正常心電図|心電図とはなんだろう(4)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、正常心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
はじめに
ここでは、正常心電図についてさらに詳しく見ていきましょう。
正常な心臓について復習しましょう。まず、洞結節が規則正しい周期で脱分極し、心房を興奮させます。この興奮は、房室結節をゆっくり伝導し、ヒス束から心室に入ると脚・プルキンエ線維を使って素早く順序よく心室を興奮させます。この電気現象を12の方向を設定して記録したものが標準12誘導心電図です(図1)。
標準12誘導心電図のモレのないチェックポイントを教えましょう。
①調律(リズム)、②心拍数、③P波の幅と高さ、④PQ間隔、⑤QRS波、⑥ST‒T、⑦U波、⑧QT間隔、の8つです。
調律(リズム)
まず、心電図全体を観察しましょう。正常心電図は、規則正しく、整っていますので、その目で見ましょう。不整な波形がなければ、今度はP波を探します。P波をみつけて、PP間隔が規則正しければ、P波の形を見ましょう。洞結節からの信号で心房が興奮していれば、規則正しく出現している上に、右心房の右上部から左下に興奮が伝導しています。したがって、P波はⅠ誘導、Ⅱ誘導、aVFで、陽性波になります。
まとめ
- 全体に規則正しく同じ形の波形で、Ⅰ誘導、Ⅱ誘導、aVFで陽性のP波なら洞調律
心拍数
次に心拍数を測りましょう。心拍数とは、1分間あたりの心室収縮回数です。1分間あたりの心房の収縮回数は、心室と区別して心房心拍数といいます。横軸は時間で、心室の興奮・収縮はQRS波ですから、QRSから次のQRSまでの時間、つまりRR間隔がわかれば、1分間あたりの収縮回数がわかります。
たとえば、RR間隔が25mm(25コマ)であれば、1mm(1コマ)は0.04秒ですから、25×0.04=1秒。心室の収縮は1秒に1回です。1分間は60秒ですので、これを1分に換算すると、60÷1=60回/分。心拍数は60回/分です。
では、RR間隔が50mmではどうでしょうか。50×0.04=2秒で、2秒に1回の収縮です。心拍数は60÷2=30回/分です。つまりRR間隔をmmから秒に直すには0.04倍します〔RR(秒)=RR(mm)×0.04〕。
それを心拍数に換算するには、60÷RR(秒)です。
この測定値から計算すると、心拍数=60÷(RRmm×0.04)※カッコ内が秒に換算する計算です。これをまとめると、
心拍数=60÷(RRmm×0.04)=60÷0.04÷RR(mm)=1500÷RR(mm)となります。
ここは丸暗記ですね。
心拍数(回/分)=1500÷RR〔mm(コマ)〕=60÷RR(秒)
1つ簡易法を教えましょう。記録紙は方眼紙になっていて、5mm(5コマ)ごとに太い線です。5mmは、5×0.04=0.2秒です。太い線の上にあるR波を探して、次のR波がどの間隔で出現するかで心拍数がわかりますよね。
もし、次の太い線つまり5mmのところなら、心拍数=1500÷5あるいは60÷0.2で300回/分です。実際にはありえませんが……。
同様に2回目の太い線、10mmなら10×0.04=0.4秒
心拍数=1500÷10あるいは60÷0.4=150回/分
以下同様に15mmでは100、20mmでは75です。つまり5コマごとに、300・150・100・75・60・50・43・38・33・30……となります。
太い線上のR波を探して、5コマごとの太い線を数えながら、たとえば、25コマと30コマの間に次のR波があれば、300・150・100・75・60と50の間で、その心拍数は50から60の範囲ですね(図2)。ここも数字を丸暗記です。
ところで、心拍数は下限50回/分、上限100回/分としましたね。50回/分未満を徐脈、100回/分以上を頻脈といいます。
RR間隔なら、心拍数50回/分がRR間隔30mm(30コマ)=30×0.04=1.2秒、心拍数100回/分がRR間隔15mm(15コマ)=15×0.04=0.6秒に相当します。RR間隔が15mm以下に短縮すると頻脈、30mmを超えると徐脈ですね。つまりRR間隔の正常値は、15~30mmの間です。
まとめ
- 心拍数(回/分)=1500÷RR(mm)あるいは60÷RR(秒)
- 簡易法は5コマごとに、300・150・100・75・60・50・43・38・33・30……
- 正常では規則正しいリズムで50~100回/分、RR間隔は15~30mm(0.6~1.2秒)
練習問題
心拍数を測りましょう。徐脈・正常・頻脈の判定をしてみましょう。
①
( 回/分)徐脈・正常・頻脈
②
( 回/分)徐脈・正常・頻脈
■解答■
①1500÷20≒75 正常
②1500÷12=125 頻脈
P波の幅と高さ
リズムの確認のときに、洞性P波かどうか判定しましたね。洞性以外のP波はリズムの判定だけで、それ以上詳しく見る必要はありません。
洞性P波だと判定した場合、その幅と高さを確認しましょう。
はじめに皆さんにうれしいお知らせをお届けします。洞性P波で確認することは、右房負荷・左房負荷および両房負荷の3つだけです。
しかもP波はⅠ誘導、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFとV1だけで判定すればよいので、この部門はかなりお得になっています。
負荷というのは、心房が血液を心室に送り出すときに抵抗が大きいということです。たとえば、僧帽弁に狭窄があると、左房からの送り出す抵抗が増えて負荷がかかります(図3)。
P波は心房の興奮すなわち収縮を表していますが、ご存知のように心房には右房と左房があります。P波は、右房の収縮成分と左房の収縮成分が合体して形成されています(図4)。
右房は、左房よりも洞結節からの信号が早く伝わるので、前半が右房成分、後半が左房成分であることは、賢明な皆さんならすぐ理解できると思います。
胸部誘導では、V1、V2で、前半の右房は向かってくるベクトルで陽性波、後半の左房成分は去っていく陰性波で、山→谷の形で、二相性と表現します(図5)。
負荷がかかれば、脱分極する心房の細胞量が増え、心房全体の電位が大きくなります。ベクトルでいうとその長さが長くなります。右房ではその平均ベクトルは、下方向やや左向きですから、負荷がかかると、その方向、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVFでのP波全体の電位は増高し尖ってきます。
胸部誘導はV1、V2が心房に近いので、V1、V2でもP波が増高、尖鋭化します。
具体的には、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVF、V1、V2で、高さが2.5mm(2.5コマ)=0.25mV以上ならば、右房負荷を疑いましょう(図6)。
左心房負荷では、左房に向かう方向、具体的にはⅠ誘導、Ⅱ誘導での左房成分が大きくなり、P波に山が2つできます。これを二峰性P波といいます。
さらに左心房の興奮終了に時間がかかるので、P波の幅が広くなります。V1、V2は、後半の左房成分の陰性部分が大きくなり深く広い谷となります。Ⅰ誘導、Ⅱ誘導で二峰性のP波で、幅が2.5mm(2.5コマ)=0.1秒以上であれば、左房負荷を考えましょう。
また、V1の後半左房成分“広く深い”はどうするかというと、広く・深くですから、縦横を掛け算しましょう。V1の、P波の後半の陰性部分(基線より下の谷)の幅と深さのコマ数を掛け算して、1以上なら“広く深い”とします。
難しい話をしますと、陰性部分の、幅(秒)×深さ(mm)をPterminal forceといって、この値が0.04mm・秒以上なら左房負荷を疑います(図7)。
両房負荷とは、右房負荷、左心房負荷の両方の特徴をもっているP波です。
まとめ(洞性P波)
- 右房負荷はⅡ誘導、Ⅲ誘導、aVF、V1、V2で2.5コマ以上の高さ
- 左房負荷はⅠ誘導、Ⅱ誘導で二峰性2.5コマ以上の広さ、V1、V2の後半が深くて広い谷
- 両房負荷は、右房負荷+左房負荷
PQ間隔
P波の始まりから、QRS波の始まりまでの間隔です。
P波の始まりは洞結節の脱分極、QRS波の始まりはヒス束を通過した興奮が心室を脱分極させる時点です。このPQ間隔は、心房・心室間の通り具合(房室伝導の状態)を反映します(図8)。
PQ間隔が長いということは、房室間の通過に時間がかかっているということを意味し、逆に短ければ、通過時間が短いということですね。
ここではまず、P波の後にQRS波が出現しているか、各心拍でPQ間隔が一定か、その間隔はどうかの3点をチェックします。P波とQRS波がはっきりしているⅡ誘導での確認がおすすめです。
その基準値は、3~5コマ=0.12~0.20秒としましょう。短い場合(0.12秒未満)は後述するWPW症候群など、特殊な場合を除いて問題になることは少ないです。しかし、5コマを超える場合(0.21秒以上)は、房室ブロックという異常心電図です。
まとめ
- PQ間隔は一定で、5コマまでが正常
QRS波
QRS波を以下の順でチェックしましょう。
①幅、②高さ、③興奮ベクトルの方向(四肢誘導:平均電気軸、胸部誘導:移行帯とQRS波のパターン)、④異常Q波、の4つです。
1、幅
ヒス束から脚・プルキンエ線維を伝導して、素早く心室筋が興奮すれば、脱分極は短時間に終了します。心電図で時間が短いということは、幅が狭いということです。
QRS幅は狭いのが正常です。具体的には2.5コマ=0.10秒までです。0.10秒(2.5コマ)以上は脚・プルキンエ線維の伝導に障害があると考え、心室内伝導障害といいます。
さらに、0.12秒(3コマ)以上は、脚の伝導がさらに悪いと判定され、心室内伝導障害のなかでもとくに脚ブロックといわれます(図9)。
脚ブロックだと、②以下は判定できませんので、ここから先はあくまでも、脚ブロックではないQRS波の判定です。
2、高さ
まずざっと見て、低い場合に注意しましょう。
QRS波の高さとは、R波+S波です(図10)。
この高さが四肢誘導で0.5mV(5コマ)未満、胸部誘導で1mV(10コマ)未満は、電位が低いということで低電位といいます。
この数字なかなか覚えにくいので、語呂合わせでいきましょう。
「停電、仕事は今日中」、「ていでん(低電位)、し(肢誘導)ご(5コマ)とは、きょう(胸部誘導)じゅう(10コマ)」という苦しいダジャレです。
では、高い場合はどうでしょう。
四肢誘導は見なくて結構です。
胸部誘導で、左心室のメインの脱分極の向きは水平方向で左やや前向きです。
したがって、その大きさはV1、V2誘導ではS波に、V5、V6ではR波に反映されます。V5でR波が25コマ(2.5mV)まで、またはV1のS波+V5のR波が35コマ(3.5mV)までを正常とします(図11)。R波が26コマ、V1のS波+V5のR波が36コマ以上は左側(左心室)高電位といいます。
左心室の肥大によって起こることも多いのですが、やせた若年者など肥大以外の場合もあり、高電位=肥大ではありませんので気をつけましょう。
3、興奮ベクトルの方向
ベクトルなんていうと難しそうですが、興奮が向かう方向の平均です。垂直面では四肢誘導を見ます。
Ⅰ誘導とaVFを見て、どちらも陽性波つまりR波が、陰性波(S波)より大きければ、両誘導とも平均ベクトルはプラスですね。その合成ベクトルは、0°~90°の間にあり、電気軸は正常です。Ⅰ誘導でマイナス、aVFでプラスなら、90°より時計回り(右向き)となり、右軸に偏位しています。
逆にⅠ誘導でプラス、aVFでマイナスなら、0°より反時計回り(左向き)となり、左軸に偏位しています。正確な数値は、作図して求めましょう。Ⅰ誘導、aVFともにマイナスならどうなるでしょう。時計では9時~12時、軸で
は+180°~270°となります。これを不定軸といいます(図12)。
心尖部が真下近くに向いている場合(たとえば肺気腫で心臓が下に引っ張られている場合や、やせた若年者など)は、電気軸は真下つまり+90°(6時)に近くなり、aVRとaVLが似た形になり、aVFが大きくなります。これを垂直位心または立位心といいます。
一方、心尖部が左水平近くに向いている場合(肥満で横隔膜が挙上している場合など)は、ベクトルは左水平方向に向き、aVLは陽性で大きく、aVRは去っていく成分が大きくS波が大きく平均ベクトルは陰性になります。
水平面は胸部誘導で見ます。
最初の心室興奮ベクトルは右向きで、V1、V2ではR波をつくり、メインの心室の興奮の平均は、左やや前向きになりますので、V1~V3でS波、V4~V6でR波となります。
正常パターンは、R波はV1から高さを増し、V5で最大になります。S波はV2で最も深くなり、V4以降は消失することが多くなります。R波の高さとS波の深さが等しくなる誘導を移行帯とよび、正常では、V2~V5の間にあります。V2よりも右側の移行帯は反時計軸回転、V5より左側にあれば時計軸回転といいます(図13)。
この時計、反時計は心臓を下から見上げたときの回転方向です。間違えやすいので気をつけましょう。
4、異常Q波
まず復習です。QRS波の開始時に出現する下向きのフレがQ波です。脱分極初期のベクトルの方向によっては、Q波が出る誘導もありますが、正常心で見られるQ波は、小文字でq波と表記しましょう。
異常Q波の定義は、
・R波高の1/4以上の深さ
・幅が0.04秒(1コマ)以上
としましょう(図14)。
R波の1/4、幅0.04秒ですから、「異常Q波の4の定義」と覚えましょう。異常Q波は、心室筋の障害を反映しています。
正常心でもこの定義に合うQ波が見られることがあります。aVRは、aVLと対称形で、Q波から始まることがよくあります。Ⅲ誘導は、心臓の向きによって異常Q波が出ることがあります。V1、V2は、とくに心臓の長軸が下に向いている(立位心)場合は、最初の興奮ベクトルがプラスにならないことがあります。
つまり陰性波のみが出て、QS波となります(図15)。
QRS波のチェックポイント
- 幅:2.5コマまでは正常。3コマ以上は脚ブロック
- 高さ:四肢誘導5コマ未満、胸部誘導10コマ未満は低電位
V5のR波は25コマ、V1のS波+V5のR波は35コマ以上は左側高電位 - 方向:Ⅰ誘導とaVFがプラスなら軸は正常
R波はV5で最大、S波はV2で最深。移行帯はV2~V5で正常 - Q波:R波の1/4以上の深さ、幅0.04秒以上で異常Q波
Ⅲ誘導、aVR、V1、V2は出るかも
ST‒T
QRS波の終末部からT波の終末部までをST‒T(セグメント)とよび、心室筋の活動が回復する(再分極)過程を表しています。細かく分けると、QRSの終末部をST接合部(STジャンクション)、T波の移行部までをST部分(STセグメント)、なだらかな波をT波とよびます(図16)。
ST接合部は基線と同じ高さが正常ですが、正常でも上昇している場合があり早期再分極といいます。ST部分は、基線と同じレベルで、水平か右上がりが正常です。
基線よりもST部分が低い場合は、ST低下と判定し、心筋障害や心肥大が疑われます。
T波は、QRS波の大きい向きと同じ向きが正常です。R波が大きい誘導は陽性T波、S波が大きい誘導は陰性T波になります。ただし、胸部はすべて陽性T波のこともよくあります(図17)。
正常心では、aVR、ときにV1、V2で陰性T波となりますが、その他は陽性T波です。R波の大きい誘導での陰性T波は異常と考えてください。T波高は、R波の1/10未満で平坦T波(平低T波)といいます。
まとめ
- ST部分は、基線と同じレベルが正常
- R波の大きい誘導での陰性T波は異常
U波
U波は、T波の後に出現する陽性波で、T波の高さの半分を超えることはありません。
Tが小高い“山”なら、Uは“丘”といったところでしょうか。起源ははっきりしませんが、一説にはプルキンエ線維の再分極に関連する波といわれています。見られないことも多いのですが、正常心で出現する場合は、陽性(基線より上)で、V2、V3あたりが最も目立ちます。陰性U波は、すべて異常です。
まとめ
- U波は見られないことも多いが、正常心で出る場合はV2、V3で小さな陽性波
QT間隔
QT間隔(時間)というのは、QRS波の始まりからT波の終わりまでの時間で、単位は“秒”です。
QT間隔は心拍数によって変化し、徐脈になると長くなり、頻脈だと短くなるので、ナマのQT間隔を心拍数で補正した“補正QT間隔:QTc”という指標QTc=QT(秒)/√RR(秒)を用いて表します。QTcの“c”は、collect(補正)を意味します。
その算出法は、要するに、どんな心拍数でも心拍数60回/分(RR=1秒)の心拍数に換算したときのQT時間を意味しています。このQTcの基準値は、0.35~0.44で、0.35未満はQT短縮、0.45以上はQT延長といいます。
しかし、皆さんが、数字や計算を、世の中で最も苦手なものの1つとしているのは、重々承知をしております。
QTの短縮は、それほど問題になることはないので、簡単なQT延長の判定法をお教えしましょう。
Rから次のRまでの間を2等分してください。その線よりも、Tが右にはみ出していればQT延長としましょう。つまりRR間隔の半分より長いQT間隔は、QT延長とみてよいでしょう(図18)。
もちろん、計算が苦手でない人は、QTcの値を算出したほうが、より格調が高いのは言うまでもありません。
練習問題
補正QT間隔(QTc)を算出してみてください。
QTc=QT(秒)/√RR(秒)
QT=( )秒、RR=( )秒
QTc=( )ゆえに、正常・QT短縮・QT延長
■解答■
QT間隔→10コマ(0.04×10=0.4)
RR間隔→25コマ(0.04×25=0.1)
0.4÷√1=0.4÷1=4 正常
まとめ
- QT間隔は、心拍数によって変化するため補正値QTcを用い、正常では0.35~0.44
- 実践では、RR間隔の半分を超えるT波はQT延長と考える
〈次回〉
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版