リンパ節鉗子|鉗子(8)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、『リンパ節鉗子』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方については様々な説があるため、内容の一部については、筆者の経験や推測に基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

 

〈目次〉

 

手術中にリンパ節を把持するための専用鉗子

リンパ節を安全に、やさしく把持できる

リンパ節鉗子は、その名のとおり、リンパ節を把持することに特化した鉗子です。

 

ほかの鉗子と同様に形状はΧ型の鉗子です。リングに指をかけて、先端部でリンパ節を把持します。ターゲットとなる組織を、安全に、やさしく組織を把持できることが特徴です。

 

現在、「リンパ節鉗子」と呼ばれている鉗子は、図1のように2種類あります。開腹手術や乳房切除術などで使用するステンレス製の一般的な鉗子(図1A)と、腹腔鏡や胸腔鏡などの内視鏡下で使用する専用の鉗子(図1B)です。

 

図1一般的なリンパ節鉗子と内視鏡用リンパ節鉗子

 

一般的なリンパ節鉗子と内視鏡用リンパ節鉗子

 

A:開腹や乳房切除などで使用する一般的なリンパ節鉗子。
B:腹腔鏡下で使用するリンパ節鉗子は、全体が長く、先端部(把持部)が小さい。

 

なお、本コラムでは、一般的なリンパ節鉗子について解説します。

 

脂肪組織からリンパ節を剥離するための重要な役割

リンパ節鉗子は、外科手術のなかでも、特に癌の手術で使用されます。リンパ節を把持することが目的のため、リンパ節郭清の場面で活躍する鉗子です。

 

使用方法としては、リンパ節鉗子でリンパ節を把持したまま脂肪組織などから剥離し、術野からリンパ節を取り出します。直接介助の看護師は、術野から取り出されたリンパ節を、リンパ節鉗子から取り出します。この取り出されたリンパ節が、迅速検査などに提出される検体となります。

 

リンパ節鉗子の使用用途は限られていますが、癌の手術において、極めて重要な役割を担っている鉗子です。

 

memo癌手術におけるリンパ節鉗子の重要性

もし、リンパ節鉗子ではなく、他の鉗子(例えば、ペアン鉗子やケリー鉗子)でリンパ節を挟んでしまったらどうなるでしょうか?

 

おそらく、リンパ節鉗子以外の鉗子でもリンパ節を挟むことはできますが、安全、かつやさしく挟むことができないでしょう。万が一、リンパ節を傷つけて、破ってしまうようなことがあれば、リンパ節の中に含まれている癌細胞を術野に放出してしまうことになります。また、リンパ節が破れてしまうということは、癌の広がりを調べることができなくなります。このようなリスクを回避するためにも、リンパ節鉗子の重要性はとても高いと言えます。

 

リンパ節鉗子の誕生秘話

19世紀末、リンパ節を郭清することで術後の治療成績が向上

世界中で外科学が大きく発展したのは、19世紀から20世紀初頭です。切除の術式が残るDr.ビルロートや、コッヘル鉗子を開発したDr.コッヘル、ペアン鉗子を開発したDr.ペアン、手術器具や医師の手指を消毒するべきだと説いたDr.リスターなど、今でもその名を残す優秀な外科医たちが、外科学を大きく発展させたのがこの時期です。しかしそれ以前は、胃切除でも乳房切除でも、リンパ節を郭清するという考えは一般的ではありませんでした

 

19世紀の終わり頃、Dr.ミクリッツとその弟子でドイツの外科医のDr.ボールマン(R.Borrmann)が、胃癌の深さやリンパ節転移の状態と胃癌の肉眼的形態との関連性を明らかにし、胃の切離線決定のポイントになると述べました。また、Dr.ボールマンは、1901年に発表した論文で、「胃癌手術には胃周囲リンパ節だけでなく、膵上縁リンパ節の郭清も重要」ということを初めて示したと言われています。この根拠は、「その方が、治療成績が向上したため」です。

 

一方、乳癌の手術でも重要となるリンパ節郭清は、1882年頃から始まったようです。当時はまだ大胸筋+小胸筋+リンパ節郭清という、大胆かつ広範囲の切除でしたが、リンパ節も併せて切除する(郭清する)ことによって、治療成績は飛躍的に改善したと言われています。

 

リンパ節を郭清する手技の普及に併せて開発された

外科学が大きく発展した19世紀末から20世紀初頭、「癌を切除するなら、周りのリンパ節も一緒に」という考え方も世界中に広まりました。リンパ節鉗子は、この時代の流れの中で、リンパ節を安全に、破壊せずに把持するための鉗子として開発されたのではないかと、筆者は考えています。

 

ところで、日本でも、1804年に世界で初めて全身麻酔による乳癌手術を成功させた華岡青洲という優れた外科医がいましたが、彼が使用していたといわれる手術器械の中には、残念ながらリンパ節鉗子と似た鉗子は見つかっていません。華岡青洲が活躍していた時代は、ヨーロッパでリンパ節郭清の考えが広まるよりも100年近く前のことですので、まだ「リンパ節」という考えが、無かったのかもしれませんね。

 

リンパ節鉗子の特徴

サイズ

一般的なリンパ節鉗子の場合、取り扱いメーカーにもよりますが、おおよそ21cm程度です。最近では、従来のものより長い、29cm程度のものもあります

 

腹腔鏡下で使用するリンパ節鉗子は、成人の手術を想定して作られている場合、全体の長さは40cm程度ありますが、先端のリンパ節をつかむ部分は、1~2cm程度しかありません。小児用の特殊なものは、全体で35cm程度、全体に細く(3mm前後)できており、先端部分も1cm程度です。

 

形状

先端部(リンパ節を把持する部分)は、リング状になっています。リング状の内側には滑り止めを目的とした突起や凹凸・溝(メーカーによって異なる)があります。どれも尖った部分がなく、安全に組織を把持することができます。

 

また、メーカーによっては、リング部の大きさや形状にバリエーションがあるものもあります。把持するリンパ節の大きさに合わせて、使い分けが可能です(図2)。

 

図2リンパ節鉗子の先端と先端部のバリエーション

 

リンパ節鉗子の先端と先端部のバリエーション

 

材質

コッヘル鉗子やペアン鉗子などと同様に、基本的にはステンレス製です。メーカーによっては、より高い硬度の13Crステンレスを使っていたり、 グリップ(術者が持つ部分)やラチェットが、テフロン樹脂や黒色クロムめっきなどでコーティングされているものもあります(図3)。

 

図3黒色クロムめっきで加工されたグリップ

 

黒色クロムめっきで加工されたグリップ

 

上の鉗子は黒色クロムめっきで加工されていて、下の鉗子は加工されていません。

 

memo黒色クロムメッキは判別するための目印

通常、黒色クロムめっきは、光が把持部や鉤などに反射しないように、術者の妨げにならないようにする目的で付けるものです。しかし、図3のようにグリップ部分に色を付ける場合は、器械を判別する目的の場合が多いようです。

 

同様に、グリップ部分を耐熱性の樹脂でカラーコートするメーカーもあります。

 

製造工程

リンパ節鉗子が製造される工程は、他のX型鉗子と同様です。素材を型押し、余分な部分を取り除き、各種加工と熱処理を行い、最終調整を行います。

 

価格

一般的なリンパ節鉗子は、数千円~1万円程度のようです。形状やサイズ、コーティング加工など何らかの特徴がある場合は、8万円以上の価格となっているものがあります。

 

寿命

リンパ節鉗子の寿命は、他の鉗子類と同様、単純に使用年数だけでは判断できません。どのくらいの頻度で使用しているのか、洗浄・滅菌などの過程での扱い方など、さまざまな要因で使用できる年数は変わってきます。

 

リンパ節鉗子の使い方

使用方法

リンパ節鉗子は、癌手術におけるリンパ節郭清時に使用されます。脂肪組織などから対象のリンパ節を剥離し、露出したリンパ節を把持します図4)。

 

図4露出したリンパ節を把持

 

露出したリンパ節を把持

 

血管の脇や脂肪組織の中などにあるリンパ節をリンパ節鉗子でつかみ、その周囲を電気メスや剪刃などで剥離します。

 

その後、リンパ節を把持した状態で、術野(ドクター)から直接介助の看護師の手元に戻ってきます。術野の状況によっては、リンパ節鉗子でリンパ節を把持しながら、周辺の剥離を行う場合もあります。

 

memoリンパ節を上手につかめない場合の対処法

リンパ節が大きい場合や、微細な血管やリンパ管ごと切除(郭清)する場合は、リンパ節と一緒に切除する部位の周囲を剥離し、その根元で結紮することもあります。

 

類似器械との使い分け

リンパ節鉗子と最もよく似ている器械は、バブコック鉗子やリンパ節鑷子です(図5)。

 

図5リンパ節鉗子と類似の器械

 

リンパ節鉗子と類似の器械

 

左:リンパ節鉗子、中:バブコック鉗子、右:リンパ節鑷子

 

バブコック鉗子は、腸管などの滑りやすい組織を把持することが主な使用用途の鉗子ですが、リンパ節を把持する場合に使われることもあります。使い分けの大きな線引きはありませんが、先端の形状が違うため、把持した時の使用感など、ドクターの好みによるところが大きいようです。

 

また、リンパ節を把持する用途の器械としては、リンパ節鑷子(ピンセット)という器械もありますが、こちらも使い分けの大きな基準はなく、ドクターの好みによるところが大きいようです。

 

禁忌

リンパ節を把持することが目的の鉗子のため、それ以外の用途で使用すると、鉗子の破損につながる恐れがあります。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

リンパ節を取り扱う時は細心の注意が必要

ドクターにリンパ節鉗子を手渡したということは、看護師の手元に戻ってくる時は、リンパ節を把持した状態です。そのため、看護師はドクターから戻ってきたリンパ節鉗子からリンパ節を外し、リンパ節番号などを整理・管理することが必要になります。これらの作業は、①リンパ節を傷付けることなく、②摘出したリンパ節を混同しないように、③感染予防に留意しながら、行わなければなりません。

 

また、この作業は何度も繰り返し行うため、手元に戻ってきたリンパ節鉗子は、またドクターに手渡せるよう、ドクターから器械出しの指示があるまでの間に使える状態にしておく必要があります。

 

さらに、リンパ節の中には、癌細胞が詰まっていると考え、不用意にリンパ節を傷つけたりしないよう、細心の注意を払いましょう。

 

memo手術では、ドクター、直接・関節介助看護師の連携が最重要

手術中の繰り返される流れをいかにスムーズに行うかは、ドクター、直接介助の看護師、間接介助の看護師の3者の連携にかかっています。特に看護師同士の連携は、手術の進行に大きく影響します。

 

リンパ節番号などの整理・管理やお互いの動きについては、施設内のマニュアルを確認したり、事前に直接介助の看護師と間接介助の看護師同士で方法や手順を打ち合わせておくとよいでしょう。

 

使用前はココを確認

先端部分の噛み合わせを確認しておきましょう。また、鉗子全体がスムーズに動くかどうかも確認しておきましょう。

 

術中はココがポイント

ドクターに手渡すときには、ラチェットを一段だけ留めて手渡します。そうすることでドクターは鉗子すぐに使うことができます。この際、「リンパ節鉗子です」と声を出して手渡しましょう。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄方法の手順は、下記(1)~(3)までは他の鉗子類の洗浄方法と同じです。

 

(1)手術終了後は、必ず器械のカウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落しておく
(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合、あらかじめ付着物を落としておく

 

(4)洗浄用ケース(カゴ)にはセットの器械と一緒に並べる

通常、リンパ節鉗子は胃切除術や乳房切除術など、リンパ節の郭清を行う癌手術で使用します。そのため、リンパ節鉗子はコッヘル鉗子やペアン鉗子、鑷子類などと一括りでセット化されている場合があります。この場合は、一緒にセット化されている鉗子などとともに、洗浄用ケース(カゴ)に並べて洗浄します(図6)。

 

なお、最初からのセットではなく、手術中に追加で使用した場合は、セット化されている器械とは分けて洗浄することもあります。

 

図6洗浄ケース内での並べ方例(リンパ節鉗子)

 

洗浄ケース内での並べ方例(リンパ節鉗子)

 

洗浄時は、開くことができるものは完全に開く、外せるものは外すのが基本です。
左上段より、コッヘル鉗子、モスキート鉗子、ペアン鉗子、長ペアン鉗子、マチュウ持針器リンパ節鉗子、アリス鉗子、クーパー剪刀(長)、クーパー剪刀(短)、ヘガール持針器。
左下段より、ミクリッツ鉗子、ケリー鉗子、腸鉗子、長鑷子、短鑷子。

 

滅菌方法

コッヘル鉗子と同様で、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。滅菌後は、高温になっているため、ヤケドに注意しましょう。

 

 


[参考文献]

 

 


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験

 


Illustration:田中博志

 

Photo:kuma*

 


協力:高砂医科工業株式会社

 


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