皮膚科における救急

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は皮膚科における救急について解説します。

 

早川達也
聖隷三方原病院高度救命救急センター

 

 

Minimum Essentials

1常に全身状態を意識する。

2意識、気道、呼吸、循環を評価する。

3急変対応が必要と感じたら、ただちに応援を呼ぶ。

4全身状態に関わる皮膚疾患の存在と症状について、日頃から頭に入れておく。

5基礎疾患の有無に留意する。

 

常に全身状態を意識する

皮膚科外来、あるいは皮膚科病棟では、いわゆる「急変」に遭遇するイメージはないかもしれない。しかし、この超高齢社会である。高齢でほぼ寝たきり状態の患者の褥瘡糖尿病患者の足趾壊疽など、皮膚科受診の理由はさまざまである。心臓の冠動脈に三枝病変のある患者、いつ破裂してもおかしくない腹部大動脈瘤で経過観察中の患者が、何らかの皮膚症状を訴え受診することもある。

 

高齢患者に声をかけて、反応が今ひとつ良くなかったときどう対応するか、頭の中で思い描いてみよう。「あれっ?寝ちゃったかな?」「もともと、こういう状態だったっけ…」こう思うのが普通かもしれない。だが看護のプロフェショナルであれば、もう一歩先を見据えて行動したい。意識の異常を疑えば、続いて呼吸状態はどうか、循環動態はどうか、迅速かつさりげなく評価したいところである。

 

自分自身のなかにある「急変対応のスイッチを入れる」ことが重要である。意識の異常を認知することは、続いて心肺蘇生を行うかどうか判断するためのはじめの一歩となる。「意識が変だな…」と思ったら、急変対応のスイッチを入れよう。そして重要なのは、このスイッチを入れてくれるのはほかの誰かではなく、患者のそばにいる自分しかいないということである。

 

 

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意識、気道、呼吸、循環を評価する

具体的な行動を考えてみる。「この患者さん、何だか変だな…」と思ったら、ただちに呼びかけを行おう。声を出すことができれば、とりあえず気道は開通していると評価して良いだろう。患者の応答が適切であれば、意識も良好と判断することができる。しかし、応答が適切でなければ、意識の異常と認識しなければならない。また、気道の狭窄を疑わせるいびきやゴロゴロ音があれば、気道の確保が必要となることも認識しなければならない。

 

次は呼吸状態の確認である。胸が上がっているか「見て」、口元に耳を近づけて呼吸音を「聞いて」、頰で呼気を「感じる」かどうか観察しよう。呼吸が浅い、あるいは異常に遅いか速い場合は、バッグバルブマスクを使用した補助呼吸が必要となることを認識したい。

 

同時に循環動態を観察しよう。橈骨(とうこつ)動脈を触知し、脈拍の性状を大まかに把握し、皮膚循環を迅速に把握する。脈拍が弱く早く、あるいは極端に遅く、皮膚の色調が蒼白で冷たく湿っていれば、ショック状態の徴候である。逆にアナフィラキシーショックでは、末梢血管は拡張し、皮膚は温かくなる。橈骨動脈で脈拍が触知不能であれば、頸動脈を触知する。頸動脈が触知不能であれば、ただちに心肺蘇生術を始めなければならない。

 

 

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応援を呼ぶ

「急変対応のスイッチを入れる」とは、「救急のA(=Airway:気道)、B(=Breathing:呼吸)、C(=Circulation:循環)」を自らの五感で評価することである。

 

優先すべきはパルスオキシメータや血圧計の装着ではない。ここで重要なのは、自らのものにつづき、院内(施設)の急変対応のスイッチを入れることである。ラピッド・レスポンス・チーム(rapid response team:RRT)への連絡、コード・ブルー・システムの起動など、所属する施設によって決められた手順があるはずである。急変時の対応には人手が必要であり、決して自分一人で対応しようとしてはいけない。躊躇なく応援を呼ぶことが重要である。

 

応援を呼びつつ自分でできることとして、心電図モニタ、救急カートを用意しよう。並行して、必要であれば心肺蘇生術を実施しなければならない。応援が来るまでは、一人で対応しなければならないこともある。心肺蘇生術の手順は、日常から確認しておきたい。

 

こうした対応は、普段から心がけておかないと、急に実践することは難しい。常日頃から頭の中で、目の前の患者が急変したらどうすべきかシミュレーションしておくと良い。そして、即座にチームで動けるよう、定期的に訓練をしておくことが重要である。

 

 

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全身状態に関わる皮膚疾患を知る

代表的なものとして、トキシックショック症候群(toxic shock syndrome:TSS)がある。TSS は、非常に短時間で重篤な病態を引き起こす敗血症の一種である。まれな疾患ではあるが、性別や年齢を問わず、誰でも短い時間で重篤な病態となる可能性がある。全身疾患であるが、特徴的な皮膚所見から、皮膚科を受診することがある。

 

もう少し具体的に病態を説明すると、黄色ブドウ球菌やA群連鎖球菌の感染に伴う外毒素(toxin)により、高熱、皮疹、ショックをきたし、多臓器不全に至る症候群である。発症は、嘔吐下痢といった一般的な消化器症状で、発熱は39℃以上、重度の筋肉痛を伴う。皮膚はびまん性斑状紅皮症を呈し、とくに手掌、足底では、発症後1~2週間で落屑を伴うことが特徴的である。

 

皮膚所見の確認もさることながら、非常に重篤な経過をたどる可能性が高いことに留意する。すなわち、意識の異常、呼吸の異常、循環の異常がいつでも起こりうるということである。受診時に異常を認めなくても、診察を待っている間、あるいは診察中、診察後に急変する可能性は常に存在する。入院中であればなおさらである。「スイッチを入れる」ことを躊躇してはならない。

 

 

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基礎疾患に留意する

超高齢社会の昨今、皮膚症状とはとくに関係なくとも、患者の多くはさまざまな基礎疾患を抱えていることがほとんどであろう。

 

たとえば急性冠症候群の既往があるとすれば、いくら治療済みと言えど、目の前で再発する危険性はある。このような患者が何らかの皮膚症状で皮膚科を受診中に突然の胸痛を訴えたら、あわてずに意識を評価し、呼吸状態を確認し、ショックを呈していないかどうか評価しよう。

 

血管障害の既往のある患者も同様である。急に倒れた場合は、意識の確認が必要となる。

 

糖尿病患者は、壊疽など末梢循環不全に伴う皮膚症状から皮膚科を受診することも多い。局所の感染である蜂窩織炎で受診することもある。低血糖あるいは高血糖を呈すれば、意識障害をきたす可能性がある。血管病変の存在から、心血管系疾患、あるいは脳血管障害の既往があることも多い。

 

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)などの膠原病患者は、ステロイド薬を長期間服用していることが多い。特徴的な皮膚症状を有するため、皮膚科を受診することも多いが、ステロイド薬の長期服用により、易感染性状態のことがある。軽微な蜂窩織炎かと思っていると、重篤な敗血症をきたしていることや、体温が高いなと思ったらすでにショックを呈していた、ということもある。

 

急変対応のスイッチは、いつでも入れられるようにしておかなければならない。皮膚科の受診理由だけではなく、必ず基礎疾患についても留意し、基礎疾患故の全身状態悪化の可能性について思いを巡らせるようにしておきたい。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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