皮膚疾患患者の精神的ケア

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は皮膚疾患患者の精神的ケアについて解説します。

 

西尾優子
東京都立駒込病院神経科

 

 

Minimum Essentials

1皮膚科学と精神医学は治療対象が対極のように考えられがちであるが、皮膚と心は互いに影響を及ぼし合っている。

2皮膚症状と精神症状を伴う疾患群は大きく①精神生理学的障害、②皮膚症状を有する精神疾患、③精神症状を有する精神疾患の3つのカテゴリーに分類される。

3治療の際は皮膚症状だけでなく、心理面・精神面に対するサポートが並行して行なわれることが望ましい。

 

皮膚科学と精神医学の関係

皮膚科学と精神医学は、それぞれの治療対象がかけ離れており、共通点のない学問のように見える。皮膚科学は「外界に面した、視覚認知が可能な疾患」を、一方精神医学は「内面にある、視覚認知が不可能な疾患」を治療対象としており、ともすれば対局に存在する学問のようにすら感じられるかもしれない。しかしながら、これら2つの学問は深い関係性を有しているのである。

 

皮膚は目につきやすい臓器であるため、自尊心や自己イメージの形成に影響を及ぼし、社会性を形成するうえで重要な役割を担う。このため、皮膚疾患が精神面に与えるストレスは少なくなく、約30%の皮膚疾患患者が精神症状を有するとされる。患者の心理状態や性格特性だけでなく、背景にある社会的問題、家族関係や職場での人間関係など多因子の関与が指摘されており、しばしば精神専門家による評価および治療を必要とする。

 

しかしながら精神症状に関連する皮膚疾患を有する患者は、精神病患者と認識されることに強い抵抗を感じており、精神専門家の介入を拒否することが非常に多い。皮膚医学に関わる看護師は、プライマリケアの段階で精神面に対するサポートを行いつつ、必要に応じて精神専門家への橋渡しをする役割が求められる。

 

 

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分類

皮膚科学と精神医学の境界に存在する学問は精神皮膚科学と名付けられており、皮膚疾患と精神疾患の関係に基づき大きく3つのカテゴリーに分類される(表11)

 

表1 精神皮膚科学における代表的な疾患

精神皮膚科学における代表的な疾患

(Koo J et al:Psycho dermatology:the mind and skin connection. Am Fam Physician 64:1873-1878, 2001を参考に著者作成)

 

心理社会的因子により発症・増悪・遷延化する皮膚疾患

情緒的ストレスが皮膚症状に影響しやすい疾患群を指す。皮膚がストレスに過敏に反応する身体部位(shock organ)となっており、代表的な疾患として湿疹乾癬、尋常性ざ瘡などがあげられる。これらの皮膚疾患が難治性の場合には、ストレスが背景に存在していることが多く、心理面に対する働きかけが望まれる。

 

精神的なストレスは免疫機能や自律神経のバランスを乱しやすく、慢性皮膚疾患の症状を悪化させやすい。「かゆみが増すことによりストレスがたまり」→「それゆえに皮膚を搔きむしるようになり」→「皮膚刺激が加わってさらにかゆみが増す」という悪しきサイクルを生み出す。また再発を繰り返すことで、皮膚症状は治りにくい状態となる。

 

看護師は、皮膚症状の確認や処置の際に、スキンシップを通して心理的アプローチをしやすい存在である。他愛ない会話を交わしながら、患者が話しやすい環境を整えると良い。精神専門家によるサポートが必要と判断された場合には、精神状態が皮膚疾患治療の経過を左右することがあると説明したうえで、精神科医や臨床心理士の介入を提案していく。

 

皮膚症状を有する / 訴える精神疾患

精神病理学的な問題を背景として皮膚症状が誘発された疾患群を指す。

 

寄生虫妄想症

皮膚症状に限局した妄想がみられる疾患。昆虫、蠕虫、ダニ、シラミなどに身体が侵食されると信じて疑わず、「皮膚の下で動き回る」「皮膚から飛び出してくる」などと訴え続ける。診察の際に剝離した皮膚片や全く関係のない昆虫などが入った小箱を見せ、妄想に支配された自分の主張を正当化しようとする行動が認められる(matchbox sign)。妄想を伴う他の精神疾患でも同じような症状がみられることがあるため、鑑別を必要とする。

 

妄想が疾患の主体であることから、抗精神病薬による薬物療法が有効とされるが、大半の患者は、皮膚科主治医から精神病患者として扱われることに強い抵抗を示す。この場合は、看護師から「皮膚症状への過度な意識の集中を和らげる薬」であると簡素に説明し、病因論についての掘り下げた説明を行わないことで、薬に対する抵抗感や恐怖感が軽減し、治療の遵守につながりやすい。

 

人工皮膚炎

自傷行為により皮膚症状が形成される疾患。利き手が届く範囲の皮膚に、熱傷瘢痕、紫斑、水疱、潰瘍など多彩な所見が認められる。激しいダメージを与えうる道具(火のついた煙草や鋭利な刃物、化学物質など)による自傷行為も時に認められる。

 

背景に精神病理学的な問題が存在していることが多く、境界性パーソナリティ障害、強迫神経症、大うつ病性障害や知的障害などの併存が多い。患者は自傷行為に至った経緯について話すことを拒み、情動不安定なことが多いため、治療に難渋することが多い。早い段階で精神専門家と協働して治療を開始することが望ましい。衝動コントロールのために、抗精神病薬主体の薬物療法が選択されることがある。

 

トリコチロマニア(抜毛症)

自らの毛髪を意図的に抜いてしまう疾患。10歳代での発病が多い。精神病理学的な背景には衝動性や強迫性とともに、多彩な精神疾患(嗜癖行為[しへきこうい]、ストレス反応性障害、知的障害、神経症、妄想に基づいて抜毛しつづける毛髪恐怖症など)が併存していることが多い。

 

患者は容姿の変化に後ろめたさを感じながらも、抜毛行為を止められない複雑な心理状態にある。社会との関わりを回避しやすいことから、看護師には生活状況を丁寧に聴取する役割が求められる。生活に支障をきたしている場合は、早急な精神専門家の介入が望ましい。精神心理療法とともに、極度の強迫行為に対しては薬物療法が用いられる。

 

精神症状を引き起こす皮膚疾患

皮膚疾患の存在に対して心理的ストレスが生じた疾患群を指す。皮膚疾患により外観に変化が生じ、結果として自己評価が低くなり、抑うつや屈辱感、社会恐怖などを伴うようになる。本来、皮膚は人生を脅かすものではないが、その可視性ゆえ人生を左右する存在になりうるといえよう。

 

患者は、皮膚疾患に由来する変形や損傷などの外観の変化を受け入れつつ、日々大きなストレスを抱えて社会生活を送っている。診察の前後で、毎回看護師が定期的に関わることを示し、「ここで気持ちを打ち明けて良いのだ」という安心感の提供を行うことが望ましい。精神症状によって日常生活に支障が生じている場合は薬物療法の対象となる場合があるため、精神専門家に評価を依頼する。

 

残念なことに、皮膚疾患による外観の変化を理由に、容姿が重要視される職業への就労が制限されたり、差別的な扱いを受けたりするなど、受け入れる側(社会)にも問題があることは否めない。

 

 

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まとめ

皮膚疾患と精神疾患は、一見関連がない分野ととらえられがちである。しかしながら、外見が損なわれることにより心理学的な諸問題が生じたり、精神病理学的な問題を背景として皮膚疾患が引き起こされたりするなど、密接な関係があるといえよう。皮膚疾患に対する治療と同時に、心理面へのアプローチが的確に行われることで、より良い治療環境を提供することが可能となる。

 

看護師には、皮膚科と精神科の橋渡し的な役割が求められる。看護師の存在により、互いに複雑な諸問題を医療者間で共有することが可能となり、有益な治療結果につながることが期待される。

 

 

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引用・参考文献

1)Koo J et al:Psycho dermatology:the mind and skin connection. Am Fam Physician 64:1873-1878, 2001


 

本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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