呼吸器疾患の終末期ケアと意思決定支援

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は呼吸器疾患の終末期ケアと意思決定支援について解説します。

 

 

 

佐野由紀子
さいたま赤十字病院10F西病棟看護師長
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
髙橋真理子
さいたま赤十字病院看護部看護係長
緩和ケア認定看護師

 

 

がんと非がん性疾患の終末期に至る軌跡の違い

呼吸器疾患の患者さんが終末期に至るまでの軌跡は、疾患によって異なります(図1)。

 

図1 疾患別の予後モデル

疾患別の予後モデル がんなど 心・肺疾患末期 認知症・老衰

 

がんの場合、比較的長い間機能は保たれ、最後の2か月くらいで急速に機能が低下する経過をたどります。非がんである慢性呼吸器疾患では、急性増悪を繰り返しながら徐々に機能低下し、最後は比較的急な経過をたどるとされています。こうした違いを理解し、段階に合わせて、終末期ケアを実施することが大切です。

 

厚生労働省が作成した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018年改訂)」では、「医療・ケアチームにより、可能な限り疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、本人・家族等の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療・ケアを行うことが必要である」1)とされています。医療・チームの中で看護師の果たす役割は重要です。

 

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肺がん終末期のケアと意思決定支援

肺がん終末期の症状

がんの進行により、疼痛、呼吸困難、悪心・嘔吐、食欲不振、倦怠感、不眠などさまざまな症状が出現し、患者さんに苦痛をもたらすとともに、自立した生活を維持していくことが困難になります。

 

がん患者さんの呼吸困難は頻度が高く、40~60%、肺がんでは70~90%が症状を有するといわれています。また、胸水の貯留によって呼吸困難がより厳しくなり、不安や死への恐怖を生じやすくなります。

 

がんの転移による痛み、骨折などを併発することもあります。

 

呼吸機能に障害をもつ患者さんの終末期は、身体的苦痛に加えて、体動制限、生活制限があります。

 

呼吸困難は話をするときにも増強するため、心理的な苦痛も大きくなります。

 

症状マネジメント

患者さんの痛みを可能な限り軽減するように努めていきます(図2)。患者さんや家族に、モルヒネなどの麻薬系鎮痛薬に関して、薬理作用や安全な使用方法、便秘などの副作用の対処などを説明し、納得して疼痛コントロールに参加できるよう援助します。

 

図2 症状マネジメントとケア

症状マネジメントとケア

★1 放射線療法

 

排痰によって体力を消耗するため、去痰薬を用い、痰の吸引を実施します。

 

呼吸困難に対し、酸素療法や緩和目的として、非侵襲的陽圧換気(NPPV;non-invasive positive pressure ventilation)を用いることもあります。患者さんの反応を注意深く観察しながら、体力を消耗させないように全身管理やケアを実施してきます。

 

 

がんによるさまざまな身体的苦痛だけでなく、病状や予後に対する不安などの精神的苦痛、役割喪失や経済的問題などの社会的苦痛、死の恐怖や生きる意味を失うスピリチュアルな苦痛から患者さんの全人的苦痛(トータルペイン)をアセスメントし、援助していくことが大切です(図3)。

 

図3 全人的苦痛(トータルペイン)

全人的苦痛(トータルペイン)

 

家族への支援

家族は患者さんの呼吸困難や苦痛、るい痩、意識障害などを目の当たりにし、心理的な苦痛に巻き込まれることがあります。そして、次第に近づいてくる死を受け入れていかなければなりません。患者さんの苦しみに対して「何もしてあげられない」と無力感を抱いたり、大切な人を失うことに予期的悲嘆を感じることがあります。

 

患者さんの苦痛を緩和するとともに、家族が苦悩を表出できるように話を聴き、家族が患者さんのそばにいられるように援助する必要があります。

 

意思決定支援

患者さんとその家族は、がんと診断されてから、治療の選択や中止の決定、療養の場の選択など、さまざまな場面で意思決定を繰り返しています(表1)。

 

表1 がん患者さんが直面することの多い意思決定場面と患者さんの気持ちの例

 がん患者さんが直面することの多い意思決定場面と患者さんの気持ちの例

 

医師から説明を受けられるように時間や場所を設定し、患者さん・家族の理解を確認しながら、質問ができる環境を整えます。患者さんと家族の考えや価値観などを大切にしながら意思決定できるようにかかわっていくことが重要です。

 

終末期になると患者さんの意向が確認できず、家族が代理意思決定をせざるを得ない場面もあります。どのような選択をしても、「本当にこれでよかったのか」と家族が苦悩する場合があります。家族が何を大切に思い、なぜその決定をしたのか、家族の想いを聴き、受け取ることが家族への援助となります。

 

 

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慢性呼吸不全の終末期ケアと意思決定支援

COPD間質性肺炎など、非がんの慢性呼吸不全では、増悪と安定を繰り返し、生命予後が不確かなことが多いとされています。そのため、終末期かどうかの判断がつきにくく、いつから緩和ケアやエンドオブライフケアを実施するかが難しいといわれます。その中で患者さんや家族は、大きな不安と恐怖を抱きます。

 

慢性呼吸不全(非がん)患者さんの終末期の症状

慢性呼吸不全の主症状は労作性の呼吸困難であり、持続的で進行性に悪化することが特徴です。重症化し終末期になると、安静時にも呼吸困難が出現します。

 

慢性呼吸不全が進行すると、肺動脈圧が上昇して肺高血圧症を合併します。持続的な肺高血圧症は右心室肥大と拡張をもたらし、肺性心と呼ばれる状態になります。さらに進行すると右心不全となり、頸静脈怒張、下肢浮腫、体重増加、尿量減少などが起こってきます。

 

慢性呼吸不全では、やせ型の患者さんが多くみられます(図4)。呼吸筋の仕事量が増加しており、安静時でもエネルギー消費量が増大しているのにもかかわらず、食欲が低下するためです。それが栄養状態の低下と体重減少をまねき、さらに呼吸困難が悪化するという悪循環が形成されていきます。

 

図4 慢性呼吸不全と低栄養

慢性呼吸不全と低栄養

 

症状マネジメント

呼吸困難は、COPDを代表とする非がん患者さんの終末期で最も多い症状です。

 

慢性呼吸不全の患者さんにとって呼吸困難が最大の苦痛であり、その頻度と持続時間は末期の肺がんをもしのぐとされます(表2)。呼吸困難の軽減に努めることはとても重要です。

 

表2 人生の最期の年に認められた症状

人生の最期の年に認められた症状

 

呼吸困難への対症療法として、薬物療法と非薬物療法があります(図5)。

 

図5 呼吸困難の症状マネジメント

呼吸困難の症状マネジメント

 

薬物療法

初期は短時間作用型のモルヒネを使用します。最終末期では、超短時間作用型鎮静薬や長時間鎮静効果が得られる薬剤などを使用し、症状緩和が図れているか呼吸困難の程度を評価します。

 

モルヒネによって効果が得られない場合で、とりわけ不安の強いケースには、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の投与が検討されます。ただしエビデンスに乏しく、呼吸抑制を起こしやすいので注意が必要となります。

 

気管支拡張症などで喀痰の分泌が問題になる場合は、気管支拡張薬の投与のほか、吸入や呼吸理学療法を駆使し、十分な喀痰管理を図ることが重要です。

 

ステロイドは、抗炎症作用、浮腫軽減作用、免疫抑制作用をもち、COPDの急性増悪、間質性肺炎などで投与されます。非がんの終末期患者さんの症状緩和に対するエビデンスはないとされています。

 

非薬物療法

医師の指示のもと、酸素療法人工呼吸療法を行い、酸素流量や濃度を調整しながら、生理的欲求が充足されるようにセルフケア介助を行います。

 

腕を上げる動作や息を止める動作、反復動作、腹圧をかける動作などは息苦しさを生じやすいため、酸素投与量や介助方法を検討します。

 

安楽な体位として、横隔膜の運動を阻害しないヘッドアップ30~60度をとります。

 

呼吸法を整えるように声をかけます。呼吸困難に陥るとパニックになる場合があります。吸気を意識してしまう場合が多いため、呼気のコントロールをしていくことで最小の努力で呼吸の調整が図れます。

 

間質性肺炎では、深くゆっくりした呼吸パターンがかえって呼吸仕事量を増大させることもあります。

 

意思決定支援

患者さんが重篤な状態になり意思決定ができなくなった際には、家族に代理意思決定をしてもらう必要があります。あらかじめ患者さんが家族と、最期はどのように過ごしたいか話し合っていたかどうかにより、家族の負担も大きく変わることがあります。近年では、このようにあらかじめ最期の過ごし方を家族や医療者と話し合う取り組み、アドバンスケアプランニング(ACP;advance care planning)が積極的に行われるようになっています。

 

看護師には、呼吸器疾患のそれぞれの特徴を理解し、ACPや意思決定支援の調整役を担うような役割が期待されます。

 

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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