乳がんを経験した女性と共に歩む人工乳房

池山メディカルジャパンは、社長の池山さんが妹さんの乳がんをきっかけに、人工乳房の開発を始めました。付けたまま温泉旅行に行けるほどの人工乳房を作成する会社は、日本どころか海外にもほとんどなく、世界中からたくさんの相談や問い合わせが寄せられています。池山さんも日本中を飛び回り、車の走行距離は1年に6万kmを超えるとのこと。

 

事業の方向性を決めたのは、最初の人工乳房作成のときでした。

 

毎日親戚が増えていく仕事・池山メディカルジャパン【2】

 

【前回の記事】妹の願いから生まれた「温泉に入れる」人工乳房

 

「おっぱいがよみがえった」医師が泣いた人工乳房

研究に研究を重ね、3年がかりで見た目もさわり心地も本物そっくりの人工乳房が完成しました。乳がんの学会に出品してみると、医師たちからは非常にいい反応がもらえたそうです。それからは人工乳房を知ってもらうため、全国の病院を訪れて医師や看護師に製品の説明をして回る日々でした。

 

ある時訪れた長崎の病院で、医師が池山さんの人工乳房に興味を持ち、別れ際に「患者さんを紹介してあげる」とまで言ってくれました。医師から電話が来たのはすぐ翌日のこと。病院の一室で商品として最初の人工乳房作成が始まり、型取りから最後の色付けまで時間のある限り医師が立ち会ってくれました。

 

「完成品を患者さんの胸に付けたら、医師がポロポロと涙をこぼして。患者さんの手を握って『おっぱいがよみがえったね』って言ったんです。患者さんも喜んでくれたんですが、医師や看護師が本当に喜んでくれました。自分たちの作ったものを喜んでくれたことは素直にうれしかった。でもそれ以上に、他人のことでこんなに喜べる人たちに関われる仕事なんだ、ということに感動しました」

 

こんな人たちに囲まれてする仕事なら、どんなにつらいことがあったとしてもがんばれる。今でこそ医師や看護師から直接連絡をもらうことや、患者さんが紹介状を持ってくるのが普通になりましたが「最初のあの出来事がなかったら、今の姿はないと思います」と池山さんは話します。

 

「一緒に生きていける」人工乳房をつくる

それから8年、3000以上の人工乳房を作成しました。カウンセリングして、残っている側の胸の型を取り、粘土で胸の形を形成。粘土をフィッティングして微調整の後、シリコンで人工乳房を作成します。最後に体と合わせながら色付けをして、2カ月程で完成します。工程の中で一番重要視するのは、最初のカウンセリング。

 

「今後何をしたいかということをしっかり伺ってから作成します。例えばゴルフをしたいなら、胸がスイングの邪魔に感じる人もいるからその調整が必要です。リンパ腺を切除して脇が空いている感じがするなら埋めるようにするし、逆に手術して時間が経っているなら違和感がないくらいにしたり。本物と全く同じじゃなくていいんです。なんとなく同じで、その代わりずっと使うものだから、その人と一緒に生きていけるものじゃなくちゃ」

 

全国に広がる活動の輪―人工乳房を「使う場所」での取り組み

地道な努力や学会での発表で、医療関係者の間での知名度は上がってきましたが、現在はさらに医療現場を離れた取り組みも行っています。

 

「温泉に入りたいという方がたくさんいるんですが、それはそのままだと入れないってことでもあって、なぜかというと“体を見られたくない”ってことなんですよね。そこで問題となるのは脱衣所、そこからお風呂までの道のり、洗い場の3つなんです。設備投資でなんとかできるかもしれないし、照明を落とすとか、道のりに植木を置くとか、心遣いでいろいろなことがなんとかなると思ったんです」

 

そこから始まったのが、以前ステキナース研究所でご紹介した「ピンクリボンのお宿ネットワーク」です。趣旨に賛同した温泉宿それぞれが、乳がんの経験者に配慮した工夫を凝らしています。同時に、人工乳房をバトン代わりに全国の温泉施設をリレーさせる「おっぱいリレー」も始まりました。人工乳房が温泉で変質しないことの証明や、温浴施設への人工乳房の啓蒙を目的としています。

 

乳がんを経験した誰もが気兼ねなく温泉に入れるように。そして取り組みの認知度が上がることで、周りの理解や乳がんの早期発見にもつながるように。妹さんの一言から始まった池山さんの事業は、大きな広がりを見せています。

 

「社員の生活もあるからもちろんお金は大事ですが、それだけならこの仕事じゃなくていいんです。すごく感謝していただけるからやりがいは大きい。何事にも代え難いですね。社員には『僕らの仕事は毎日親戚が増える仕事だよ』って言ってるんです。すごくプライベートなところに関わるんだから、身内や家族だと思って心を込めてお作りしようって」

 

作成の場となる東京ブレストセンターは誰かの家のようにくつろげる空間

 

世界中の女性に喜んでもらえるように―韓国・中国でも展開

アジア諸国からの問い合わせも多く、来年からは韓国と中国でも制作を始めるとのこと。ニューヨークタイムズに掲載されて以来、欧米からの問い合わせも増えました。今はまだ作成できる量が限られていますが、スクールを開校するなど制作を担当する「ブレストケアアーティスト」の育成にも力を入れています。将来的には写真データを使って3Dプリンタで型の制作ができるよう、産学協同での研究も進めているそうです。

 

「今は社員が日本中どこにでも行くという方法で全国展開していますが、もっとオフィスは増やしたいですね。乳がんは女性なら誰もがなる可能性のある病気です。だから世界中で弊社の人工乳房が必要とされていると思うんです」

 

乳がんで悲しむ女性、悩む女性を助けたい。池山さんが車を走らせる日々はまだまだ続きます。

 


【「人口乳房をつくる」池山メディカルジャパン・インタビュー】

【1】妹の願いから生まれた「温泉に入れる」人工乳房

【2】乳がんを経験した女性と共に歩む人工乳房

 

(取材協力)池山メディカルジャパン

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