ネット依存やゲーム依存とは?|裏側にある「認められたい」という承認欲求

ネット依存・ゲーム依存の特徴/没頭し過ぎて、日常生活に支障が…/10代でも肺活量や骨密度が60代…/思春期が中心だけど、30代、40代も増加傾向

WHOが正式な病気と認定したことで、一気に注目が集まった「ゲーム障害」

 

ゲーム障害は、日常生活が破綻するまでオンラインゲームやSNSなどにのめり込む「ネット依存」の一種で、「ゲーム依存」とも呼ばれています。

 

ニュースなどで見てなんとなくは知っていても、今ひとつわからないという方もいるのでは?

 

そこで、ネット依存の問題の根深さに早くから気づき、2011年に専門外来を開設した久里浜医療センターを取材し、どのような病気なのか、治療やケアはどうするのかを教えてもらいました。

 

 

 

ネット依存とは?

久里浜医療センターでネット依存の患者さんが入院する病棟看護師長の日高浄子さんは、「ネット依存は、ゲームやネットをやめたくてもやめられなくなってしまうのが一番のポイント」と言います。

 

具体的には、

 

  • ゲームやネットにのめり込んで、食べたり寝たりがおろそかになる
  • 無理やりやめさせようとすると、暴言を吐いたり、暴力をふるったりする
  • ゲームのガチャのために、多額の課金をしてしまう
  • 学校や会社に行かず、ずっと部屋にひきこもってゲームをし続けている

 

など、ゲームやネットに依存するあまり、学校生活や社会生活が壊れてしまい、人間関係がうまく行かなくなることが問題となる依存症です。

 

つまり、ゲームをちょっとやり過ぎたくらいでは問題にはならないということです。

 

 

ネット依存になるのって、どんな人?

ネット依存専門外来受診者の年齢分布※久里浜医療センター・ネット依存外来受診者記録より/男性:10代67.5%、20代26.5%、30代4.3%、40代~1.7%、女性:10代52.9%、20代29.4%、30代0.0%、40代~17.6%

 

年間1500人を超える久里浜医療センターのネット依存専門外来の受診者は、10代から20代がほとんどですが、最近は30代以上の中高年も少しずつ増加傾向にあるそうです。

 

背景には、スマートフォンが登場したことで、時間のない大人でも、いつでも、どこでも、手軽にゲームやSNSができるようになったことがあるといいます。

 

男性はゲーム依存が多く、女性はSNSへの依存が多い傾向があり、うつ病や発達障害なども抱えていることがよくあるのが特徴です。

 

ただし、うつ病や発達障害があれば、必ずしも依存になりやすいわけではなく、依存になったのが先か後かも人によって違い、因果関係がはっきりしているわけではありません。

 

 

ネット依存って本当に病気なの!?

寝る直前までスマホが手放せない

食生活や睡眠の乱れ、体を動かさないことなどが原因で、体のあちこちに健康被害が…

 

ネット依存が問題だとわかっても、「病気である」ということが今ひとつピンとこない方もいるかもしれません。

 

日高さんは、こう言います。

 

「入院して来る子どもたちを見ていると、やっぱり病気だと思いますよ。ひどく痩せていたり、骨密度や肺活量が低下していたり、明らかな健康被害がみられますから」

 

10代でも、肺活量が60代レベルにまで落ちている子も珍しくないとか。

 

また、複数の研究結果から、ネット依存やゲーム依存が進行すると、脳の前頭前野の機能が低下し、衝動のコントロールができなくなることもわかってきており、入院患者さんの中にも、ちょっとしたことでカッとしたり、イライラして壁を叩いてしまったりする人が実際にいるそうです。

 

ただ、入院治療が必要になるケースはかなり重症なケースに限られ、基本的には外来治療が中心といいます。

 

 

どこまでのめり込めば、ネット依存?

それでは、どこまでゲームやネットにのめり込めば、病気と診断されるのでしょう。

 

実は、世界的に認められたネット依存の診断ガイドラインはまだありません。

 

参考程度に、韓国の「スマートフォン依存スケール」や米国の「IGDT-10(インターネットゲーム障害テスト)」が使われることがありますが、いずれも診断が可能な正式なものではありません。

 

そのような中、2018年6月、約30年ぶりに改訂されるWHOの国際疾病分類11版(ICD-11)にネット依存の一つである「ゲーム障害」の診断ガイドラインが収載されることが決まりました。

 

この決定には、久里浜医療センター院長の樋口進さんのWHOへの強い働きかけがあったといいます。

 

樋口さんは、この機会を逃したら、また数十年にわたってネット依存が病気と認識されず、治療やケアを向上させることができないという強い危機感を抱いていたそうです。

 

2019年5月、世界保健総会で加盟国それぞれの翻訳版が提出され、2022年ごろから施行される予定で、今後はこのガイドラインが日本でも普及していくのではないかと考えられています。

 

このガイドラインは、樋口さんが各国の研究者と協力して作成したもので、暫定訳がすでに紹介されています。

 

ICD-11による「ゲーム障害」の診断ガイドライン(草稿)※樋口進氏による暫定訳/以下の1a~1c、2、3のすべてを満たす場合にゲーム障害と診断されます。/1:持続的または再発性のゲーム行動パターン(インターネットを介するオンラインまたはオフライン)で、 以下のすべての特徴を示す。a.ゲームのコントロール障害(たとえば、開始、頻度、熱中度、期間、終了、プレイ環境などにおいて)。b.ほかの日常生活の関心事や日々の活動よりゲームが先にくるほどに、ゲームをますます優先。c.問題が起きているにもかかわらず、ゲームを継続またはさらにエスカレート(問題とはたとえば、反復する対人関係問題、仕事または学業上の問題、健康問題)/2:ゲーム行動パターンは、持続的または挿話的かつ反復的で、ある一定期間続く(たとえば、12カ月)/3:ゲーム行動パターンは、明らかに苦痛や個人、家族、社会、教育、職業やほかの重要な機能分野において著しい障害を引き起こしている。

 

 

どんなふうに治療するの?

では、ネット依存やゲーム依存と診断されたら、どのような治療をするのでしょうか。

 

久里浜医療センターでは、

 

  • 軽症であれば、外来でのカウンセリングが中心
  • カウンセリングで重症と判断されれば、認知行動療法などの専門的な治療
  • よほど重症で、深刻な問題が起きている場合には、入院治療を検討

 

というように、症状や問題に応じて、段階を踏んで治療が進められています。

 

現在、ネット依存やゲーム依存そのものを治療する薬はないため、基本的にはカウンセリングが治療の中心となります。

 

また、久里浜医療センターでは、これまで取り組んできた経験を生かし、運動療法や作業療法、認知行動療法などを組み合わせた「New Identity Program(新アイデンティティプログラム)」という専門的な治療プログラムを提供しています。

 

このプログラムは、週1回、9時半から15時ごろまで、ゲームやネットから離れた環境で過ごし、「リアルな世界」での楽しみや良さを感じてもらうものです。

 

外来患者さんが中心ですが、入院患者さんも参加し、1回当たり15人程度で、医師や看護師などの医療スタッフとともに、運動や工作などさまざまな活動を行っているそうです。

 

New Identity Program(新アイデンティティプログラム)/ゲームやネットから離れた環境で、運動療法や作業療法を行い、他者とのコミュニケーションを通じて自分らしさを再発見する久里浜医療センター独自のプログラム。/活動の一例:バドミントンや卓球などの運動、絵画や陶芸などの工作、医師や看護師、栄養士などのレクチャー、参加者同士のグループディスカッション、希望者への臨床心理士による対人トレーニング

 

ほかにも、久里浜医療センターでは、ゲームやネットを断つ「ネット依存治療キャンプ」や外来での「集団療法」など、さまざまな取り組みをしています。

 

また、患者さんへの直接的な治療ではありませんが、家族がネット依存やゲーム依存を理解したり、同じ悩みを持つ家族同士で日ごろの思いを語り合ったりする「家族会」を開いており、回復の後押しをする一助になっているそうです。

 

 

ケアのポイントは?

最後に、ネット依存やゲーム依存の患者さんに、看護師として何ができるのかを日高さんに聞いてみました。

 

入院中の患者さんには、看護師だけでなく医師などの他職種とともに、次のような点を目標にケアに当たっているそうです。

 

  • ゲームやネット以外に患者さんが目をむけられるようになること
  • 患者さんが健康を取り戻すこと
  • 患者さんが人間関係の構築ができるようになること
  • 患者さんが入院時に医師らと決めた生活上のルールを守ること
  • 注意ばかりしていると患者さんが否定された気持ちになることを家族や医療者が理解してかかわること

 

基本的には、規則正しい生活が送れるようにサポートしていくほか、悩みや気持ちに耳を傾ける傾聴などがケアの中心になります。

 

退院後、同じことを繰り返さず、社会生活が送れるようになるために、入院生活のルールを守れるように促していくことがポイントで、その際、注意をし過ぎて心を閉ざしてしまわないように気をつけることが大事だと言います。

 

また、依存症になるには必ず何かきっかけがあり、家庭や学校で何らかの問題を抱えていることが多いので、患者さんの生活背景に気を配ることも大切だといいます。

 

そして、ゲームにのめり込んでしまう裏側には、リアルな生活では自信が持てず、ゲームに強くなることで「認められたい」という承認欲求が見え隠れしているとし、日高さんは次のように話します。

 

『良かったね』『頑張ったね』『我慢できて、すごく偉かったね』など、肯定する言葉がけを積極的にするようにしています。認めてもらえていると子どもたちが感じられることは、とても大切なことだと考えています」

 

ただし、患者さんが中高年の場合は、あまり干渉しすぎると逆効果であることもあるため、かかわり方は違ってきます。

 

適度な距離感を大切にしながら、様子をしっかり観察し、何かあれば医師に情報をつなぐことが大切になってくるそうです。

 

***

 

一般病棟で働いていると、ネット依存について考える機会は少ないかもしれません。

 

しかし、2018年9月に報告された厚生労働省研究班の推計によると、病的なネット依存が疑われる中学生や高校生は全国で93万人に上るといわれています。

 

また、スマートフォンの普及をきっかけに増え始めている中高年のネット依存は、今後も増えていくとみられています。

 

何気なく接している患者さんの中に、実はネット依存に悩んでいる患者さんがいるという可能性は十分にあります。

 

基本的なことだけでも頭に入れておくと、いざという時のケアに役に立つのではないでしょうか。

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

 

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(参考)

NIP(新アイデンティティプログラム)紹介(久里浜医療センター)

飲酒や喫煙等の実態調査と生活習慣病予防のための減酒の効果的な介入方法(厚生労働省研究班)

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