転倒リスク状態の看護計画が例文&根拠でわかる|これでカンペキ!看護計画(5)

#看護計画の書き方 #便秘の看護計画 #褥瘡の看護計画 #統合失調症の看護計画

 

この記事では、患者Eさんの看護計画書を例に、個別性のある看護の実施につながる「転倒リスク状態」の看護計画書を作成する方法を解説します。

 

 

看護計画書の見本


立案日:〇月△日 評価日:〇月〇日

看護診断


#▲ 転倒リスク状態
 

患者目標
(outcome)

移動動作時に転倒が起きない
・移動時には手すりや壁などの支えを利用するなど、自ら転倒予防行動を取ることができる
・1日1回下肢筋力を増強するためのリハビリに取り組んでいる
・現在の移動動作に関する自身の活動能力を説明できる
・夜間、トイレに行く前にナースコールをすることができる

具体的な
看護計画

【観察計画(O-P)】
・バイタルサイン(血圧、脈拍、体温、呼吸、意識)
・しびれや疼痛、易疲労感などの自覚症状
・起立時の状況(めまいやふらつき、動作緩慢、臥位から立位までにかかる時間など)
・歩行障害の程度(前傾前屈姿勢、小刻み歩行、すくみ足、視空間認知障害など)
・トイレや洗面所までの歩行状況(手すりなどを使用しているか、つまずきが見られないかなど)
・歩行時の履物(かかとのある履物を使用しているか)
・ベッド周囲やトイレ・洗面所までの導線環境(床の水濡れや障害物はないかなど)

・日中の覚醒・活動状況
・夜間の睡眠状況
・水分摂取量
・夜間頻尿の程度
・内服薬の追加や変更(睡眠薬、利尿薬など)
・排泄に対する自立心・羞恥心

・身体機能(呼吸機能や下肢筋力の程度など)
・認知機能(理解力、記憶力、注意力など)
・転倒や歩行に対する認識、離床行動
・入院前の生活状況、価値観、生活ニーズ


【直接ケア計画(T-P)】
・活動範囲となるベッド周囲やトイレ・洗面所までの導線上が常に安全な場となるよう、床が濡れていたり障害物があったりしないか、サイドテーブルなど車輪のあるものがロックされているかなど確認し、整備する
・パーキンソン病による視空間認知障害の程度を確認し、障害があるなかでも移動動作がうまくできるよう、バランス保持に必要な手すりの位置に色テープをするなど目立つようにして使用しやすくする。
・眼鏡、湯のみ、ティッシュなど日常生活に必要な物品は、希望に応じて手が届く枕元やサイドテーブルに置く

・夜間も確実に排泄できるよう、夜間頻尿や歩行状況に応じ、夜間のみベッドサイドにポータブルトイレを設置する
・排泄介助を求めるナースコールがあったら速やかに訪室し、体勢が崩れたときに支えることができる位置で見守る
・排泄介助に対する思いを聴き、安心して排泄介助を依頼できる信頼関係を築く

・入院や環境変化による不安や混乱を和らげるために、入院や治療についての理解状況を確認し、思いを聞く時間をつくる
・ナースコールをすることなく離床や歩行する様子が見られたら、注意するのではなく、その行動の理由を聞いて、その理由やニーズに対する支援を行う
・下肢筋力を高めるためのベッドサイドでの運動や病室内歩行に付き添う


【教育計画(E-P)】
・活動能力に対する認知と現実とのズレを修正できるよう、パーキンソン病による歩行障害や安静臥床による筋力低下に伴い転倒の危険性や、転倒に伴う影響を説明する
・トイレまでの行き方、便座や手すりの使用方法を説明し、安全にトイレまでの移動や使用ができるか確認する
・自ら転倒を予防する行動が取れるよう、立ち上がり時に手すりを持つことや足元に注意して歩行することを説明する
・現状では転倒を防ぐために看護師の見守り介助を要することを説明し、夜間の排泄時や室外歩行時は、ベッドから離れる前にナースコールをするように伝える
・下肢筋力の低下に対し、動ける力を維持向上するためのベッドサイドで実施可能な運動の方法を説明する
・日常生活のなかで転倒リスクを最小限にするための工夫を共に考え、こうすればうまくいくと患者さんが実感できるようにする
・万が一転倒が生じた場合の対応方法(動かずに大声を出すなど)について伝える

評価

離床後1週間が経過し、転倒は起きていないが、夜間の排泄介助時にふらつきが見られ、わずかな段差につまずくなどして転倒しそうになる場面があった。しかし、看護師見守りのもと、日中は手すりを活用しながら安全にトイレまでの歩行や排泄ができている。

パーキンソン病による歩行障害によりEさんが転倒する危険性は常にある。また、来週退院の見込みであるが、自宅での転倒を防ぐためにも、ベッドサイドでの運動や病室内歩行を継続し、下肢筋力の維持向上を図る必要がある。

このことからEさんの「#転倒リスク状態」の問題は継続とする。

 

Eさんの事例(架空の設定)はこちら。
Eさんの事例/Eさん(79歳男性)は、パーキンソン病の既往があります。妻との2人暮らしで、自宅周囲の散歩が日課でしたが、発熱と息苦しさがあり受診したところ、肺炎と診断され入院となりました。現在は、解熱し、本日膀胱留置カテーテルが抜去され、1週間ぶりの離床ならびにトイレ歩行が開始となります。

 

執筆:長坂育代(淑徳大学看護栄養学部看護学科・同大学院看護学研究科看護学専攻 准教授)
監修:茂野香おる(淑徳大学看護栄養学部看護学科・同大学院看護学研究科看護学専攻 教授)

 

 

転倒リスク状態の看護診断

看護診断


#▲ 転倒リスク状態
 

 

転倒とは、「本人の意思によらず、地面またはより低い面に身体が倒れること」1) を指します。

 

Eさんに対して、看護で解決すべき問題として、「#転倒リスク状態」の看護診断を挙げました。これは、Eさんが転倒してしまう危険性が高い状態にあることを示しています。

 

ここからは、Eさんに対し、「#転倒リスク状態」の看護診断を確定するまでの看護師の思考過程を見ていきましょう。
 

 

1 転倒リスク状態に関連する情報を収集する

Eさんはバイタルサインも安定し、本日膀胱留置カテーテルが抜去されました。Eさんに、離床する際はナースコールをするように伝えたところ、「トイレに行きたい」とナースコールがあり、看護師がトイレまでの歩行ならびに排泄の介助を行いました。Eさんの起立時の動作は緩慢で時間を要し、歩行時は前傾前屈姿勢や小刻みでのすり足歩行を認めます。

 

しばらくして看護師が訪室すると、Eさんは病室内を歩いており、「ひげを剃りたいんだけど、タオルはどこにある?」、「家では夜は何度もトイレに行っていた。転んだことはないし、看護師さんが来るのを待っていたら間に合わないだろ」と話しました。


Eさんはパーキンソン病に対する薬は服用していますが、睡眠薬や利尿薬は服用していません。また、退院後は自宅に戻る予定です。

 

収集したS情報とO情報をまとめると、次のとおりです。

 

<S情報>・「トイレに行きたい」・「ひげを剃りたいんだけど、タオルはどこにある?」・「家では夜は何度も目が覚めてトイレに行っていた。転んだことはないし、看護師さんが来るのを待っていたら間に合わないだろ」<O情報>・79歳男性・パーキンソン病の既往あり・肺炎により入院、1週間臥床していた・本日膀胱留置カテーテルが抜去となり、トイレ歩行開始・入院前は自宅周囲の散歩が日課・妻との2人暮らしで、退院後は自宅に戻る予定・トイレに行く際は離床前にナースコールがあったが、室内を歩行する際にナースコールをしない場面があった・起立時に動作緩慢、歩行時は前傾前屈姿勢で小刻みでのすり足歩行・睡眠薬や利尿薬の服用はなし

 

2 集めた情報から「現状の問題」を分析する

Eさんの移動動作に関する情報(S情報、O情報)をもとに健康な状態からの逸脱がないかを探り、現状の問題を次のように分析しました。

 

Eさんは、79歳の男性でパーキンソン病の既往がある。
肺炎により入院し、臥床状態が1週間続いたが、本日膀胱留置カテーテルが抜去された。
Eさんは、パーキンソン病による歩行障害があり、安静臥床に伴う廃用症候群により下肢筋力の低下が見込まれるが、Eさんは離床後も入院前と同じように歩行ができると思っている。


Eさんは本日よりトイレ歩行となったが、夜間頻尿があり、夜に何度もトイレに行くことが予想される。離床前にナースコールを押すなど、指示を理解し行動することができるが、自己判断で行動する場面も見られる。そのため、夜間トイレに行く際に、「間に合わないから」と一人で歩行して転倒する危険性がある。
 

 

3 現状の問題の「危険因子」や「なりゆき」を分析する

現状の問題として、Eさんは転倒する危険性がある状態にあると捉えました。

それは、収集した情報から、Eさんの転倒を引き起こしうる次のような「危険因子」が見出されたからです。
 

・高齢であり、パーキンソン病による歩行障害があること
・安静臥床に伴う下肢筋力の低下があること
・移動動作に関する活動能力の知覚錯誤1)があること
・夜間頻尿があること
・自己判断で行動することがあること
・入院生活という慣れない環境にあること
・離床開始となり、日常生活動作(ADL)の拡大時期にあること


そして「なりゆき」として、次のように分析しました。

 

・Eさんは高齢であり、転倒し骨折などが起きると、回復に時間を要する(入院の長期化)
・骨折に伴う安静保持や転倒への不安は活動量を減少させ、さらなる筋力低下(廃用症候群の進行)を招く

これにより、退院後に、日課としていた自宅周囲の散歩など入院前と同じ生活を続けることが困難となる。

 

4 看護診断「#転倒リスク状態」を決定する

Eさんの転倒を予防することは看護で解決すべき(看護によって解決可能な)問題であり、かつEさんにとって重要な健康上の問題であったため、Eさんに対して「#転倒リスク状態」の看護診断をしました。

 

そして、Eさんの「#転倒リスク状態」の危険因子として、「パーキンソン病による歩行障害」「安静臥床による下肢筋力低下」「移動動作に関する活動能力の知覚錯誤」「夜間頻尿」「自己判断による行動」「慣れない環境」「ADL拡大時期」を挙げました。

 

Point

看護診断には、「実在型の看護診断」「リスク型の看護診断」「ヘルスプロモーション型の看護診断」の3つの種類があります(関連記事「看護診断の種類」)。今回の「#転倒リスク状態」は、これから問題が生じるリスクがある場合に用いられる「リスク型の看護診断」になります。

Eさんは、転倒のリスクが高い状態ですが、転倒は起きていませんよね。「実在型の看護診断」には、実際に起きている問題なので、それが起きていることを示す「症状・徴候」、その原因となる「関連因子」を挙げる必要があります。しかし、「リスク型の看護診断」では、実際には起きていないので、症状・徴候は存在せず、それを引き起こしうるものを「危険因子」として挙げます。

 

 

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転倒リスク状態の患者目標

Eさんに対し、次のように患者目標を挙げました。患者目標ですので、患者さんを主語にして表現しています(関連記事「患者目標の書き方」)。

 

患者目標
(outcome)

移動動作時に転倒が起きない
・移動時には手すりや壁などの支えを利用するなど、自ら転倒予防行動を取ることができる
・1日1回下肢筋力を増強するためのリハビリに取り組んでいる
・現在の移動動作に関する自身の活動能力を説明できる
・夜間、トイレに行く前にナースコールをすることができる

 

この患者目標はどのように設定されたのでしょうか。

 

1 その患者さんに合った患者目標を考える

患者目標は、その患者さんへの看護介入の計画、実施、評価のよりどころとなります。

 

同じ「#転倒リスク状態」という看護診断が挙げられていても、転倒を引き起こしうる「危険因子」やその危険性の程度は人によって異なり、それに対する看護介入も異なります。

 

「リスク型の看護診断」において、その患者さんに合った患者目標を挙げるためには、その患者さんの看護診断を決定する際に根拠とした「危険因子」や「なりゆき」を意識しましょう。
 

 

2 Eさんの例で考えてみる

Eさんに「#転倒リスク状態」の患者目標を設定するうえで整理した関連図は、次のとおりです。

 

#転倒リスク状態の目標の設定

 

1)危険因子に対する患者目標

危険因子に対して患者目標を設定するときは、危険因子そのものをなくすことではなく、そのような因子があるなかで、患者さんが何をできれば、あるいは患者さんがどうすることによって、転倒の危険性を減らせるのか、という視点で考えます。

 

例えば、危険因子として挙げられた「パーキンソン病による歩行障害」そのものを看護介入によってなくすことはできません。しかし、歩行障害があったとしても、患者さんが移動動作時には手すりや壁などの支えを利用するなど、自ら転倒予防行動を取ることができれば、転倒の危険性を減らすことはできます。

 

そのためにどのような看護介入ができるかを具体的に考えることができれば、それは患者目標として妥当であると言えます。

 

2)なりゆきに対する患者目標

転倒の危険性が高い状態にある患者さんにとって、最も望ましいのは、転倒が起きないこと、ですよね。


ですから、リスク型の看護診断である「#転倒リスク状態」において、なりゆきである「転倒が起きないこと」を、患者目標として挙げることは必須となります。

 

 

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転倒リスク状態の具体的な看護計画

ここからは、「#転倒リスク状態」における看護計画の作成方法を説明していきます。

 

看護計画は、危険因子やなりゆきをもとに設定した患者目標に到達するために、その患者さんに対してどのような看護介入を行うかを具体的に考えていきます。

 

1 観察計画(Observational Plan;O-P)

Eさんに挙げた観察計画は、以下のとおりです。

 

具体的な看護計画

【観察計画(O-P)】
・バイタルサイン(血圧、脈拍、体温、呼吸、意識)
・しびれや疼痛、易疲労感などの自覚症状
・起立時の状況(めまいやふらつき、動作緩慢、臥位から立位までにかかる時間など)
・歩行障害の程度(前傾前屈姿勢、小刻み歩行、すくみ足、視空間認知障害など)
・トイレや洗面所までの歩行状況(手すりなどを使用しているか、つまずきが見られないかなど)
・歩行時の履物(かかとのある履物を使用しているか)
・ベッド周囲やトイレ・洗面所までの導線環境(床の水濡れや障害物はないかなど)

・日中の覚醒・活動状況
・夜間の睡眠状況
・水分摂取量
・夜間頻尿の程度
・内服薬の追加や変更(睡眠薬、利尿薬など)
・排泄に対する自立心・羞恥心

・身体機能(呼吸機能や下肢筋力の程度など)
・認知機能(理解力、記憶力、注意力など)
・転倒や歩行に対する認識、離床行動
・入院前の生活状況、価値観、生活ニーズ

 

転倒の危険性の程度は、患者の体調や状況によって変化します。Eさんが今どのような心身の状態にあるか、Eさんの環境に変化はないか、どのような状況で転倒リスクが高まるかなどを捉えて、それに合わせた対応が必要となります。

 

そのため、観察計画では、Eさんのその日の体調や起立・歩行状態、生活導線の環境を継続的に観察するとともに、日中の活動状況や排泄に影響する要因を把握することを挙げました。

 

また、ナースコールをせずに室内を歩行するなどの転倒につながる行動の背景を知り、転倒予防のケアにつなげるために、Eさんの認知機能や転倒に関する認識、入院前の生活状況や価値観、生活ニーズなどを把握することを計画に挙げました。
 

 

2 直接ケア計画(Treatment Plan;T-P)

Eさんに挙げた直接ケア計画は、以下のとおりです。

 

具体的な看護計画

【直接ケア計画(T-P)】
・活動範囲となるベッド周囲やトイレ・洗面所までの導線上が常に安全な場となるよう、床が濡れていたり障害物があったりしないか、サイドテーブルなど車輪のあるものがロックされているかなど確認し、整備する
・パーキンソン病による視空間認知障害の程度を確認し、障害があるなかでも移動動作がうまくできるよう、バランス保持に必要な手すりの位置に色テープをするなど目立つようにして使用しやすくする。
・眼鏡、湯のみ、ティッシュなど日常生活に必要な物品は、希望に応じて手が届く枕元やサイドテーブルに置く

・夜間も確実に排泄できるよう、夜間頻尿や歩行状況に応じ、夜間のみベッドサイドにポータブルトイレを設置する
・排泄介助を求めるナースコールがあったら速やかに訪室し、体勢が崩れたときに支えることができる位置で見守る
・排泄介助に対する思いを聴き、安心して排泄介助を依頼できる信頼関係を築く

・入院や環境変化による不安や混乱を和らげるために、入院や治療についての理解状況を確認し、思いを聞く時間をつくる
・ナースコールをすることなく離床や歩行する様子が見られたら、注意するのではなく、その行動の理由を聞いて、その理由やニーズに対する支援を行う
・下肢筋力を高めるためのベッドサイドでの運動や病室内歩行に付き添う

 

Eさんは、入院時から臥床状態でしたが、本日離床となり、自宅とは異なる慣れない環境で退院までの間生活をすることになります。病室内で「タオルはどこにある?」と探していたように、何がどこにあるのかが把握できていない状況が考えられます。

 

Eさんは、パーキンソン病により前傾前屈姿勢や小刻みでのすり足歩行が認められ、歩行時は視野が狭く、姿勢のバランスが悪く、足が上がらない状態であることから、わずかな段差でも転倒する危険性があります。

 

そのため、Eさんの活動範囲となるベッド周囲やトイレ・洗面所までの導線でEさんがつまずいたり、滑ったりするきっかけとなるものを取り除くとともに、Eさんの視空間認知障害の程度に合わせて、移動動作を補助する手すりなどをうまく活用できるようにしたり、日常生活で常に使用するものはEさんの目や手が届く位置に置いたりするなど、Eさんの生活に合わせた環境整備を計画に挙げました。

 

Eさんはパーキンソン病による動作緩慢や歩行障害により、移動動作に時間を要します。そのなかで、夜間頻尿やトイレに間に合わないかもという思いもあり、照明が落とされた中での夜間の排泄は、転倒の危険性が特に高まる状況と考えられます。そこで、Eさんが安全にトイレまで移動し、確実な排泄行動ができるための大前提として、「安心して排泄介助を看護師に依頼することができる」ことを意図した直接ケア計画を挙げました。

 

3 教育計画(Education Plan;E-P)

Eさんに挙げた教育計画は、以下のとおりです。

 

具体的な看護計画

【教育計画(E-P)】
・活動能力に対する認知と現実とのズレを修正できるよう、パーキンソン病による歩行障害や安静臥床による筋力低下に伴う転倒の危険性や、転倒に伴う影響を説明する
・トイレまでの行き方、便座や手すりの使用方法を説明し、安全にトイレまでの移動や使用ができるか確認する
・自ら転倒を予防する行動がとれるよう、立ち上がり時に手すりを持つことや足元に注意して歩行することを説明する
・現状では転倒を防ぐために看護師の見守り介助を要することを説明し、夜間の排泄時や室外歩行時は、ベッドから離れる前にナースコールをするように伝える
・下肢筋力の低下に対し、動ける力を維持向上するためのベッドサイドで実施可能な運動の方法を説明する
・日常生活のなかで転倒リスクを最小限にするための工夫を共に考え、こうすればうまくいくと患者さんが実感できるようにする
・万が一転倒が生じた場合の対応方法(動かずに大声を出すなど)について伝える

 

Eさんは、入院前は自宅周囲の散歩が日課であり、離床後も入院前のような歩行ができると思っていることがうかがえます。


実際には安静臥床によって下肢筋力の低下などの廃用症候群が生じている可能性があり、自分ができるつもりの動きと実際の動きとのギャップから転倒が起きる危険性が高いと言えます。

 

一方、Eさんは、指示を理解し行動する力や自分なりに判断して行動する力を持っています。

 

そのため、Eさん自身が転倒リスクを最小限にするための行動を取れるよう、身体機能の現状や介助の必要性に納得し、転倒リスクに対してうまく取り組めている実感を持てることを意図した教育ケア計画としました。

 

Eさんは、退院後は自宅での生活となりますが、転倒の危険性がなくなるわけではありません。入院に伴う筋力低下がEさんの自宅での転倒の危険性を高めることにならないよう、また日課であった散歩が再開できるよう、退院後の自宅での転倒予防も視野に入れ、Eさん自身で動ける力を維持向上するための運動関連記事)を教育ケア計画に挙げました。
 

 

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転倒リスク状態の評価

評価

離床後1週間が経過し、転倒は起きていないが、夜間の排泄介助時にふらつきが見られ、わずかな段差につまずくなどして転倒しそうになる場面があった。しかし、看護師見守りのもと、日中は手すりを活用しながら安全にトイレまでの歩行や排泄ができている。

パーキンソン病による歩行障害によりEさんが転倒する危険性は常にある。また、来週退院の見込みであるが、自宅での転倒を防ぐためにも、ベッドサイドでの運動や病室内歩行を継続し、下肢筋力の維持向上を図る必要がある。

このことからEさんの「#転倒リスク状態」の問題は継続とする。

 

リスク型の看護診断においては、なりゆきに対して設定した患者目標に到達したかが評価では必須となります。

 

今回のEさんの「#転倒リスク状態」に対しては、なりゆきに対して設定した「移動動作において転倒が起きない」という患者目標に到達したかを中心に、以下の観点から評価を行いました。

 

・Eさんが転倒する、あるいは転倒しそうになる状況はなかったか
・Eさんが転倒する、あるいは転倒しそうになる状況があった場合、その要因として何が考えられるか
・Eさんの転倒リスク状態に対して設定した患者目標は妥当で、行った看護介入は有用であったか

など

 

評価では、看護介入の効果や、Eさんの今後の見込みを踏まえて、看護診断「#転倒リスク状態」について問題解決とみなすか、問題継続として、看護計画を続行するかなどを検討していきます。

 

 

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転倒リスク状態の看護計画書を作成するポイント3つ

個別性に応じた「#転倒リスク状態」の看護計画を作成するうえで鍵となるのは、「その人を知ること」です。そのためには、以下の3つを捉える必要があります。

 

転倒リスク状態の看護計画を作成するうえで患者さんの個別性を捉えるポイント3つ/①その患者さんの移動動作に関連する身体機能の状態例:加齢や疾患、治療に伴う筋力低下や歩行障害がどの程度見られるか ②その患者さんの移動動作に影響する認知や性格特性例:自身の筋力低下や歩行障害をどのように捉えているか、遠慮がちな性格やせっかちな性格ではないか ③その患者さんの転倒に影響を及ぼす環境要因例:ベッドサイドを含む患者の行動範囲に、滑る、つまづくなど転倒のきっかけになるものはないか

 

そして、この3つのポイントを、次のような点を踏まえて考えていきます。

 

1 転倒のリスクを高める要因

患者さんが転倒の危険性が高い状態にあるかどうかを判断するためには、何が転倒の危険性を高めるのかを知っている必要があります。

 

転倒の危険性を高める要因には、加齢や疾患に伴う身体機能の低下や障害、服用している薬の作用などといった患者自身が持つ要因(内的要因)と、障害物や段差・傾斜がある、滑りやすい、部屋が暗い、手すりがない、靴が合っていないといった周囲の環境による要因(外的要因)があります。


転倒はこれらの要因が複合的に関連して発生し、内的要因に関しては、高齢になるほどその数や程度が増し、改善困難なものが多いとされています。

 

転倒の危険性を高める内的要因には、次のようなものがあります2)。これは、転倒の危険性がある患者のスクリーニングとして臨床で用いられている項目ですが、Eさんに該当するものが複数ありますね。
 

転倒の危険性を高める内的要因/■年齢:□高齢(70歳以上)である■既往歴:□1年以内に転倒・転落した経験がある■感覚:□視力障害がある □聴力障害がある■運動機能障害:□足腰の弱り、筋力の低下がある □麻痺がある □しびれ感がある □骨・関節異常がある■活動領域:□ふらつきがある □車椅子・杖、歩行器を使用している □自由に歩ける □小刻みな歩行、間欠的跛行がある □移動に介助が必要である■認識力:□認知症の症状がある □不穏行動・夜間せん妄がある □見当識障害・意識混濁・混乱がある □判断力・理解力・記憶力の低下がある■薬物:□睡眠・精神安定剤を臨時で使用している □睡眠・精神安定剤を使用している □麻薬を使用している □鎮痛薬を使用している □下剤を使用している □降圧・利尿薬を使用している■排泄:□頻尿がある □夜間トイレに行く □尿・便失禁がある □ポータブルトイレを使用している □尿器を使用している □車椅子トイレを使用している □排泄には介助が必要である■病状:□38℃以上の熱がある □めまい・立ちくらみを起こしやすい □リハビリテーションの開始時期・訓練中である □症状・ADLが回復・悪化している時期である■ナースコール要因:□ナースコールを押さないで行動しがちである □ナースコールを認識できない・使えない■患者特徴:□危険だと思う行動を平気でする □何事も自分でやろうとする □環境の変化(入院生活、転棟)に慣れていない

 

2 動かないことによる身体機能への影響(廃用症候群)

Eさんのように、疾患や治療のために患者さんが安静臥床を余儀なくされることがありますが、動かないことで身体機能にはどのような影響があるでしょうか。


例えば、筋力は、日常生活のなかで多くの筋肉を使用することで維持されていますが、臥床状態が1週間続くことで10~15%、3~5週間で50%の筋力低下が起こるとされています3)

 

身体の不動・無動状態により引き起こされる筋力低下や骨密度の減少、関節拘縮、心肺機能の低下、腸管運動の低下、認知力の低下などの二次的障害を、廃用症候群と言います。

 

特に高齢者は身体の不動・無動状態により2、3日から1週間でこれらの廃用症候群が生じ、本人が気づかないうちに進行していることが多いとされています。

 

Eさんは高齢であり、1週間の安静臥床により、筋力低下をはじめとしたさまざまな身体機能の低下が生じていたと考えることができます。それをEさんにも知ってもらうことは、Eさんの歩行に対する認知のズレを修正し、転倒予防につながります。


また、転倒予防のために、Eさんが離床しない、すなわち動かない状況を作れば、その間転倒は起きないかもしれません。しかし、それによって廃用症候群が進行し、Eさんの転倒リスクがさらに高まるということになっては本末転倒ですよね。

 

「転倒リスク状態」の看護計画は、患者さんの安全を保持しながらも、このような動かないことによる身体への影響(廃用症候群)も踏まえて、作成していけるとよいでしょう。
 

 

3 転倒予防のための看護介入のあり方

「#転倒リスク状態」という看護診断において、必須となる患者目標は「転倒が起きない」であり、転倒予防のための看護計画が作成され、それに基づいて実施された看護介入は患者さんに転倒が起きたかどうかで評価されます。

 

しかし、転倒予防のための看護介入が、例えば、身体の拘束(抑制帯や離床センサー)や言葉による拘束(「こうしてはダメ」)を用いて患者さんの行動を制限することに終始してしまうと、患者さんの安全と引き換えに、患者さんの意欲や人としての尊厳を奪うことになりかねません。

 

患者さんの安全と尊厳を大切にしながら、個別性に応じた「転倒リスク状態」の看護計画を作成するためには、やはり「その人を知ること」が必須となります。


具体的には、その人のこれまでの生活状況や価値観、ニーズを知り、転倒につながる行動の背景に何があるのかを捉えること、その人の転倒リスクを高める内的要因と外的要因を複合的に捉え、転倒リスクの程度や転倒しやすい状況を随時把握するとともに、その人が持っている力を見極めることなどが挙げられます。

 

これらを踏まえて、「#転倒リスク状態」に対するその人に合った看護計画を作成していきましょう。
 

 

編集:看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

参考文献

  • 1)檜山明子, 中村惠子. 入院患者の転倒リスクが高い行動の分析.日本看護研究学会雑誌. 2017, 40(4), p657-665.
  • 2)田村俊太郎,  小林真,  斉藤康行他.急性期病棟における転倒・転落アセスメントシートの改訂と潜在ランク理論を用いた危険度の分類.理学療法科学. 2020, 35(5), 621-627.
  • 3)佐藤知香、梅本安則、田島文博他.  安静臥床が及ぼす全身への影響と離床や運動負荷の効果について.  JPN J Rehabil Med, 2019, 56(11), p842-847.
  • 4)園田茂.  不動・廃用症候群.  JPN J Rehabil Med , 2015, 52(4/5), p265-271. 
  • 5)鈴木みずえ, 丸岡直子, 加藤真由美他.臨床判断プロセスを基盤とした認知症高齢者の転倒予防看護質指標の有用性―急性期病院と介護保険施設の比較による検討―.  老年看護学, 2014, 19(1), p43-52

 

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