乳がんの「トリプルネガティブ」について看護師が知るべき知識

乳がんの中でも治療が難しい、「トリプルネガティブ」をご存知でしょうか。

 

日本では12人に1人の女性が、乳がんを発症するといわれています。最近では、市川海老蔵さんの妻、小林麻央さんが乳がんを患い、1年8カ月以上も前から闘病生活を送っているというニュースに衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。

 

トリプルネガティブとは、ホルモン療法・分子標的療法での治療が難しい乳がんのことです。

治療の幅が狭くなるトリプルネガティブは予後が悪いといわれています。がん細胞に効果のある抗がん剤を見つけるためにいくつも抗がん剤を試さなくてはならなかったり、精神的に追い詰められたりすることもあります。

 

しかし、どのような状態であっても、予後をどう生きるのかということが重要です。その患者さんの選んだ生き方を患者さんにひとりひとりに合わせて支援していくことが、私たち看護師に求められる役割です。

 

しかし、トリプルネガティブや進行がんについては、広く認識されていない現状があります。

患者さんに接する看護師として、女性として、知っておくべき乳がんの知識をまとめました。

 

「トリプルネガティブ」について看護師が知っておくべき知識

【目次】

 

治療の難しい乳がん「トリプルネガティブ」とは

 

乳がんのトリプルネガティブって何?

まず、私たちの身体の細胞は、あらゆるホルモン(鍵)が、適合するホルモン受容体(鍵穴)を持つ標的細胞に働きかけることにより機能しています。

がん細胞も同様で、それぞれが持つホルモン受容体によって、性質や特徴が変わります。それを調べることで治療方針が決まります。

 

乳房のがん細胞がエストロゲン受容体プロゲステロン受容体の両方、またはどちらか一方を持っている場合は、ホルモン依存性の高い乳がんと診断されます。この場合、ホルモン療法により女性ホルモンの作用を阻害させたり、分泌量を減少させたりすることによりがん細胞そのものの増殖を妨げ、がん細胞を死滅させて腫瘍を小さくする治療が積極的に行なわれます。

 

しかし、どちらのホルモン受容体も持たないがん細胞の場合は、ヒト上皮成長因子受容体2(HER-2)という細胞の増殖を調整している遺伝子タンパクが過剰または活性化しているかを調べます。HER-2に遺伝子変異や増幅がおこると正常な細胞を悪性化させると考えられています。このような場合は、遺伝子組み換えによってつくられたHER-2受容体を標的に作用し、がん細胞の増殖を妨げる効果のあるトラスツズマブによる分子標的療法が選択されます。

 

多くの乳がんはこの3つの受容体(トリプル)のうちの1つまたは複数を持っていますが、どの受容体も持たないがん細胞があります。それがトリプルネガティブです。上に挙げた治療に効果を示さないため、「難しい乳がん」といわれるのです。

 

若いと進行が早いの?進行がんとは

進行がんとは、発見された時点でがんが粘膜よりも深いところまで進行している状態のことをいいます。粘膜は血管やリンパ管が少なく、転移している可能性が低くなります。しかし、粘膜より深く血管やリンパ管に富む筋組織にまでがんが達してしまうと、転移している可能性を考えて治療する必要が出てきます。

よく若い方の細胞は活発で増殖スピードが早いため、進行が早いといわれます。

しかし、必ずしもそうとは限りません。進行スピードは、がん細胞の分化度によって違いが出てきます。

 

がん細胞には、高分化がん、低分化がんがあります。高分化とは正常な機能を多く持ったがん細胞のことをいい、低分化は正常な細胞よりも未熟な状態のがん細胞のことをいいます。高分化は私たちの身体の正常な細胞に似ているため、正常な細胞と同じくらいのスピードで分裂、増殖していきますが、低分化は細胞として成熟しなくても未熟なまま分裂、増殖することができます。そのため、低分化のがん細胞の方が増殖能力が高く、進行がんといわれることもあります。

 

また、若い方に発症しやすいがんに低分化がんが多いことや、若いからこそ病院に行く機会が少なく発見が遅れるため、早い段階で末期がんになってしまうために、若い方が進行が早いと感じられるようです。

 

乳がん治療のメインとなる3大治療

乳がんがトリプルネガティブであっても、進行がんであっても、治療方法は

・手術療法

放射線療法

・薬物療法

が主になります。

 

腫瘍が大きい場合や、すでに小さな転移がみられるような場合は、術前に効果のある抗がん剤やホルモン剤などを使用してできるだけ腫瘍を小さくすることにより、手術療法の効果を高めます。そして、術後には元々の腫瘍の状態や手術の際に得た情報を元に、再び薬物療法や放射線療法を行なって、限りなくがん細胞がゼロに近い状態まで治療して再発や転移を防ぎます。

 

予後の悪い乳がん患者さんの無治療という選択

トリプルネガティブや進行がん、発見が遅くなった乳がんが、必ずしも予後が悪いわけではありません。どのような状態であっても、治療がうまくいくケース、治療をしても予後が悪いケースがあります。

 

予後が悪い場合、「もう治療をしない」という選択をする患者さんもいます。

 

がんの3大治療の中でも、長い時間を要する薬物療法は、正常な免疫細胞まで減少させてしまうため、免疫力の低下に伴う感染症吐き気、脱毛などの副作用が強く、常に副作用に負けない体力と精神力が必要です。さらに、慣れない病院生活を強いられることや大切な家族と離れて過ごさなければならない不安や寂しさなども加わります。そのため、がんを治す目的である治療自体が予後を悪くしてしまうことがあります。

 

患者さんは医師から治療のメリット・デメリットの説明を受け、治療、または無治療を選択します。

看護師は、治療の支援だけでなく、無治療の選択をする場合の支援も実施する必要があります。

 

このときいちばん大切にしなければならないのは、患者さん本人の意思です。周囲に惑わされず、患者さんがこれからの生き方を自分の意思で決められるよう決断を焦らすことなく見守るという支援も必要です。

 

がんの治療をせず、自然療法に頼った結果、がんが消えたという奇跡のような話もありますが、無治療であればいつかは必ずがんが進行し、転移を繰り返しながら、最期を迎えるときが来ます。それでも、1日でも長く患者さんが自分らしい生き方ができるよう支えなければなりません。

 

そのためには、その都度患者さんが求める、患者さんにとって必要な支援をしていきます。

 

人それぞれ、性格や価値観が違うように、がん患者さんとの関わり方もみな同じではありません。だからこそ、患者さんの思いを汲み取り、患者さんに合う関わり方を導き出すことが必要なのです。

 

※2019/9/24 記事内容の一部に誤解を招く表現がありましたので、修正しました。
 

【ライター:こたつむし】

 

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