新生児マススクリーニング検査
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は新生児マススクリーニング検査について解説します。
中井抄子
滋賀医科大学医学部看護学科助教
新生児マススクリーニング事業
先天代謝異常症や内分泌疾患のなかには、早期発見・早期治療により障害の予防や軽減を期待できるものがあることから、わが国において国策として全ての新生児を対象に行われている事業である。
新生児のマススクリーニング検査は、先天代謝異常のフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース尿症を対象に1977年に全国レベルでスタートした。
さらに、2014年より、従来のガスリーテストに代わってタンデム質量分析計(タンデムマス法)が全国で導入され、アミノ酸代謝異常症に加えて、尿素サイクル異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症が対象疾患に加わり、25疾患を対象としたスクリーニングが行われている(図1)。わが国の受検率は100% であり、精度管理体制、検査システム等、世界でトップレベルのスクリーニングが実施されている1)。
タンデムマス法は発見できる疾患数が多いだけではなく、ガスリー法よりも検査精度が高い。タンデムマス法の再採血率は0.1~0.6%、ガスリーテストは1.0~1.5%であり、「再採血」の率を低く抑えることで、新生児の身体的負担や家族の精神的負担、精密検査費用も低くすることができる4)。
検査時期
生後4~7日目に行う。アミノ酸と糖の代謝異常症の検査は、これらが十分に摂取されている状態で行わなければならず、生後間もない時期や哺乳が不十分な状態で採血すると見逃す可能性がある。
方法
1新生児の踵を注射針にて穿刺し、厚さ0.4mmの採血濾過紙上に直径11mmの円4か所に血液を染み込ませる(丸印の点線を少しはみ出す程度)(図2)。
2穿刺部位を十分に圧迫止血し、穿刺部位に絆創膏を貼り止血を確認する。
3採取後は濾過紙を室温にて十分に自然乾燥させる。
4乾燥後の濾過紙を専用の封筒に入れ、その日のうちに投函する(図3)。
留意点
・ 抗生物質やアミノ輸液は、検査値に影響を与える可能性があるため、使用した場合にはその使用の有無と種類を明記する必要がある。
・感染予防のために、沐浴後に行うことが望ましい。
・嘔吐予防のために、哺乳後は避ける。
検査結果
検査結果は1週間にまとめて郵送されるが、精密検査や再採血を要する場合は医療機関に直接連絡がある。タンデムマス法にて陽性と判断された場合でも、その疾患の確定はできず、診断を確定するためにはさらなる検査が行われる。
特殊ミルク
タンデムマス法で発見される代謝疾患の治療には、食事療法や薬剤治療、生活指導などがある。食事療法として、「特殊ミルク」とよばれる各疾患に応じて一定の栄養成分を制限・強化するなどしてつくられたものがある。特殊ミルクを必要とするほとんどの病気に対して何らかの補助が受けられる4)。
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引用・参考文献
1)日本マススクリーニング学会:「わが国の新生児マススクリーニング事業」について、より2018年12月14日検索
2)仁志田博司:新生児学入門、第5版、p312~314、医学書院、2018
3)楠田聡:新生児の検査・基準値マスターブック、ネオネイタルケア2006年春季増刊(247号)、第3版、p .56~59、メディカ出版、2007
4)タンデムマス・スクリーニング普及協会:「新生児マススクリーニング Q&A2012」、より2019年3月21日検索
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版