職場環境の心理的安全性を確保する
『ICU看護実践マニュアル』(サイオ出版)より転載。
今回は、「職場環境の心理的安全性を確保する方法」について解説します。
清水由香
市立青梅総合医療センター 看護師
- 心理的安全性が確保されていると職場全体のパフォーマンスが向上する
- 心理的安全性を高めるには4つの要因がある
- きっかけ・行動・見返りフレームワークを活用する
心理的安全性とは
心理的安全性が確保された職場はエンゲージメントやパフォーマンスに成果をもたらす。
この心理的安全性は、職場のなかで自分の考えを誰に対してでも気兼ねなく発言できる環境を高い業務基準で維持できる状態のことを言う1)。
心理的安全性が確保されることで、困難なケースにおいても“健全な衝突”ができ、オープンで生産的な話し合いができるなど職場全体のパフォーマンスにつながる。
先輩・同僚に対して、
「それっておかしくないですか?」
「私はこうしたほうがよいと思います。なぜかと言うと……」
「ちょっとわからないので教えてもらえませんか?」
と。
これは、一見すると当たり前のことだが、これを言うことはとても難しい。
私たちの仕事を振り返ってみても、新人の頃なんとなく違和感があったが、相手はベテランの先輩だからと指摘できずに、後で大きなトラブルになりかけて、やっぱり自分の違和感は正しかったんだと感じることはないだろうか。
緊迫感があり、“高度な知識が求められる”集中治療室こそ、チームの一人ひとりが率直に意見を言って質問をしても安全だと感じられる状況、つまり心理的安全な状況をつくることは実は難しい。
しかし、集中治療室こそ、率直な意見を言える状況をつくることが、看護をするうえで極めて重要である。
また、“攻撃的”、“怠惰”、“愚痴”など場の雰囲気を悪くするような言動は個人のみならず、職場全体のパフォーマンスを30~40%低下させると言われている。
目次に戻る
心理的安全性に必要な4つの因子
図1に示した①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎の4つの因子があるときに、心理的安全性が感じられやすく、この4つの因子を高めていけば心理的安全性が高まる。
図1心理的安全性に必要な4つの因子
出典:石井遼介:心理的安全性のつくりかた,日本能率協会マネジメントセンター,東京,2020
目次に戻る
1話しやすさ
これが最も重要かつ他の3つの因子の土台となる考え方の因子である。
たとえば、みんなの意見が揃っているときに、反対意見を率直に言えるか。
問題やリスクに気づいたときに、声をあげられるとか、職場のメンバーが知らないことや、わからないことがあったとき、率直に聞くことができる職場かどうか、ネガティブな報告も、事実は事実として、あがってくるような職場はこの因子が高いといえる。
目次に戻る
2助け合い
この因子はトラブルが起こったときに迅速確実に対応するために重要な因子になる。
たとえばトラブルが起きたときに人を責めずに建設的に解決策を考える雰囲気があるかとか、チームリーダーやメンバーは、いつでも相談に乗ってくれるかである。
この因子が高いとトラブルや行き詰まったときに支援とか協力をすっと求めることができる。
目次に戻る
3挑戦
活気を与えて時代の変化に合わせて、新しいことを模索して変えるべきところを変えるために重要である。
この職場ではチャレンジすることが損ではなくて、得と思われているか、前例や実績がないものでも取り入れることができるかということである。
目次に戻る
4新奇歓迎
挑戦よりも人に焦点を当てたのが新奇歓迎である。
役割に応じて強みや個性を発揮することを歓迎されていると感じられるかどうか。
自分がめざすこともこの職場ではリスクではないとそう思えるかどうかである。
目次に戻る
きっかけ・行動・見返りフレームワーク
「行動の直後に罰があるとその行動が減る」ということがわかっている。
「ミスが起きて、ミスを上司に報告して、そしたら、厳しく怒られた」。
こういう「きっかけ・行動・見返り」というものを考えてみたい。
この場合、“行動の直後の見返り”がこうやって直前の行動に影響を与えるということが明らかになっている。
上司や先輩としては本当は怒りたくはないけど、後輩のためと思って、「心を鬼にして叱りました」と、怒る側の気持ちはあるかもしれないが、実際に起こるのは、ミスが起きたという直後に怒ったのではなく、直後に怒っているので、ミスが減るではなくて、報告が減ってしまうのである(図2 悪い見返り)。
図2きっかけ・行動・見返りフレームワーク
出典:石井遼介:心理的安全性のつくりかた,日本能率協会マネジメントセンター,東京,2020
そうすると、ミスが減らずに報告が減ることは、言い方を変えるとミスを隠すようになるということである。
先輩としては、ミスを減らしてほしいのではなくて、報告を減らしてほしいわけではないはずである。心理的安全性とは反対の心理的非安全な職場という罰と不安でマネジメントしましょうというところでは、実は中長期的に見ると行動量が減るし、必要な情報が得られにくくなるということである。
そうではなくて、たとえ、新人だろうが先輩だろうが、地位や経験にかかわらず、率直な意見・素朴な疑問を言うことができるチームが「心理的安全」な職場だということになる。
増やしたい行動があるときはその行動に対してよい見返りを与えることで、その行動がどんどん増えていく。
たとえば後輩が何か報告や相談をしに来たが、そのときに、ちょっと嫌そうに「手短にお願い」「ちょっと後にして」って、カタカタとパソコンを打っているのと、笑顔で、こっちを向いて「報告、ありがとう」って言うのとでは、圧倒的に、今後の報告が増えるのがわかる。
と言うように、よい見返りを増やしていく。
「いいじゃん、それ最高じゃん」
「それもっとやってくれ」
みたいな感じで、どんどん言ったら、いい見返りを与えたら、どんどんその後輩は行動を増やしていき、そしたらどんどんその因子が高まって、心理的安全性も確保されていく(図2 よい見返り)。
図2きっかけ・行動・見返りフレームワーク(再掲)
出典:石井遼介:心理的安全性のつくりかた,日本能率協会マネジメントセンター,東京,2020
このきっかけ・行動・見返りを利用して、心理的安全性を高めていき、望ましい行動を増やして、望ましくない行動を減らしていくことが重要である。
目次に戻る
心理的安全性のチェックリスト
心理的安全性は、表1に示したチェックリストで計測することができる。
表1心理的安全性 現状把握のためのチェックリスト
出典:エイミー・C・エドモンドソン著,野津智子訳:チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ,英治出版,2014.より改変
35点満点で、30点以上はかなりよい職場で、さらなる飛躍が期待できそうである。
22~29点は現状はよい職場で、今は問題がないようだが、潜在的な問題がある可能性がある。
15~21点はややよい職場だが、改善が必要である。
14点以下は手当てを急いだほうがよいだろう。
1)Amy Edmondson:Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly,Vol.44,No.2.1999.350-383
2)石井遼介:心理的安全性のつくりかた,日本能率協会マネジメントセンター,東京,2020
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『ICU看護実践マニュアル』 監修/肥留川賢一 編著/剱持 雄二 サイオ出版