呼吸器疾患の退院支援とセルフケアマネジメト支援
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は呼吸器疾患の退院支援とセルフケア支援について解説します。
佐野由紀子
さいたま赤十字病院10F西病棟看護師長
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
平澤真実
さいたま赤十字病院ICU看護主任
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
早期から退院支援を実践する
呼吸器疾患の患者さんは、生活をしていくうえで、呼吸困難による身体的苦痛が大きく、療養には多くの知識や技術を必要とし、家族に対する負担も問題となることが多いです。
退院後の生活を整えるためには、入院前の日常生活動作(ADL)やセルフマネジメント能力、家族構成、サポートの有無、住宅環境などの情報収集を行う必要があります。
治療方針の決定や患者指導のためには、患者さんや家族が疾患をどのようにとらえているか理解しておくことが重要です。そのため、予定入院の場合は入院前から(入退院支援センターで)、緊急入院の場合はできるだけ早期からこれらの情報を入手し、問題に対して早期に着手する必要があります。
収集した情報をふまえ、指導や支援を実践し、必要な社会保障や社会資源の利用を調整していきます(表1)。
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社会保障や社会資源の利用を調整する
身体障害者手帳
福祉サービスを受けるためには、身体障害者手帳の交付を受ける必要があります。身体障害者手帳の交付を受けるためには、地域の福祉事務所へ行き、身体障害者診断書・意見書を提出します(図1)。
呼吸器疾患は内部障害に分類され、その程度によって1、3、4級(2級はなし)に分けられます(表2)。等級によって受けられるサービスが異なります。
呼吸機能障害の程度は、予測肺活量1秒率(指数)、動脈血ガス、医師の臨床所見によって判定されます。
介護保険
65歳以上では、疾患にかかわらず介護が必要な場合に申請ができます。
介護保険の認定を受けるためには、市町村に申請する必要があります(図2)。その後、訪問調査と主治医の意見書をもとに、介護認定審査会において判定が行われます。
判定は、非該当、要支援1~2、要介護1~5に分類されます。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は介護保険法における特定疾病に該当するため、40歳以上65歳未満で申請することができます。
memo:介護保険法における特定疾病
1.がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
2.関節リウマチ
3.筋萎縮性側索硬化症
4.後縦靭帯骨化症
5.骨折を伴う骨粗鬆症
6.初老期における認知症
7.進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病(パーキンソン病関連疾患)
8.脊髄小脳変性症
9.脊柱管狭窄症
10.早老症
11.多系統萎縮症
12.糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症およびび糖尿病性網膜症
13.脳血管疾患
14.閉塞性動脈硬化症
15.慢性閉塞性肺疾患
16.両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
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呼吸器疾患のセルフマネジメント支援のポイント
呼吸器疾患では、症状がなくても治療を続ける必要があります。そのことをしっかり理解してもらうように患者さんに指導を行うことが重要です。
患者さんのみならず、家族にも治療内容を理解してもらう必要があります。指導の際には、家族などが同席できるよう調整しましょう。
服薬・吸入指導
患者さん自身が管理できるのか、それとも家族やヘルパーなどの他者に管理を依頼するのかを確認し、指導を行うことが必要です。
禁煙
呼吸器疾患においては、禁煙が非常に重要であり、経済的ですぐにできる治療の1つです。禁煙外来を活用し、患者さんに禁煙指導を行いましょう。
運動
運動療法は呼吸困難や運動耐容能、活動性を改善させるという効果があります。患者さんの状態に合わせたトレーニングを立案し、自宅でも継続できるように指導することが大切です。
増悪予防
症状の増悪と再入院の予防のためには、患者さんがしっかりと自己管理できることが重要です。
手洗い・含嗽、ワクチン接種などの感染予防や、どんな症状が出たら受診したらよいのかなどの対策方法を指導しましょう。
栄養
呼吸商との関連により、糖質の多い食事を摂取すると二酸化炭素の産生が増加し、換気の需要が高まることから、動脈血中に二酸化炭素が蓄積しやすくなります。そのため、慢性呼吸不全の患者さんでは、高蛋白・高脂質の食事が望ましいです。
memo:呼吸商
体内で産生される二酸化炭素量と、栄養を摂取して体内で燃焼されたときに消費する酸素量の体積比のこと。
三大栄養素の呼吸商は
●糖質 1.0
●蛋白質 0.8
●脂質 0.7
食事中すぐに呼吸困難が生じ、摂取量が増えない患者さんには、1回の食事を複数回に分けて少量ずつ摂取できるような工夫が必要です。食事摂取時の体位の調整も行い、腹部を圧迫しないような調整が必要です(図3)。
日常生活動作と呼吸の工夫
患者さんは日常生活で呼吸困難と付き合っていかなくてはなりません。普段習慣的に行っている動作が苦痛と感じてしまうと、活動性が低下し、寝たきりとなってしまう恐れがあります。そのため、日常生活動作が少しでも楽に行えるような動作の指導や、呼吸困難が出現した際の対処方法として口すぼめ呼吸(図4)などの呼吸法をあらかじめ指導しておくことが大切です(表3、図5)。
表3 呼吸困難を増強させる 4つの動作と、呼吸困難を防ぐ工夫
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社