「感謝がプレッシャー」「本当は不安」、新型コロナで本音が言えない“医療者の心のケア”を
多くの医療者が新型コロナウイルス感染症の対応に神経をすり減らし、心身ともに疲れています。
個人防護具の不足、感染リスクがある中での仕事、通常とは異なる業務やシフト…
そんな過酷な勤務の中で、つらい思いをしている医療者の本音を取材しました。
個人防護具、補償、手当…なにもかも足りない!
看護roo!にも、さまざまな悩みや要望が看護師さんから寄せられています。
どの声も切実で、ふだんとは異なる緊張状態の中、強いストレスを感じている様子がうかがえます。
がんばっているのに、さらにつらい思いをさせるなんて…
こうした状況をなんとかしなければと、立ち上がった団体があります。
医療者や弁護士らが立ち上げた、医療事故に悩む医療者や遺族のサポートをする一般社団法人Healsです。
新型コロナウイルス感染症の対応でつらい思いをしている医療者らの相談窓口をつくりました。
Healsのメンバーで、医師で弁護士の大磯義一郎さん(浜松医科大学)は、今回の取り組みを始めたきっかけを、次のように話します。
「感染が確認されたある病院の医療者が、引っ越しをキャンセルされたりタクシーの乗車拒否をされたり、つらい目に遭ったという報道を目にしました。なんとかしなければと思いました」
未知のウイルスに対する不安や怖れから嫌悪の感情が生まれやすい状況では、偏見や差別などの社会的なストレスも受けてしまうため、「医療者の心のケアやサポートが必要だと強く感じた」と大磯さんは言います。
実際、偏見や差別でつらい思いをした医療者が、SNSなどを通じて声を上げました。
医療者は耐えないといけない「同調圧力」
Healsのメンバーで法学者の和田仁孝さん(早稲田大学)は、一見すると良い取り組みのように見える、医療者に関する感謝や敬意を表する動きが広がったことを、こう指摘します。
「善意とはわかっていても、医療者への感謝があまりに固定化すると同調圧力になり、人によっては“医療者である限り、耐えないといけない”と強く感じてしまい、余計にプレッシャーになってしまうこともあるようです。感染するかもしれない、小さいこどもがいるのに、と思っているところに拍手までされてしまうと…」
事情があって看護師を辞めた人の中には、復職を期待されていると感じ、声が掛かったらどうしようと思い悩む人もいたと言います。
また、職場内での一種の同調圧力が大きなストレスになるケースもありました。
たとえば、新型コロナウイルス感染症の患者さんやその疑いがある患者さんの担当決めが、その一例です。
独身や子どもがいない看護師さんの多くが空気を読んで仕方なく名乗り出る、妊娠中や小さな子どもがいる看護師さんであっても周りに遠慮して担当を外れたいとは言い出せない、というように本音を言えずに働き続ける看護師さんがストレスを抱えていたと言います。
もちろん率先して担当を希望していた人もいますが、「ストレス耐性は人それぞれ」と和田さんは言います。
「最前線」以外にも「前線」はいろいろ
繰り返し報道される「最前線で闘う医療者」という言葉に違和感を覚えたり、「医療者は大変ですね」という言葉に複雑な感情になったりするという声もあったと言います。
国内での新型コロナウイルス感染症の感染者は6月1日現在、累計1万6884例。
就業中の看護職が166万人ほどであることを考えると、直接ケアに当たる人の方が少ないことは明らかです。
しかし、いわゆる「最前線」でなくても、それぞれの職場でさまざまな苦悩があります。
患者が減った病棟の看護師は救急やICUの応援で慣れない業務に緊張する日々があり、クリニックや一般外来の看護師は疑い患者の飛び込み受診やクレーム対応に追われ、訪問看護師は利用者さんや家族から拒絶されることもあり…。
どの医療機関も、どの医療者も、それぞれの職場で大変な思いをしていました。
だから、そうした意味では「どこも前線だ」と和田さんは言います。
ちょっとした言葉掛けで変わる、モチベーション
直接的・間接的にかかわらず、新型コロナウイルス感染症の対応に当たる医療者は、
「不安だけど、やらなければしょうがない」
「自分たちがやらなければ、誰がやるんだ」
そう自分を奮い立たせ、それぞれの職場で治療やケアを続けてきました。
大磯さんは、複数の相談者からの悩みを聞いて、こう思ったと言います。
「仕事をすること自体やむを得ないとしても、心理的アプローチを意識したかかわりがあるかどうかで、医療者のモチベーションは大きく変わります」
実際、期間や業務内容などの説明がなかったり、担当を断ると責められたりするケースもあったそうです。それでは、余計にストレスを強く感じてしまいます。
同じ仕事をするにしても、「せめて一言、大変な時期だから力を貸してほしいとか、そういう言葉がほしかった」という声もあったそうです。
新型コロナウイルス感染症の流行の第一波は収束しつつありますが、Healsのメンバーは「今回はなんとかなったけれど、一歩間違えれば、医療の体制ではなく、医療者が離職してしまう人的な崩壊が進んでいたと感じています」と危機感を募らせています。
そして、「強いストレスを感じ、同僚にも家族にも言えず、一人で思い悩んでいるなら、本音を吐き出すところとして相談窓口を活用してほしい」と呼び掛けました。
いざというときは相談窓口の活用を
Healsだけでなく、新型コロナウイルス感染症での不安について相談できる窓口は幾つかあります。
●Covid19関連ピアサポート特設室(Heals)
新型コロナウイルス感染症の対応でのつらい思いについて、電話で心理的サポートを行う看護師などに相談できます。必要なら、医師、臨床臨床心理士、弁護士につないでもらえます。
●看護職を対象とした新型コロナウイルス感染症に関するメール相談窓口(メンタルヘルス)(日本看護協会)
新型コロナウイルス感染症の予防やケアに当たる看護師を対象に、メールでメンタルヘルスに関する相談ができるもの。
●新型コロナウイルス感染症関連SNS心の相談(厚生労働省)
医療者限定の窓口ではありませんが、新型コロナウイルス感染症の影響による心の悩みについて、チャット形式で相談できます。
不安を強く感じたときは、こうした相談窓口を活用してみるのも一つの方法です。
看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
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(参考)
一般社団法人Heals(Healthcare Empowerment and Liaison Support)
新型コロナウイルス感染症の感染者の国内の発生状況(厚生労働省)
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