排泄とスキンケア
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は排泄とスキンケアについて解説します。
鈴木幸子
聖隷三方原病院看護部
大場 操
聖隷三方原病院皮膚科
Minimum Essentials
1排泄ケアにあたっては、羞恥心への配慮、安全への配慮、習慣・価値観への配慮が必要である。
2失禁がある場合は、失禁関連皮膚障害(IAD)のリスクがあることを理解する。
3IADを予防するためには、皮膚のバリア機能を保つケアが重要である。
4IAD対策は、排泄物に触れない、皮膚を浸軟(ふやけ)させない、皮膚への機械的刺激(拭き取り、おむつ内のずれなど)をかけないことである。
5ケアに関わる皆で情報共有し、統一したケア介入を継続することが大切である。
排泄ケアとは
排泄は、生きていくためには必要不可欠な行為であり、重要な生活の一部である。
「排泄障害による経験は、社会・文化的に適切に行われなかった場合、大きな苦痛となり、人の尊厳を揺るがしかねない。そのため、排泄ケアを提供する側は、羞恥心への配慮、安全への配慮、習慣・価値観への配慮をしながら慎重に扱うべきである」1)といわれている。病院に入院し治療やケアを受ける場合や、高齢で排泄の介助が必要になった場合などは、受ける側には常に羞恥心が伴うことを念頭に置き、上述のように配慮をする必要がある。
また、排泄障害がある場合は原因を治療するとともに、失禁によって起こる皮膚トラブルを防ぐことも重要である。
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失禁関連皮膚障害(incontinence-associated dermatitis:IAD)とは
「尿または便への曝露に起因する皮膚損傷」と定義2)されており、尿や便との頻回な接触により、びらん(図1)や紅斑(図2)が発症する。
『便失禁診療ガイドライン2017』では、失禁関連皮膚炎の予防には排便習慣指導とスキンケアが有用である(推奨度B)こと、軟便を伴う便失禁には食物繊維の摂取が有用である(推奨度A)こと、軟便を伴う場合には便性状を軟化させる食事とアルコールを控えることが有用である(推奨度B)とされており、食事や生活習慣への指導、スキンケアの有用性が示されている3)。
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失禁による皮膚障害の発生原因、機序とスキンケア
尿・便失禁がある場合はIAD発症のリスクがあるため(表1)、皮膚障害を予防・治療するためのスキンケアが必要となる(表2)。また、失禁の原因をアセスメントし、治療が可能であれば医師による治療を勧めることが重要であり、問題が解決するまでは皮膚トラブルの予防と対処が必要となる。
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皮膚障害(紅斑・びらん)に対するケア
方法
1おむつ交換時はできるだけ皮膚をこすらず、排泄物をぬるま湯で流す。その後水分を押し拭きして除去する。擦ると炎症は増悪し、皮膚損傷を招く。
2次に白色ワセリンあるいはアズノール®軟膏など、油性の軟膏を発赤部から健常皮膚にかけて、広範囲に塗付する。1日2~3回、またはおむつ交換のたびに塗布する。
3びらん面を完全に覆うように、粉状皮膚保護剤を多めに散布する。びらん面に付着したパウダーが水分を吸ってゼリー状となり、創面を保護する。次回以降の洗浄時には創面の安静保持のため無理に除去せず、ゼリー状のパウダーを残したまま、その上からパウダーを追加散布する。ゼリー状のパウダーによりびらん面が保護され、治癒が進み、痛みの緩和にもつながる。パウダー散布は毎回行う。
便を皮膚に付着させない方法
便の皮膚への付着防止には以下の方法がある。
・撥水交換のある油性の軟膏使用
・皮膚面に皮膜をつくる液状皮膚皮膜剤の使用(表3)
・便のおむつ面での拡散防止のため、便失禁用パッド(表4)の使用
・下痢便ドレナージチューブ、肛門パウチなどの使用(表4)
効果がないときのチェックポイント
①無意識に皮膚をこすっていないか確認する。
②軟膏が十分に広範囲に塗れているか確認。便が付着する皮膚範囲に塗布する。水様便のときは、ギャザーの内側すべてに塗布する。
③粉状皮膚保護剤は、毎回十分な量が散布されているか確認する。
④毎回、粉状皮膚保護剤を無理に取り除いていないか確認する。
⑤以上の①~④の点に注意しても効果がない場合は、真菌症や細菌感染を合併している場合もあるため、定期的に医師に見てもらうことも必要である。
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ケア用品
スキンケアで用いる用品として洗浄剤(表5)、保湿薬(表6)や保護剤(表7)、皮膚被膜剤(表3)などがある。用品の種類と特徴を下記に示す。
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引用文献
1)日本創傷・オストミー・失禁管理学会(編):排泄ケアガイドブック コンチネンスケアの充実をめざして、p2-4、230-246、照林社、東京、2017
2)Doughty D et al:Incontinence-associated dermatitis. Consensusstatements, evidence-based guidelines for prevention and treatment, current challenges. J Wound Ostomy Continence Nurs 39:303-315, 2012
3)日本大腸肛門病学会(編):便失禁診療ガイドライン2017年版、p50、南江堂、東京、2017
4)田中秀子:ナースのためのスキンケア実践ガイド、P8-16、照林社、東京、2008
参考文献
1)田中秀子・溝上祐子(監):失禁ケアガイダンス、p345-378、日本看護協会出版会、東京、2009
本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂