おうちで死にたい~自然で穏やかな最後の日々~【4-3】

前回の話

看護実習中、初めて受け持った患者さんを亡くしてしまった花。
訪問看護の実習でさまざまな「おうち」を見るうちに、徐々に気持ちが変化していきます。

前回のあらすじ。担当の患者さんが交通事故で亡くなったのは自分のせいだとふさぎこむ看護学生の花。訪問看護の実習で様々なお宅に訪問し、指導ナースの話を聞くなかで、花はなにか感じたようでした。

 

 

実習の感想を求められ、花は「患者さんにとってのおうちが何かずっと考えていました。患者さんも病院にいるより穏やかで、私も病院で患者さんと接するより、おうちに行くほうが怖くなかったです…。」と正直に答えました。「患者さんが怖いの?」といった指導ナースの質問に答えられないまま、うつむいていると、同僚がフォローしてくれました。その事件を知っていた指導ナースは、「ああ…あの事件の…。気の毒だったわね…」と声をかけました。

 

そして続けて、「あなたが。嫌になっちゃったでしょう?この仕事…。初っぱなから全部背負っちゃって…。」と言いました。花は震えながら「…でも私が帰りたいって気持ちにもっと共感していれば、サインもあったし…。」と絞り出すように答えると、「私たちのしごとは失敗と反省の繰り返しなの。もっと言うと何が正しかったのか最後までわからないこともある。」と言いました。

 

「それでも仕事をやめないのは、やめたらその患者さんと出会った意味がなくなるから。患者さんは命をかけて教えてくれた。それに報いるならば、次に生かして二度と起こさないことよ…だから看護師になりなさい。」と花の目を見つめて言いました。指導ナースのことばに決心したような表情の花は、「…はい。」と答えたのでした。

 

花は、『看護師になって川田さんみたいな想いをする方がいないようにするのが、私のつぐないで、川田さんに出会った意味…。』と指導ナースの言葉を心の中で繰り返しました。実習期間を終え、その後の卒論のテーマは在宅看護について書くことにしました。川田さんの事例をふまえて、自宅ですごすということが、どれほど価値があったか改めて学び直しました。。

 

花が、卒論をすすめるときも、川田さんとはたった2日間の出会いでしたが、花の中では鮮やかに蘇り、語りかけてくるような気がして涙が出ました。『辛かったろうな、悲しかったろうな…娘さんに会いたかったろうな…』と川田さんを想いながら、卒論を書き上げました。卒論を終え同僚と一息つくと、次は国家試験と就職活動です。

 

「就職活動、どこにするの?」と聞かれた花の腹は決まっていました。そしてその場所とは、それは以前実習で訪れた訪問看護ステーションでした。新卒を採用していないという所長に対し、「…はい、ですがこちらで実習させてもらったことがきっかけで、看護師になりたいと思えたので…。」と花は答えました。それでも少し後ろ向きな師長の隣で、もうひとりのナースが「…きっかけは何だったの?」と質問しました。

 

花は、「初めての実習で担当した方を亡くして…」と過去のことを話し始めました…。面接を終えて、面接に立ち会った看護師が、以前花たちを指導したナースに「ねぇ、この子覚えてる?」と声をかけました。「うちに面接にきたの。あなた事件聞いたとき、看護師あきらめちゃうんじゃないかって心配してたじゃない。でも、ちゃんとナースになったね。」と
言いました。

 

花が看護師になったことを少し嬉しそうな顔で見つめる指導ナース。「ウチに来たいって面接にきて、所長は新卒だからって渋ってたけど、私が説得したわ。」と面接に立ち会ったナースが誇らしげに言いました。指導ナースは「喜ぶもなにも、私には関係のない話だから。」と興味なさそうな表情に戻ると、「まぁ私も同じような経験して苦しんでたから…」と付け足すのでした。

 

時は経ち、花も新人ナースになりました。『初めて担当した患者さんは、運命のように出会って、まるで自分の一部みたいになって、今も私の中に生きている。』と思っていた花に「行くよ。ほら急いで。患者さんが待ってる。」と声をかけたのは、いつかの指導ナースでした。花は、無事以前実習をした訪問看護ステーションに就職できたようでした。先輩の背を追いかけながら、花は『こんな私でもいつか』

 

『報いることができますように。そして心の中の川田さんがいつか笑ってくれますように。』と強く思うのでした。

 

(おわり)

 

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【著者プロフィール】

広田奈都美(ひろた・なつみ) HP

漫画家・看護師。某地方総合病院にて勤務後、漫画家としてデビュー。著書は「僕達のアンナ」(集英社)、「お兄ちゃんがコンプレックス」、「ママの味・芝田里枝の魔法のおかわりレシピ」(秋田書店)他。

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