有料老人ホームや介護老人保健施設(老健)など、さまざまな種類がある介護施設。
そこで働く看護師の仕事内容や役割、給料やメリット・デメリットなどをまるっと解説します。
目次
介護施設で働く看護師の役割・仕事内容は?
主な仕事内容は高齢者の健康管理
介護施設で働く看護師の仕事内容は、バイタルチェックや服薬管理、経管栄養やストーマのケア、褥瘡の処置といった高齢者の「健康管理」がメインになります。
介護施設の看護師 主な業務・仕事内容
- バイタルチェック
- 配薬準備、服薬管理
- インスリンの管理・投与
- 吸引
- 経管栄養の管理
- 褥瘡の処置
- 在宅酸素療法の管理
- ストーマの管理・ケア
- 訪問診療時の診察介助
- 感染症対策
- 転倒・転落防止などの安全対策
- 看取り、ターミナルケア
…など
治療や退院が目的の病院と違い、介護施設は利用者さんの「生活の場」。施設にもよりますが、病院で行うような高度な医療処置は少なめです。
その人らしい暮らしを支えるために、ご本人の希望や生きがいにも配慮したケアが求められます。
特別養護老人ホームをはじめ、介護施設は利用者さんの「終のすみか」になることも。看取りやターミナルケアも、看護師の大切な仕事です。
また、介護施設は医師が常駐していないところも多く、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、ウイルス性胃腸炎などの「感染症対策」は、医療職である看護師が中心的な役割を担います。
介護職との連携・役割分担が大切!
介護施設で働く看護師にとって、介護職スタッフとの連携・役割分担は大切なポイントです。
病棟看護師が担う療養生活の世話(清潔ケア、食事介助、排泄ケア、入浴介助など)は、介護施設では主に介護職スタッフが担当します。
もちろん、看護師がこれらの業務に一切かかわらないわけではありません。
食事介助を通じて嚥下機能を確認したり、レクリエーション中の様子から認知機能や運動機能をチェックしたりと、医療・看護的な視点からサポートします。
チームの一員として他職種と対等な立場で連携しながら、医療職としての職能を発揮することが求められます。
介護施設で働く看護師の1日
介護施設で働く看護師の1日のスケジュールについて、有料老人ホームを例に見てみましょう。
【9:00】出勤、朝の情報収集、申し送り
夜勤スタッフからの連絡事項や記録などを確認し、入居者さんの状態を把握します。
【9:30】健康状態の確認・巡回処置など
入居者さんのお部屋(居室)を巡回し、バイタルチェックを行います。
点眼や軟膏の塗布といった定期の処置、入浴してもOKかなどの判断もあわせて行います。
【11:00】 配薬のセット
【12:00】食事のサポート
食事の様子を見守ります。ときには食事介助を通じて、嚥下機能やマウスケアの確認をすることも。
【13:00】休憩
【14:00】レクリエーションのサポート、定期処置、通院介助など
入居者さんの状態、施設のスケジュールに応じて、午後の業務を行います。
【16:00】看護記録の入力
【17:00】申し送り、食事のサポート
夕方のミーティングや申し送り、夕食のサポートを行います。
【18:00】終業
1日の仕事が終了!
介護施設は「日勤のみ」で働ける施設が多いものの、介護老人保健施設(老健)や一部の有料老人ホームなどでは、夜勤がある場合も。
また、特別養護老人ホームや有料老人ホームでは、オンコール体制をとっているところも多くあります。当番日は夜間や休日に待機する必要がありますが、電話対応のみで済むことも多く、実際に出勤することは稀でしょう。
夜勤やオンコール体制の有無は施設によって異なるため、求人の内容をよく確認しましょう。
介護施設で働く看護師の年収・給料
介護施設で働く看護師の給料は、年収にすると320万~540万円ほど。
夜勤のある介護老人保健施設(老健)や、大手の有料老人ホームなどは高めな一方、日勤のみで医療処置も少ないデイサービスなどは低めです。
また、介護施設はパートや派遣の求人も多く、時給は1,500円~1,800円程度が一般的なようです。
職場や地域によって給料・年収の金額にはかなり幅があるので、求人の内容をよく確認しましょう。
介護施設にはさまざまな種類がある
一口に「介護施設」と言っても、その形態はさまざま。ここでは、看護師の求人も多い代表的な4つの介護施設・サービスを紹介します。
有料老人ホーム
有料老人ホームは入居者が食事の提供、入浴・排泄などの介助といったサービスを受けながら生活する施設です。
サービス内容や入居者の要介護度は施設によって異なり、看護師の仕事内容もさまざま。バイタルチェックや配薬準備といった健康管理だけでなく、看取りやターミナルケアに対応する施設もあります。
有料老人ホームは基本的に民間企業が運営しており、高価格帯の施設も多くあります。そのため「サービス」としての側面が強く、看護師にも高い接遇スキルが求められることも。
「日勤のみ」で働けるところがほとんどですが、高齢化にともない「看護師の24時間常駐」をセールスポイントにする施設も増えており、その場合は夜勤が発生します。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホーム(特養)は、介護施設の中でも要介護度が高い方(要介護3以上)が多く入居している施設です。社会福祉法人や市区町村が運営する公的施設で、「介護老人福祉施設」とも言われます。
食事や排泄、入浴に常時介護が必要な利用者さんが多い一方、病院に比べて医療依存度の高い方は多くありません。「終のすみか」として利用する方も多く、看取りやターミナルケアが比較的多くなるでしょう。
医師は常駐せず、夜勤は介護スタッフが担い、看護師はオンコール体制をとっている施設が一般的です。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設(老健)はいわば、病院と自宅等の中間的存在。医師による医学的管理のもと、在宅復帰を目指した医療ケア・リハビリテーションを提供する施設です。
利用者さんの要介護度は1~5までさまざま。病状が安定し、病院から退院した方が多く入居しています。
医師の常駐が義務付けられており、理学療法士や作業療法士などのリハビリスタッフも多く配置されるなど、介護施設の中でも「医療」に近い性格を持ちます。
看護師も24時間体制での常駐となり、夜勤もあるため、比較的病院に近い働き方になるでしょう。
デイサービス(通所介護)
デイサービスは、要介護度の低い高齢者が日帰りで食事・入浴の介助やリハビリなどを受けられる介護サービスです。「通所介護」とも言われます。
要介護2以下の利用者さんが多いため、他の介護施設以上に医療処置を行う場面は少なめです。体調の確認や入浴の可否判断、服薬管理などが主な看護師の仕事内容になります。
「日勤のみ」で働けて日曜休みの施設も多いことから、子どもがいる場合・復職する場合の勤務先としても働きやすいでしょう。常勤での募集もありますが、パート・派遣の求人が多めです。
上記で解説した4つ以外にも、介護施設にはさまざまな種類があります。
施設によってサービス内容や利用者さんの要介護度・医療依存度などは異なり、看護師の役割や働き方にも違いが出てきます。
求人を探す際は「自分がどんな仕事内容・待遇・働き方を望んでいるのか」をしっかり整理した上で、その希望が叶いそうな職場をじっくり探してみましょう。
〈その他の介護施設の例〉
- サービス付き高齢者住宅(サ高住)…高齢者向け賃貸住宅。生活相談や安否確認などのサービスを提供する。
- 認知症グループホーム…要支援2以上の認知症の方が共同生活を送る施設。義務ではないが、看護師を置くところが増えている。
- 介護型ケアハウス…要介護1以上の高齢者が介護サービスを受けながら生活する施設。有料老人ホームに比べると低価格で看護師必置。
- デイケア(通所リハビリテーション)…デイサービスよりもリハビリに重点を置いた施設。看護師が機能訓練指導員としての業務を兼務するケースも。
- ショートステイ(短期入所生活介護)…要介護1~5の利用者さんが一時的に(連続30日まで)宿泊する施設。家族の留守や休養中に利用される。
介護施設で働くメリット・デメリット
看護師が介護施設で働く上でのメリット・デメリットをそれぞれ紹介します。
介護施設で働くメリット
1じっくり長く向き合う看護ができる
「生活の場」である介護施設では、利用者さんの暮らしに寄り添って、じっくり向き合う看護を実践できます。
日々のケアを通じて、利用者さんの生きがいや喜びのある生活を支えるのは、病院看護とは違う魅力があり、大きなやりがいとなるでしょう。
患者さんが短期間で退院していく病院とは異なり、一人一人に長くかかわれるのもポイント。看取りに関心のある看護師さんには、特養や有料老人ホームなどがおすすめです。
2プライベートを大切にした働き方が可能
介護施設の看護師は、プライベートを大切にした働き方がしやすいと言えます。
施設の種類によっては、夜勤やオンコールがない職場もあるほか、病院のように「緊急入院が立て続けに入って残業になる」ということもありません。感染症が流行する時期などは一時的に残業が発生することもありますが、全般に残業は少なめです。
家庭と両立したい方、規則的な生活リズムを望む方に良いでしょう。
3ニーズ拡大中の分野だから安心
高齢化にともない「介護施設で働く看護師」のニーズは、今後ますます伸び続けていきます。
医療ケアが必要な利用者さんも増えているので、介護施設における看護師の存在感は高まる一方です。
介護施設の数も増え続けており、介護施設での勤務経験がある看護師は、職場の選択肢も広がっていくでしょう。
4アセスメント能力が鍛えられる
介護施設の看護師には、高いアセスメント能力が求められます。
利用者さんはほとんどが高齢者で、要介護度や疾患などによっては、ご自分の希望や思い、体調をうまく伝えられない方もいます。
日々の観察やちょっとしたコミュニケーションなどから情報を収集し、適切なケアを考えるアセスメント力がぐんと鍛えられるでしょう。
介護施設で働くデメリット
1看護師が少ない環境が不安
介護施設は病院よりも医療依存度の低い方が多いため、配置される看護師は1人~数人です。
「その日の勤務中にいる看護師は自分だけ」ということもあり、看護師が大勢いる病棟とは別の不安を感じることがあるかもしれません。
ただ実際のところ、一人きりで判断しなければならないケースは稀です。判断に迷うことがあれば、常勤医や提携する医師に確認する・法人本部のマネジャー看護師に相談するなど、フォロー体制が整っていることがほとんどだからです。
心配な方は見学や面接などの際に、フォロー体制を確認してみると良いでしょう。
2年収・給料はやや下がる傾向
介護施設は病棟に比べて夜勤がない分、看護師の平均年収は数十万円ほど下がる傾向です。
ただし、施設・サービスの種類、夜勤やオンコールの有無などによって給料の幅があります。
「特養や老健などで夜勤やオンコールもある」という働き方であれば、そこまで病棟と変わりない場合も。
また、大手企業が運営する有料老人ホームなどでは、高待遇で看護師を募集しているところもあります。
3医療処置のスキルを発揮する場面が少ない
介護施設での看護師は入居者・利用者さんの「健康管理」が主な仕事となり、高度な医療処置が必要な場面は少ないでしょう。
ただし、介護老人保健施設(老健)や24時間体制の有料老人ホームなど、施設によっては入居者・利用者さんの医療依存度が高く、医療処置のニーズが多いところもあります。
求人を探す際は、その施設にはどんな利用者さんが多いのか、よくリサーチしましょう。
4他職種スタッフとの関係が難しい
介護施設で働く看護師さんの中には、介護職スタッフやリハビリスタッフとの関係に難しさを感じる方もいるようです。
それぞれの専門領域は違えど、あくまで立場は対等です。初めは病院との違いに戸惑う場面も多いかもしれませんが、互いに尊重したコミュニケーションを心がけましょう。
職場見学の際などは、スタッフ同士のコミュニケーションの様子をチェックしてみるのもおすすめです。
介護施設に向いている看護師はこんな人!
- 一人一人と長期的にじっくり向き合いたい
- 看取りやターミナルケアに興味がある
- 高齢者との交流が好き
- 年収が多少下がっても「夜勤なし」で働きたい
- ワークライフバランスを整えたい
- 看護師として復職を考えている
介護施設は利用者さんの「生活の場」なので、入居期間は病院に比べて長め。一人一人と長期的にじっくり向き合いたい方にはぴったりの職場です。
施設が「終のすみか」となるケースも多く、看取りやターミナルケアに関心がある方にはやりがいが感じられるでしょう。
また、高齢者とのコミュニケーションが好きな方にもおすすめです。
加えて、介護施設は夜勤がないところが多く、突発的な対応による残業も比較的少ないため、ワークライフバランスを整えやすいと言えます。子育てとの両立や復職を考えている方には働きやすい環境でしょう。
介護施設に転職を考えているなら…
介護施設への転職を考えている看護師さんに向けて、転職の難易度や転職時の志望動機の伝え方について解説します。
求人数は多いが臨床経験が必要
在宅医療のニーズの高まりにともない、介護施設の数は増加傾向。看護師の求人も多いため、転職難易度はそこまで高くないでしょう。
ただし、「臨床経験3年以上」を応募条件としている施設が一般的なため、病棟で基本的なスキル・知識を身につけた上での転職が現実的でしょう。
一方、大手の法人で教育体制が整っている施設であれば、臨床経験が少なくてもチャレンジできることも。気になる施設があれば、求人の応募条件をよく確認しましょう。
介護施設に応募するときの志望動機
介護施設に応募するときの志望動機の例文と、伝える際のポイントを紹介します。
志望動機の例文
利用者さんを笑顔にする施設看護がしたいと思い、志望いたしました。
病棟看護では治療が最優先になり、その人らしさを尊重したケアが十分にできないと感じる場面もありましたが、あるとき患者さんから「退院後もあなたに面倒を見てほしい」と言っていただいたことをきっかけに、医療者として利用者さんの健康をサポートしながらも、暮らしに寄り添ったケアができる施設看護に興味を持ちました。
中でも貴院は「利用者さんが笑顔になれる瞬間をたくさんつくる」ことを大切にされているため、私が望む丁寧なケアやコミュニケーションが実践できるものと思い、大変魅力に感じております。
「治療の場」である病院と違い、介護施設はあくまで「生活の場」。看護師として「利用者さんの自分らしい暮らしを長期的にサポートする」という働き方にどうして惹かれたのか、自身の経験に絡めて伝えられるとベストです。
また、特別養護老人ホームや有料老人ホームでは看取りやターミナルケアを行うケースも多いため、そうした業務に惹かれたきっかけやエピソードを伝えてもいいでしょう。
一方で「夜勤がないから」「病院より忙しくなさそうだから」といった待遇面を強調するのは、印象が良くないので避けましょう。
その他、看護師が転職を成功させるためのコツと、失敗しがちな看護師の特徴については、下記の記事を参考にしてください。
▼介護施設に転職してどうだった?(※アンケートより)
26歳・女性(前職:大学病院)
同僚や介護士さんとの人間関係が良く、心身ともにストレスが少ない。ほとんど定時で終わるので、プライベートとの両立もしやすい。業務がシンプルで、ひとつひとつを丁寧に行うことができて、やりがいを感じる。
44歳・女性(前職:総合病院)
望んでいた、利用者とゆっくり関わる看護を実践できるようになった。仕事量や忙しさは減っても給料はたいして下がらなかった。
32歳・女性(前職:総合病院)
以前は仕事一色の生活で、少し体調が悪くても無理して出勤していたり、休日は出かける元気がなかったりしていたが、今は体調もよく、休日も出かける元気があり、毎日が楽しい。
※アンケートについて
・転職サポートサービスを提供する看護roo!が、看護roo!ユーザーを対象に「はじめての転職」についてのアンケートを実施。
・実施時期:2023年2月
・対象:看護roo!ユーザー(転職経験のある、現在看護師歴2~6年目の看護師・准看護師のみ)
・回答者数:1,263人