かげ×現役看護師中山有香里スペシャル対談|現役看護師かげさんの明日を生き抜く看護メンタル(26)
『現役看護師かげさんの明日を生き抜く看護メンタル』より転載。
今回はかげさんと、現役看護師中山有香里さんとのスペシャル対談です。
ベストセラー『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』(通称・ズルカン)の中山有香里さん×かげさんのスペシャル対談が実現!
以前から親交のある2人が、自分たちの新人時代や看護師という仕事の喜びについて語り尽くします!
ギャルの先輩がひたすら怖かった新人時代
中山さんの「今までのつらかったエピソード」ってどんなものですか? いきなりつらい話から始めるのもあれですけど(笑)。
本当につらかったのは、入職してすぐ、1年目の春から夏にかけてです。
プリセプターの先輩とうまく関係が作れなかったんですよね。
私を受け持ってくれたプリセプターの先輩がなんていうかこう……なんやろ、めっちゃ怖いギャル、みたいな。
あ、ちなみに私の先輩もギャルでした。私も当時は怒られるのが怖かったです。
先輩としては普通に接してくれていたかもしれないけど、こっちがすごく怖がって萎縮してしまうんですよね。
怖いからうまく報告できない、報告できないから怒られる、怒られるからもっと怖くなる、という感じで、どんどん悪いループにハマってしまいました。
入ったばかりの頃って、どうしても先輩のことが怖く見えてしまうんですよね。
同期の中で自分だけ毎日怒られてるし、帰りも自分だけ遅くなるし、もう本当にどん底でした。
同期がめっちゃいい子たちで、毎日私が終わるのを待っててくれたんだけど、それもまたつらくて。
大げさではなく「消えたいな……」とか、そういう気持ちになるくらいには追い詰められていました。
ある日、いいループに入る入り口を見つけた
どん底の時期を抜けるきっかけは何だったんですか?
1年目の夏の終わりくらいに、プリセプターのギャルの先輩がめっちゃほめてくれたことがあったんです。
そこでようやく「先輩はこれを求めてるんや」っていうのが理解できた気がして。
手応えのようなものを感じられたんです。
そこからは今までとは逆にいいループで、私も「これでいいんだ」と思えるようになったから萎縮することなく動けるようになったし、先輩も「そうそう、それでいいんだよ」みたいに認めてくれることが増えていきました。
私も始めたばかりの頃は先輩との関係で悩みました。
一番つらかったのは、1年目の終わりから2年目のはじめです。
1年目は必死すぎてよくわからないまま気づいたら冬になってた、という感じでした。
中山さんと同じく、1年目でうまくできない部分は私もやっぱり多くて。
自分のこともできてないのに、2年目になったら私の下に新人の子が入ってくる。
先輩から「もうすぐ新人がくるのに、こんなんで大丈夫なの?」と言われることが増えて、本当にキツかったです。
プレッシャーとストレスで難聴になったし、偏頭痛で寝込んだこともあります。
「仕事に行きたくない」を通り越して、無感情で毎日を過ごしていました。
その状態を抜けたのは3年目あたりだったと思います。
つらかったからこそ後輩のことを助けたい
私自身が後輩を指導する立場になって「ああ、先輩もあのときこんな気持ちだったのかな」ってわかる部分があるんです。
後輩の子がつらそうだったら助けてあげたい、とか。
先輩が後輩に声をかけてあげるのは大事だと思う。
私がどん底にいた時期に、プリセプターとは別の先輩がエレベーターの中で「ちゃんとできてると思うよ」って声をかけてくれたのを今でも覚えているんですよね。
後輩のいいところを見つけてほめてあげるとか、ただの雑談とか、なんでもいいから声をかけるのは自分も気をつけています。
先輩がフランクに喋ってくれるのって、それだけでうれしかったから。
私も後輩と話すようにしているけど、どうしてもぎこちなくなっちゃうんですよね。
「趣味は何ですか?」みたいな(笑)。
あらかじめ趣味を聞いておいて、アイドルが好きな子なら新曲の話題を振ってみたりしています。
すごくいい先輩じゃないですか。
新人の頃って、失敗も多いし、いろいろ言われるし、一人だけで悩みを抱えてしまいがちじゃないですか。
だからこそ、ほめたり話しかけたりして、その子に孤独を感じさせないっていうのは大事ですよね。
私の場合、同期がいたから孤独感に負けずに済んだのかも。
私が上がるのを遅い時間まで待ってくれて、自動販売機のジュースを飲みながら「今日こんな失敗しちゃったよ」と言い合って。
そういう時間のおかげで「悩んでるのは私だけじゃないんだな」と思えたから。
そうですよね。同期の子や同じ病棟の仲間たちと話すだけでも救われるというか。
先輩でも同期でもいいんですけど、周りの人に頼れるかどうかは、看護師として生き抜いていくうえですごく大事なスキル。
1年目の私みたいに、何も言えなくてストレスを溜め込むくらいなら、先輩に頼っていいと思う。
ですよね。たとえば、苦手な患者さんがいたら「代わってもらえますか?」ってお願いするのだって全然アリ。
先輩側からすると「言ってくれたらいいのに」なんですけど、後輩側はどうしても言いにくいんですよね。
病院という特殊な場で「死」に向き合うこと
受け持ちの患者さんが亡くなってしまうときに、つらそうな子がいたら代わってあげたり、というのもたまにありますね。
毎日関わってきた人が亡くなるっていうのは、特に最初のうちはしんどい出来事ですから。引っ張られて落ち込む子もいるし。
中山さんは患者さんが亡くなったときに、どんな思いが浮かんできますか?
「死」というものに何度も直面したから慣れてきた、ということはないです。
でも、患者さんが亡くなったことに打ちのめされる、というよりも「もっとできることがあったな」と自分自身を省みるような、そういう思いのほうが強い。
看護師になったばかりの頃は患者さんが亡くなって自分が泣くこともあったけど、今は泣かないのが普通になった気がします。
私も泣かなくなりました。
病状的に末期で「死ぬことがつらい」と嘆く患者さんと話していると、瞬間的に「ヤバい、泣きそう」って感じることは今でもあります。
でも、少し時間をおいたり病室からナースステーションに戻ったりすると、落ち着きを取り戻せる。
患者さんの「死」と自分の間に一線を引くとか、べったりくっつきすぎないとか、そういうのも長年やってきて学んだことですよね。
そうやって自分を保っているからこそできることもあると思う。
「死ぬのが怖い」と言い続ける患者さんのために、時間を作って話し込むこともあるけど、私自身が一線を引けてなかったら話を聞いてあげるのも難しいし。
このあたりは看護師それぞれの性格にもよりますよね。
患者さんが亡くなって泣くのが悪いわけでもないから、泣くのを我慢している後輩がいたら「泣いていいんだよ」と声をかけるようにしています。
それでも、看護師をやってよかった
患者さんがいい経過を辿らずに亡くなるというケースをいくつも経験する中で、患者さんや家族の希望を叶えてあげられる瞬間、というのがあって。
たとえば「最後の正月になるだろうから家で家族と過ごしたい」と要望があり、医師や看護師が計画を立てて一時帰宅を実現したり。
こういう願いが叶ったときに「看護師をやっててよかった」と実感します。
「少しだけ外を歩きたい」とか「死ぬ前にお風呂に入りたい」とか、ささやかな希望を叶えてあげられたときが私はうれしいです。
「死」に直面したり「死」を前にしてささやかな願いを持ったり、そういう人間らしい瞬間が、病棟の中にはありますよね。
かげさんはどんなときに「看護師をやっててよかった」と感じます?
病院にいることって、患者さんにとって「苦痛」だと思うんです。
出産のような喜びの場面もあるけど、体や気持ちが弱っていたり、不安になったり、たいてい患者さんは苦しい状況に置かれている。
そういう苦しい状況なのに、看護師の私たちが患者さんに受け入れてもらえるのは、すごいことだと思うんです。
「弱った姿を見せたくない」と言って友だちの面会を断わるケースもありますもんね。
そういう患者さんでも、看護師の私たちにはありのままの姿を見せてくれるわけです。
患者さんが苦しい時期を乗り越えようとがんばっているときに、彼らと同じ時間、同じ空間を看護師は共有させてもらえる。
だからこそ、もっと勉強して、もっとできるようになって、患者さんにとっていい対応をしようって思えるんです。
いい対応ができたら「看護師をやっててよかった」と思うし、そのために努力しながら仕事を続けていくことにも、看護師という仕事の素晴らしさを感じています。
「とりあえず続けるか」で見えてくるものもある
この本を読んでいる読者のみなさんはきっと、看護師として働いているけど悩んでいたり、看護師を目指しているけど迷っていたり、という人たちが多いんじゃないかなと思います。
中山さんは私にとって尊敬する先輩であるのはもちろんなんですが、読者のみなさんにとっても先輩です。
悩みや迷いを抱えて苦しい思いをしている読者のみなさんに、中山さんからメッセージをいただけませんか?
私、すごく強い意志で看護師を目指したわけじゃないし、高い志があったわけじゃないんです。
看護師をやって10年以上経った今も、この仕事が私に向いているかわからない。
目標や志はぼんやりしていたけど、今の私が思うのは「看護師を続けていてよかったな」ということ。
つらいこと、しんどいこと、たくさんあるけど、「やっぱりいい仕事やな」と思います。
だから、目標がなくてもいいし、悩んだり迷ったりしていてもいい。
とりあえずやってみるかという気持ちで看護師を続けたり、看護師という仕事にチャレンジしたり、そういうのもありなんじゃないかな、と思います。
ありがとうございます! 私も中山さんの言葉を大切にして、まだまだ看護師を続けていけそうです。
病棟看護師、保健師、呼吸療法認定士、終末期ケア専門士。
看護師・看護学生に向けたわかりやすいイラストでの医療知識の解説で、ファンを増やし続けている。著書に永岡書店『ホントは看護が苦手だったかげさんのイラスト看護帖〜かげ看』、南江堂『かげさんのイラストで学ぶ 心電図と不整脈めも』など。
看護roo!では『看護師かげと白石の今週のモヤッと』を連載。
看護師。
看護roo! BOOKS『ズボラな学生の看護実習本 ずぼかん』、メディカ出版『ズルいくらいに1年目を乗り切る看護技術』などの看護師・看護学生向け書籍が大ヒット。
KADOKAWA『泣きたい夜の甘味処』で第9回料理レシピ本大賞コミック賞を受賞。
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