どうなる?特定行為スタートで看護師の法的責任はふえるのか

 

看護師の特定行為の議論が、12月の取りまとめにむけて厚生労働省で進められています。本来なら、そのつど医師の指示を受けて行うべき診療の補助を、「研修」を受けた看護師が「手順書」の範囲内で、自分の判断で行えるようになるのがこの制度です。

 

では、特定行為制度がスタートしたら、看護師自身の法的責任はどうなるのでしょうか?厚労省では、特定行為の議論よりも先に、看護師の法的責任について考察した報告書をまとめています。今回は、報告書から看護師の法的責任について考えてみます。

 

看護師の責任を問う判例が増加

もともとは、医療過誤などが起こった時には、指導監督を行った医師に主たる責任が負わされることが多かった日本の法制度。でも、チーム医療の拡大で、看護師が医師とともに、責任を負わされる判例が増えています。いくつか判例をご紹介します。

 

・2007年9月、業務上過失致死。

栄養剤注入用チューブを鼻腔から食道を経由してに挿入しなければならないところ、誤って気管に挿入。誤挿入に気付かないまま栄養剤を気管に注入して、気道閉塞により患者を窒息死させる。聴診器を使用して胃液の気泡音を聴取するなど、チューブが確実に胃に挿入されていることの確認を怠った責任を問われた。

 

・2007年7月、業務上過失致死。

抗不整脈剤キシロカインを点滴投与する際に、シリンジポンプの適切な操作を怠り、患者を心肺停止状態に陥らせて低酸素脳症によって死亡させる。同薬剤の過剰投与は心肺停止などの重篤な状態に陥らせることがわかっており、医師からも毎時5mLの投与を指示されていたが、直前まで投与していた別の薬剤の投与量である毎時80mLを調節せずに、そのまま投与した。

 

このように、指示を出したのは医師であっても、看護師に明らかな判断ミスがあった場合は民法・刑法上も責任を問われています。

 

チーム医療や在宅医療での役割拡大が背景

看護師の責任を問うようになった背景は、

チーム医療の拡大による分業の推進

在宅医療における看護師の役割拡大

看護師賠償責任保険がある以上、医師と同等の責任を問えるとの考え方

――などがあるようです。

 

静脈注射や麻酔は局長通知で明確に

特定行為として認められる診療の補助については、静脈注射のように個別に行政通知が出されているものもあります。

 

まずは静脈注射です。1951年の局長通知では、患者への身体的影響の大きさから、看護師による実施は禁じられていました。その後、半世紀を経て、2002年「新たな看護のあり方に関する検討会」が中間報告をまとめます。これを受けて、「看護師等による静脈注射の実施は診療の補助の範囲に入る」と、行政解釈の変更が行われました。医療現場の実態に応じて、行政解釈が変更された事例です。

 

次に、麻酔です。こちらは1965年の厚生省医事課長通知によって、「看護師が診療の補助の範囲を超えて、業として麻酔行為を行うことは、医師法違反になる」とされています。看護師が主体となって麻酔を行うことは、現状では明確な医師法違反ということです。

 

これらの例のように、看護師による実施の可・不可が明確になっているものはごくわずか。その他の多くの行為が、現場の医師によって看護師に任せるかどうか、判断されているのが現状です。

 

特定行為の創設によって、看護師の業務範囲や責任の所在がより明確になることが期待されます。一方で、研修を受けた看護師については、これまで以上に責任を負う必要も出てくるでしょう。

 

研修を受ける看護師も受けない看護師も、すべての看護師にとって大きく関係する特定行為。法的責任の所在も含めて、議論の行方が注目されます。

 

(参考)
厚生労働科学特別研究事業「医療行為に関する法的研究」

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