【マンガ】こころのナース夜野さん(最終話)

(前回までのお話は▶こちら

自殺をしようとした患者さんが一時帰宅。

同行した精神科ナース・夜野さんは…。

 

時間のたった畳の血はふいてもなかなか落ちませんでした。血液はお湯だと固まるから、水の方がよい、重曹を降ってからこするとよい…など落とし方を調べて実践しました。落としている最中、酒木さんは自分の手元を見つめ、

 

 

 

「オレ、なんでこんなことしたんだろ…」とつぶやきました。

私はその姿をみて、『ふしぎだなぁ…もしあと数センチ深く刺さっていたり、刺した位置がずれてたら、酒木さんはこの世にいないんだ…』と思いました。

 

 

 

『でも結局今、生きてて、血ふいて、こんなことを思うんだ…。死のうとしている時、360度ある司会が、3度くらいになって、いつものその人ではなくなってるんだ。それが心の病気ってこと…。』と考えました。

 

 

 

そして私は、『いつもの自分のまま死ねないとしたら、それは人生もったいないな。
』と思いました。帰り道、バスの中で酒木さんは「オレ、仕事しているときはつらいと感じることはなかったんだ。それは甘えだと思っていたから。」と話し始めました。

 

 

 

「病気で仕事がなくなって、金もなくなって…。相談員に言われて近くのデイサービスに行ったけど、小便くさい呆けた年寄りばっかで、オレはこんなに落ちたのか、生きてても仕方ねえなって思うようになった。」と経緯を話してくれました。私は、「お金のこと、仕事のこと、これからひとつひとつ一緒に考えていきましょう。今はひとまず、酒木さんが生きててよかったです。」と伝えました。

 

 

 

1か月後、酒木さんは無事退院。ヘルパーさんを入れ就労支援を受け、月に一回通院をしています。しばらく経ったとき、「夜野さん!」と声をかけられ振り向くと、通院で来ていた酒木さんでした。酒木さんは、「暑くなってきたなあ。夏バテには気をつけてな。」と労ってくれ、帰って行きました。振り返り手をふってくれる酒木さんを見送りながら、『本来のその人になっていく。看護師はそのささやかなお手伝いをする仕事だ。』ということに気がついたのでした。

(おわり)

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【著者プロフィール】

水谷緑(みずたに・みどり)HP

水谷緑

著書は「コミュ障は治らなくても大丈夫」(吉田尚記、水谷緑)「まどか26歳、研修医やってます!」「あたふた研修医やってます。」(KADOKAWA) 他。小学館「いぬまみれ」にて犬漫画「ワンジェーシー」連載。

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