠕動痛が生じます。蠕動に合わせて生じるため、増悪寛解を繰り返す間欠痛となります。また、痛みの部位を触診しても圧痛を認めないことがあり、腸が動き出しているため聴診でも腸蠕動音を聴取できます。蠕動痛は術後問題がなければしだいに収まりますので対症療法で問題ありません。
注意が必要な腹痛とは?
術後の腹痛には蠕動痛や創部痛など、病態には問題がなく鎮痛薬を用いて対応してよい腹痛と、合併症による容態の悪化が考えられる腹痛があり、注意が必要です。
例えば、臓器に血流障害をきたしている場合や、縫合不全などで腹膜炎をきたしている場合(図1)では早急に治療が必要となりますが、そのときに見られる腹痛は体性痛に分類されます。持続性の痛みであり、圧痛点が明確なことが多く、腹壁は硬く反跳痛を認めることもあります。腸管の蠕動運動は麻痺していることが多く、聴診では腸蠕動音は減弱もしくは消失します。また、他の所見としては苦悶様の表情になり、身動きがとれず、冷感、発熱を認めることもあります。
このような危険な腹痛を認めた場合は、ただちに原因を診断しなければならないため、見逃してはなりません。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社