輸血を行う前に交差適合試験を行わなければならないのはなぜ?
『根拠から学ぶ基礎看護技術』より転載。
今回は交差適合検査に関するQ&Aです。
江口正信
公立福生病院診療部部長
輸血を行う前に交差適合試験を行わなければならないのはなぜ?
血液型不適合などによる、輸血副作用を防ぐためです。
〈目次〉
輸血前に交差適合試験を行なうのは
輸血は、ひとつ間違うと人の生命をも脅かす重大な過誤を引き起こしかねないものです。
また、自己以外の血液が非経口的に体内に入るため、多少の副作用は起こりますが、それを最小限度にするために交差適合試験が行なわれています。
交差適合試験とは
輸血に際しては、ABO式およびRh式血液型で、患者と同型の供血者を選んで行ないます。血液型には、それ以外にも、Lewis式、MNSs式、Duffy式、P式などがあり、血液型には約45万種の組み合わせがあるといわれています。
したがって、他の血液型に対する抗体が受血者または供血者に存在するときには副作用の危険があります。しかし、このような不規則性抗体が存在しても、供血者の赤血球または受血者の赤血球に、これと反応する抗原がなければ副作用は起こりません。
したがって、図1に示したように、輸血前には受血者の血清中に供血者の赤血球と反応する抗体が存在しないか、また、供血者の血清中に受血者の赤血球と反応する抗体が存在しないかを検査しなければなりません。これを交差適合試験といい、前者を主試験、後者を副試験としています。
主試験─受血者血清+供血者血球
副試験─受血者血球+供血者血清
この2つの組み合わせで交差適合試験を行ないます。また、1人の受血者に複数の供血者の血液を輸血する場合には、各々の供血者の血液について交差適合試験を行なう必要があります。
この際、血球抗原と血清の反応は温度や液相によって異なるため、生理食塩液法(生食液法)だけでなく、アルブミン法、ブロメリン法、クームス法などを併用するのが望ましいといわれています。
主試験および副試験で、凝集または溶血が起こらない場合は適合血液であるため輸血してもかまいませんが、凝集または溶血が起こった場合には不適合血液であるため、この供血者の血液は輸血できません。
ABO式血液型の異なる血液間で、交差適合試験を行なうと、必ず主・副試験のいずれかで凝集または溶血が起こるので、交差適合試験はABO式血液型を再確認するという意義ももっていることになります。
血液型検査とは
血液型の検査を行う場合、ABO式、Rh式の両方をセットで検査します(図2 )。
ABO式の輸血型検査では、血液中の赤血球上の抗原を調べる「おもて試験」と、血清中の抗体を調べる「うら試験」を行い、両方が一致することで血液型を判定します。
Rh式の血液型では、最も抗体を産生しやすい(免疫原性が強い)のがD抗原で、そのため抗D血清により、D抗原陽性(Rh+)、D抗原陰性(Rh-)を判定します。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術』 (編著)江口正信/2015年3月刊行/ サイオ出版