離島の緊急対応はチーム力勝負~対馬~|へき地・離島ナースリレーコラム【6】
へき地・離島で働く看護師リレーコラム。6回目は、島根県の隠岐島で働く雪見さん。離島での緊急対応についてお書きいただきました!
◆雪見さんのコラム1回目はこちら
(寄稿協力:特定非営利活動法人ジャパンハート)
離島医療の厳しさを知った緊急対応
対馬に来る前に、働く場所である「いづはら病院」の情報を聞いた時、病床数200床、手術も心臓カテーテル治療もできるということを聞き、「都会の病院と何が違うんだろう?」「へき地研修にふさわしいのだろうか?」と疑問に思っていました。
ところが実際に現場に入ってみると、「これが離島の厳しさか…」と痛感する数々の緊急対応を経験することになります。今回はその中でも特に、緊急ヘリ搬送のお話をお伝えしたいと思います。
雄大な自然と向き合う対馬の医療
とある日の受け持ち患者さん。
峠を越え軽快していく段階にあった方で、元気に話しながら食事をされ、こちらもほっとひと安心な状況でした。ところがそれもつかの間、その後、なんか変? という感覚が…。心配してしばらくしてからもう一度確認すると、やはり状態が変わっていることがわかりました。
主治医に報告して診察。すると他科の応援も必要との診察結果に。じゃあ専門医に電話して治療へ…と、一筋縄には行かないのです。
過疎化が進む離島では、全ての診療科を運営するのは難しく、院内に必要な診療科がない場合があります。今回のケースがそうでした。しかも、救急車でちょっと隣町の病院までというわけにはいきません。本土の病院までヘリで搬送しなければなりません。
そうです、対馬はどこにあるかというと、本土長崎や福岡までは飛行機で30分の距離に位置します。前回も書きましたが、なにせ日本より韓国の方が近いくらいなのです。
チームワークが安心を与える
長崎県のドクターヘリ。もちろん、対馬にも出動する ※画像提供:長崎県
さて、その患者さんはさらに精密検査をし、ヘリで搬送可能かを検討します。家族の意向を確認したり、受け入れ先の病院を探し、30分、60分…なんだかんだ時間は過ぎ、時計ばかり見てしまいます。この後、本土の病院から迎えに来てもらうのに30分、本土に到着するまで30分かかるのです。そんな時に主治医は私に問います。
「正確な発症は何時か?」
子どもの喧嘩でよく言うように、「何時何分何秒に!?」なんて問われている気分にもなります。いかに早く状態変化に気づけるかが、もちろんどんな状況でも大切ですが、このような場所ではひと際大切になります。責任の重さを感じました…。
離島のスタッフはさすがに慣れています。
医師は「よしっ、じゃあ役割分担しよっか。僕ヘリの手続きするから、A先生は家族に説明、B先生は出発前の処置ね」。看護師の先輩方も、サマリーを書き、荷物をまとめ、搬送準備をさくさくと進めます。
1.あわてず
2.無駄なく
3.仲良く
なチームワークを目の前に、私は家族でもないですが「あぁ、この人たちになら助けてもらえるっ!」とほろっときたのを覚えています。
海に囲まれた対馬では海上での救難訓練も行う
心のフォローも大事だと痛感
この時は無事に搬送できましたが、上手くいかない状況も想像できます。
例えば、夜間でドクターヘリは飛べず、手続きに時間がかかる自衛隊ヘリを要請しなければならない状況。例えば、天気が悪くてどの移動手段もとれない状況。
都会では電話一本ですぐ専門医に診てもらえます。また、車で数分の場所にそれぞれ得意分野を有する病院が点在し、連携することができています。これが離島のハンディキャップと言えるでしょう。
救急の出入口まで付き添い、患者さんがヘリポートまでの救急車に乗り込む様子を見て、
「この方は病気を抱え、途中で降りることのできない空の旅に出るのか。どんなに不安だろうか…」
「ご家族はスーツケースやら何やらと一緒に救急車に詰め込まれ、わけもわからないだろうな。2、3日後にどっと疲れが出るんだろうな…」
なんてことを考えながらお送りするしかありませんでした。もっと心情を理解して精神的フォローができたらよかったなとも思います。
頼りになる、いずはら病院の看護師さんたち
今回のコラムを通して、都会で働く看護師の皆さんに、離島の患者さんやご家族がどのような想いで都会の病院に搬送されていくかを知っていただければ幸いです。
山梨県の牧丘で働く“Michi”さんにお話いただきます。6月19日(木)公開予定です。お楽しみに!
■寄稿協力
特定非営利活動法人 ジャパンハート
2004年に代表の吉岡秀人医師が設立した国際医療ボランティア団体。今回紹介したへき地離島への医療研修は国際看護長期研修の一つで、ミャンマーでの医療研修も含め1年間のプログラムとなっている。ほかにもカンボジア、ラオスでの医療支援や医療者育成支援など、さまざまな支援活動を行っている。医療者が参加できる活動として、子どもや貧しい人々のために巡回診療や手術を行う、3日~7日程度の休暇で参加が可能な国際医療短期ボランティアなどがある。
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