ビタミンK2シロップの投与
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回はビタミンK2シロップの投与について解説します。
中井抄子
滋賀医科大学医学部看護学科助教
ビタミンKと新生児の生理的特徴
ほとんどの凝固因子が胎盤を通過しない性質をもち、出生時の凝固因子の備蓄が少ないこと、ビタミンKの吸収能が低くビタミンK依存性凝固因子の血中濃度が生理的に低いこと、腸内細菌叢からのビタミンKの供給が少ないことから、新生児は易出血傾向の状態にある。
さらに、母乳中のビタミンK含量は少なく個人差が大きいことや、新生児の哺乳量に個人差があることからもビタミンK欠乏に陥りやすい。
ビタミンK欠乏性出血症
新生児のビタミンK欠乏性出血症は、出生後7日までに発症する新生児ビタミンK欠乏性出血症と、それ以降の乳児期に発症する乳児ビタミンK欠乏性出血症に分けられる。
新生児ビタミンK欠乏性出血症は、生後2~4日に起こることが多いが、合併症をもつ新生児、ビタミンK吸収障害をもつ母親から生まれた新生児、妊娠中にワルファリンや抗てんかん薬などの薬剤を服用していた母親から生まれた新生児では、出生後24時間以内に発症することもある。
出血部位は皮膚と消化管が多く、出血斑、注射・採血など皮膚穿刺部位の止血困難、吐血、下血が高頻度にみられる。
乳児ビタミンK欠乏性出血症は、主として生後3週から2か月までの母乳栄養児に発症し、8割以上に頭蓋内出血を認め予後不良であることから、とくに予防が重要な疾患である1)。
ビタミンKの積極的な摂取
ビタミンKを豊富に含有する食品(納豆、緑葉野菜など)を摂取すると乳汁中のビタミンK含量が増加するので、母乳を与えている母親にはこれらの食品を積極的に摂取するように勧めることも予防につながる1)。
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ビタミンK2シロップ投与
ビタミンK欠乏性出血症の予防を目的とする。現在では3回ビタミンKをきちんと投与された新生児では、隠れた肝障害や吸収異常の事例以外、ほとんどその発症をみない2)。
投与時期と方法
①1回目:数回の哺乳により哺乳の確立を確認した後に、ビタミンK2シロップ1mL(2mg)を経口的に1回投与する(図1)。
②2回目:生後1週または産科退院時のいずれかの早い時期に、ビタミンK2シロップを前回と同様に投与する。
③3回目:1か月健診時にビタミンK2シロップを前回と同様に投与する。
1回目投与の際には、ビタミンK2シロップは高浸透圧のため、滅菌水で10倍に薄めて投与してもよい。また、2回目以降の投与はK2シロップをミルクに混ぜて与えても構わない。ただし、母乳栄養の場合は母乳の味が変化することから、母乳と混ぜて投与することはしない。
留意点
・確実な投与を行うために、満腹時を避け、飲み残しのないようにする。また、投与後の嘔吐を避けるために十分な排気を行う。
・嘔吐した場合には、再投与が必要である。
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新生児メレナ
消化管出血である新生児メレナ(melena)は、次の3つに分けられる。
・仮性メレナ:出生時に児が飲み込んだ母体血が吐物や便中に混じたことによる。
・真性メレナ:ビタミンK欠乏性出血症による。
・症候性メレナ:種々の原因による消化管粘膜の障害による。
血液が母体由来か児由来かは肉眼的には鑑別できないため、アプト(Apt)試験を行う。アプト試験では血液を蒸留水で溶血させたピンクの液体に苛性ソーダを加え、緑褐色の場合は母体由来、ピンク色のままであれば児由来と判断する(図2)。
母体由来と判定されれば、採血・下血ともに軽快することが期待されるが、児由来と判定された場合には、真性メレナか症候性メレナかどうかの鑑別にヘパプラチンテスト(採血)を行い、ビタミンK欠乏性出血症の有無を鑑別する2)。必要時、内視鏡的検査も行い積極的に診断を行う。
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引用・参考文献
1)公益社団法人日本小児科学会:「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン(修正版)」について、2018.12.12検索
2)仁志田博司:新生児学入門、第5版、p312~314、医学書院、2018
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版