定番から穴場まで「救急ナースが覚えておきたいこと」のガイドブック|ヤンデル書房(10)

Twitterで人気のヤンデル先生が「本屋の店主」になって看護師のみんなにおすすめの本を紹介します。「#医書ビブリオバトルサテライト」もよろしく!

 

文:ヤンデル(病理医)

イラストレーション:ネモトマ

 

ヤンデル書房~看護師だけのヒミツの本屋

Vol.10 ねころんで読める救急患者のみかた

 

こんにちはー。暑い日が続きますね。

今日は日差しが強いですが、店内は風通しもよくて快適ですよ。ぜひごゆっくり、お好みの本をお探しください。

 

そちら、今月のおすすめです。

『ねころんで読める救急患者のみかた ナース・救急救命士・研修医のための診療とケア』(メディカ出版)

 

 

これは教科書というよりガイドブック

著者は非常に多くの専門誌で執筆されている坂本壮先生です。研修医向けの雑誌をまるごとひとつ作っちゃうくらいエネルギッシュな方で、若い医者なら知らない人はいないくらいの超有名人です。

 

本書は広い意味では医学書なんですが……堅苦しい印象は一切ありません。

 

教科書というよりガイドブックに近いかなあ

 

旅行の前に買う、トラベルガイドブックのような。

 

 

るるぶ、まっぷる、ことりっぷ――

 

ガイドブックには、必要な情報が盛りだくさんです

 

でも、字ばっかりという印象はなく、見やすくて華やかで、読んでいて飽きませんよね。

 

旅行前にガイドブックを隅から隅まで読んでしまうことって、たまにないですか?

 

拾い読みしてもいいんでしょうけど、ページをめくっていくうちに結局全部読んじゃっていることもあります。定番の観光スポットから穴場のレストランまで、旅行する前に一通り頭に入っちゃう。

 

そう考えると、トラベルガイドブックって、実はかなり優秀な「教科書」なんだなあということに気づきます。

 

必要なこと、豊富な知識、お役立ち情報を楽しく学べるなんてすばらしいことです。

 

この本は、そんなトラベルガイドブック的な本です。

 

といっても網羅してあるのは観光名所ではなく、「救急外来でナースが覚えておきたいこと」

 

定番から穴場までしっかり押さえてありますよ。

 

クッションとドーナツを用意して、さあ行こう

語り口はとってもライトで、本当にねころんで読めます。

 

「フッカフカのクッションに体を半分埋めて、ドーナツとか食べながら読む」なんてのもありかなと思います。

 

 

そう聞くと、教科書っぽくないでしょう?

 

研修医と若手ナース、指導医の3名(3匹?)が各項目の冒頭で繰り広げるショートコント風やりとり、本題と関係ありそうでなさそうな4コママンガ、練り込まれた川柳……。

 

バラエティ豊富なページ構成で、文章もひとつひとつがすごく短い

 

それなのに、掲載されている情報の量はとても多い……。

 

バイタルサインの測定や身体診察については、これぞ救急医の書いた本、明日からでもすぐに役立つ強力なテクニックが満載です。

 

 

特に重要なバイタルサインはなんでしょうか? どれも大切なのですが、①意識、②呼吸数の2つは超大切です(p14)

 

 

から続く説明は全医療者が必読!

ほかにも、

 

 

ただ耳が遠いだけ、目が不自由なだけで認知症と診断されては、患者さんもたまったもんじゃありません(p24)

 

 

 

ショックの時、誰もが血圧には注目すると思いますが、平均血圧、脈圧にも注目する癖を持ちましょう(p48)

 

 

といったように、用語の暗記だけには留まらない、血の通ったアドバイスがちりばめられています。

 

そして病歴聴取についても、「なるほどそこを聞くと、すばやく患者さんの病態がつかめるのか」と、目からウロコの内容が多いです。

 

実は、書いてあること自体はけっこう専門的なんです。

 

でも、全編の雰囲気がとにかくゆるい。

本書を読み終わったときの正直な感想は、

 

「普通の本を読むのと比べるとずいぶんラクだったし、ぶっちゃけあんまり文字を読んだ気がしないけど、かなりいろいろ覚えたなあ」

 

うーんすごいな。

 

 

「読まない人」でも手に取りやすい本はある

先月のことですが、数日お休みをいただいて、のんびりさせていただきました。ここぞとばかりに、いっぱい本を読みました。そのことを知人に話したら、こう言われました。

 

「よくそんなに本を読むなあ。俺はそんなに本を読めないよ」

 

確かに、私はたまに人から「ずいぶんいっぱい本を読むんですね」と驚かれることが多いです。ただ、そのときばかりは私の方がよけいに驚きました。なぜならその知人は、難しい機械や数式をいっぱい扱うタイプの仕事をしていて、いかにもたくさん本を読んでいそうなタイプに見えたからです。

 

そのことを伝えると、彼はこう言いました。

 

「あー、本好きはそういうことを言うよね。けどさあ、世の人々が考えてる勉強って、本だけじゃないんだぜ」

 

はっとしました、そうなんですよ。

 

「現場で」「実地で」「体で」覚えるタイプの研鑽というのがあります

 

勉強は本でするものばかりではない。実際に現場で働いているナースのみなさんの中には、あんまり本なんて読まないという方もいらっしゃるようです。経験知って思った以上に重要ですし、役に立ちますからね。

 

でも。

 

めったに本は読まないけれど、旅行の前にはガイドブックを満喫する、という人は多い気がします。

 

マンガだけは読むよ、とか。

 

ネットニュースくらいは読むかな、みたいな人も。

 

そういう人も手に取りやすいタイプの医学書だってあるってことを、いつも本のそばにいる私は、もうちょっとアピールしていこうかな、と考えていたところです。

 

ガイドブックってすごいよね、と思いながら。

 

 

ヤンデル書房 店主

病理医ヤンデル(市原真/いちはら・しん

1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)、札幌厚生病院病理診断科。現在、同科主任部長。医学博士。病理専門医。著書に『症状を知り、病気を探る』(照林社)、『いち病理医の「リアル」』(丸善出版)、『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと』(大和書房)など。Twitterブログnoteなどで発信中。良い本を人におすすめするのが大好き。

 

 

ねころんで読める救急患者のみかた ナース・救急救命士・研修医のための診療とケア

■著者:坂本 壮

■発行:メディカ出版(2020/05/26)

■判型:A5判、160ページ

■定価:本体2,000円+税

■ISBN-13: 978-4840472326

 

編集/烏美紀子(看護roo!編集部)

 

 

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