クーパー剪刀|剪刀(1)

手術室にある医療器械について、元手術室勤務のナースが解説します。
今回は、『クーパー剪刀』についてのお話です。
なお、医療器械の歴史や取り扱い方については様々な説があるため、内容の一部については、筆者の経験や推測に基づいて解説しています。

 

黒須美由紀

 

〈目次〉

 

組織を切離・剥離するためのはさみ

外科手術で使用されるはさみ

クーパー剪刀(クーパーせんとう:別名、クーパー)は、外科手術で使用される「はさみ」のことです。外科手術で使用されるはさみは数種類あり、その用途もそれぞれ分かれています。

 

一般的な外科手術用のはさみであるクーパー剪刀は、組織の切離はもちろん、剥離を行う際に活躍することの多いものです。また、縫合糸や結紮糸を切るときにも使われます

 

硬めの組織を切離・剥離することが得意

クーパー剪刀の先端部は、幅が広く、丸くなっているため、組織を傷つけません。そのため、鈍的な剥離操作に向いています

 

切離の際は、筋膜や靭帯など、比較的硬めの組織を対象に使用します。糸を切る時にもよく使われているため、多くの診療科の手術に使用されます。特に、外科の開腹手術や、筋膜や靭帯の切離・剥離操作が多い婦人科の手術時に活躍します。

 

memo曲型の刃先が特徴のクーパー剪刀

クーパー剪刀は、メイヨー剪刀と比べると先端部に丸みがあり、刃先は曲型(反型)です。メイヨー剪刀は、クーパー剪刀より少し先端部を細めにした形をしています(図1)。

 

図1クーパー剪刀とメイヨー剪刀の先端部の違い

 

クーパー剪刀とメイヨー剪刀の先端部の違い

 

①クーパー剪刀、②メイヨー剪刀

 

クーパー剪刀の誕生秘話

名前の由来はイギリス人の外科医

「クーパー」という名称は、開発者であるイギリス人外科医 クーパー(Astley Cooper:以下Dr.クーパー。1787年生誕、1868年没)に由来していると言われています。

 

Dr.クーパーは、19世紀初頭頃から活躍し、ヘルニアの治療に専念し、現在の「鼠径ヘルニア手術」の礎を築いた人物です。Dr.クーパーは、横筋筋膜の存在を発見し、その欠損こそがヘルニアの本体であることを証明しました。この発見によって、ヘルニアの治療が劇的に進歩したことから、近代ヘルニア学の始祖と言われています。

 

イギリスには同姓同名の“Dr.クーパー”が大勢いる

1800年代(19世紀)初頭のイギリスには、「Cooper」という名を持つ医師は、複数人いたようです。Astley Cooper以外にも、Abraham Cooper、Sir Astley Paston Cooper、Basil Henry Cooper、Bransby Blake Cooper…など。彼らは、医学論文を発表したという記録も残っています。

 

また、イギリスには、通称「クーパー」と呼ばれる自動車があります。イギリスでは、「クーパー」という姓は比較的多いのかもしれません。

 

鼠径ヘルニアの手術とクーパー剪刀

クーパー剪刀を開発したのは、実際には誰だったのでしょうか? 筆者はこの中でも、鼠径ヘルニアの手術の礎を築いたAstley Cooperが開発したのではないかと考えています。

 

鼠径ヘルニアの手術を思い浮かべてください。現在の外科医が剥離操作を行う場合、精索の周囲は、クーパー剪刀を使って剥離していきます。医師が自分の指を使って剥離することもありますが、基本的には鈍的な剥離です。時々、周辺組織を剥離するために、クーパー剪刀で「ちょん」とごく小さく切開することもあります。

 

Dr.クーパーは、横筋筋膜(transversalis fascia)の存在を発見し、その欠損こそがヘルニアの原因であることを証明した人物です。実際、鼠径ヘルニアを起こしている周囲の組織の1つに「クーパー靭帯」と呼ばれる組織があり、Dr.クーパーの名前が由来になっています。Dr.クーパーは、現在にもつながる手術手技を、確立させた人物であると言えるでしょう。

 

このDr.クーパーが、「もっとキレイに、鈍的な剥離ができる道具はないのか?」と考えて開発したのが、クーパー剪刀ではないかと、筆者は考えています。Dr.クーパーが活躍していた頃よりも前に使用されていた手術器械の中には、当然、剪刀類もありますが、刃の先端の形状はもっと尖った形をしているもの(眼科用剪刀が横に3倍くらい太くなった形状)が多く、クーパー剪刀ほど、鈍的な形のものはありませんでした

 

memo進化している鼠径ヘルニアの手術

現在では、鼠径部の筋層の隙間ができた部分(ヘルニア門)を、「メッシュ」や「プラグ」と呼ばれる網状の人工素材で塞ぐ手術が行われます。ここ数年、腹腔鏡による手術も多くなってきました。

 

クーパー剪刀の特徴

サイズ

取り扱いメーカーによって異なってきますが、最も一般的なサイズは14cm程度です。メーカーによっては、13~18cmのサイズまで揃えているところもあります。

 

また、深部操作時用に「ロングクーパー剪刀」と呼ばれる30cm近いサイズのものもあります。

 

形状

先端部の形状は、幅が広く、丸みがあり、メイヨー剪刀と比べると刃先が太く、やや薄めに研がれています図1)。

 

刃先は、鈍的なものや、鋭的(尖っている)なもの、曲がっている曲型(反型)や、真っ直ぐな直型(直剪刀とも呼ばれる)など、さまざまなものがあります。また、クーパー剪刀には、「ハズシ」と呼ばれる左右が外れるタイプと、外れないタイプのものがあります(図2)。

 

図2形状の異なるさまざまなクーパー剪刀

 

形状の異なるさまざまなクーパー剪刀

 

①鈍・直型・ネジ、②鈍・直型・外し、③鈍・反型・ネジ、④鈍・反型・外し、⑤尖(両尖)・直型・ネジ、⑥尖(片尖)・直型・ネジ。

 

なお、クーパー剪刀のように名前がついたものだけではなく、「両鈍(両方鈍的な刃)」、「片尖(一方のみ鋭的な刃)」、「両尖(両方鋭的な刃)」など、名前がなくても、その剪刀の特徴をそのまま名称にしているものもあります。

 

材質

他の剪刀類と同様に、一般的にステンレス製です。

 

製造工程

剪刀の製造には、非常に多くの工程があります。工程をごく簡単にまとめると、表1のように全11工程になります。

 

表1剪刀の製造工程

 

 

指を入れるための輪から、先端の刃の刃文までを形作る
輪の部分を切削する
はさみの刃の部分にねじれを加え、2本合わせた時に、刃同士が競り合うようにする
刃の部分を3~5段階に分けて、研磨する
焼き入れ処理を行う
さらに輪の部分などを研磨する
支点部分にねじり切りをする
2本のはさみ同士の視点をビスで固定する
特殊な電解液の中で電解処理を行う(温度や時間が決まっている)
輪の部分と刃の部分をさらに研磨して仕上げ加工をする
布を切って、切れ味を確かめる

 

手術器械である剪刀は、切れ味が命です。そのため、何度も条件を変えて研磨し、製造する時の気候や温度により少しずつ条件を変えて電解処理を行うなど、高度な職人ワザが求められる器械の1つです。

 

価格

メーカーによって異なりますが、一般的なサイズのもので1本2,000円~4,000円程度です。

 

寿命

何年間使用すると壊れるという明確な寿命はありませんが、使用頻度や使い方、洗浄や滅菌の過程での扱い方など、いくつかの要因によって使用できる年数が変わってきます。

 

クーパー剪刀の使い方

クーパー剪刀の使用方法

クーパー剪刀は、一般的なはさみのように、リング部分にしっかりと指を入れず親指と薬指をリング部分に掛け、柄部分に人差し指をそっと添えるようにして使います図3)。

 

図3クーパー剪刀の持ち方

 

クーパー剪刀の持ち方

 

親指と薬指をリング部分に掛け、人差し指を柄の部分に添えるように持ちます。

 

この持ち方によって、クーパー剪刀がぶれずに、安定した操作や細かい操作が可能になります。また、刃先を無駄に大きく広げずに、組織に合った最低限の広げ具合で操作します

 

類似の医療器械との使い分けるポイント

クーパー剪刀をはじめ、他の剪刀類との違いや特徴、どういう場面で使用されることが多いかをしっかりと理解しておきましょう(表2)。

 

表2剪刀の使い分け

 

 

  用途 対象・部位 使用頻度の高い領域・手術
クーパー剪刀 切離、剥離 筋膜、靭帯、糸
硬めの組織
剥離操作
産婦人科、外科領域
メイヨー剪刀 切離 筋膜、靭帯、糸
硬めの組織
整形外科領域
メッツェンバウム剪刀 剥離 血管周囲
リンパ節郭清
細部や繊細な操作
開腹手術全般

 

これを覚えておくと、ドクターの「はさみ」という指示が、どのはさみを指しているのかを判断することができます。

 

禁忌

クーパー剪刀をはじめ、他の剪刀類にも共通する注意点は、組織(組織外でも)に合った剪刀を選択するということです。使用用途外への無理な使用は、破損や刃こぼれなどの原因となり、患者さんに不利益をもたらします。

 

また、クーパー剪刀は刃物ですから、誤った使い方をすると、使用者であるドクターや看護師にも危険が及びます。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

クーパー剪刀とメイヨー剪刀の取り間違いに注意

クーパー剪刀は、先端の形状に特徴があります。器械台に置かれていても、この特徴を頭に入れておけば、取り間違いを防ぐことができます。また、他の剪刀と比較して覚えておくとよいでしょう(図4図5)。

 

図4クーパー剪刀と他の剪刀の違い(全体)

 

クーパー剪刀と他の剪刀の違い(全体)

 

①眼科用剪刀、②メッツェンバウム剪刀、③メイヨー剪刀、④クーパー剪刀

 

図5クーパー剪刀と他の剪刀の違い(先端部)

 

クーパー剪刀と他の剪刀の違い(先端部)

 

①眼科用剪刀、②メッツェンバウム剪刀、③メイヨー剪刀、④クーパー剪刀

 

使用前はココを確認

先端の刃こぼれや、ネジ留めの緩みがないかを確認します。また、刃をスムーズに開閉できるかどうかの確認も必要です。

 

術中はココがポイント

鉗子や他の剪刀類と同じように、器械出しを行います。ネジ留め部分を持ち、持ち手がドクターの手のひらに収まるように渡します。この際、クーパー剪刀の刃先は必ず閉じた状態で行います。万が一、刃先が開いていると、切創の原因になり危険です。

 

使用後はココを注意

ドクター(術野)からクーパー剪刀が看護師の手元に戻ってきたときは、刃先の咬み合わせが歪んでいないか、先端部分などに破損がないかを念入りに確認しましょう。咬み合わせた時に少しでも引っかかるような部分があれば、そのクーパー剪刀はもう使用できません。また、破損している場合は、破損した部分がどこにあるか、ドクターにも術野を確認してもらう必要があります。

 

特に問題が無ければ、またすぐに使用できるように、生理食塩液などを含んだガーゼなどを使って、血液などの付着物を落としておきます。

 

memoクーパー剪刀は刃先を閉じて管理

クーパー剪刀は、1度の手術で頻回に使われる器械のため、器械出しの回数も多くなります。使用後の確認から次の指示まで、スムーズに行えるようにしましょう。また、安全に行えるように、クーパー剪刀をはじめとした剪刀類は、刃先を必ず閉じた状態で管理しておくことが大切です。切創事故防止を常に意識しましょう。

 

片付け時はココを注意

洗浄方法

洗浄方法の手順は、下記(1)~(3)まではコッヘル鉗子の洗浄方法と同じです。

 

(1)手術終了後は、必ず器械のカウントと形状の確認を行う
(2)洗浄機にかける前に、先端部に付着した血液などの付着物を、あらかじめ落しておく
(3)感染症の患者さんに使用後、消毒液に一定時間浸ける場合、あらかじめ付着物を落としておく

 

(4)洗浄用ケース(カゴ)に並べるときは、刃先がほかの鉗子類などに引っかからないように置く(図6

図6洗浄ケース内での並べ方例(クーパー剪刀)

 

 

洗浄時は、開くことができるものは完全に開く、外せるものは外すのが基本です。
左上段より、コッヘル鉗子、モスキート鉗子、ペアン鉗子、長ペアン鉗子、マチュウ持針器、リンパ節鉗子、アリス鉗子、クーパー剪刀(長)クーパー剪刀(短)、ヘガール持針器。
左下段より、ミクリッツ鉗子、ケリー鉗子、腸鉗子、長鑷子、短鑷子。

 

(5)専用のオイルや薬剤を使い、刃の部分を磨いておく

この作業は必須ではありませんが、刃の切れ味が最も重要になる器械のため、時々、きちんとメンテナンスを行い、刃の切れ味を維持しましょう。

 

(6)左右の組み合わせを間違えずに組み立てておく

剪刀類に共通していますが、はずしタイプのものは、刃の付け根(ネジで止まっている部分)辺りから左右に外れて、全体が2つに分離します。しかし、左右の組み合わせは、組み立てた時に最もよく切れるように調整されている場合があります。そのため、組み合わせが合わないものを使用すると、きれいに切れない場合があります。そのため、左右の組み合わせは間違えないように、注意する必要があります。

 

もし、同じタイプ(長さ、形状)の剪刀を、2つ以上同時に洗浄する時は、組み合わせが混乱しないよう、洗浄カゴの中で離れた場所に置くか、目印をつけておくと良いでしょう。

 

滅菌方法

コッヘル鉗子と同様で、高圧蒸気滅菌が最も有効的です。滅菌完了直後は非常に高温になっているため、ヤケドをしないように注意しましょう。

 

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[参考文献]

 

 


[執筆者]
黒須美由紀(くろすみゆき)
総合病院手術室看護師。埼玉県内の総合病院・東京都内の総合病院で8年間の手術室勤務を経験

 


Illustration:田中博志

 

Photo:kuma*

 


協力:高砂医科工業株式会社

 


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