病院の「転倒・転落あるある」、イラスト事例集で新人教育や患者・家族指導

「転倒・転落あるある事例集」の一部
[出典]「転倒・転落あるある事例集」(編集:足利赤十字病院、制作協力:株式会社ケアコム)

 

・床に落ちたリモコンを拾おうとして転落する

・歩行中スリッパが滑り、脱げてしまい転倒する

・T字杖が床面で滑って転倒する

 

こうした病院で起こりがちな転倒や転落のリスクを4コマ漫画風のイラストで解説した「転倒・転落あるある事例集」を足利赤十字病院(栃木県足利市、555床)が作成し、新人スタッフや患者・家族の指導に活用しているそうです。

 

8月4日に都内で開かれた株式会社ケアコム主催のセミナーで、同院の医療安全推進室看護係長の前原恵さんが講演を行いました。その様子を紹介します。

 

 

転倒・転落の「過程」は、意外と知らない

事例集は、実際にあった転倒・転落の報告ケースを参考に作成したもの。

 

病室内、歩行、排泄、車いす、リハビリテーション、看護援助、検査の7つのテーマ別に、全部で139例ものパターンが示されています。

 

一番の特徴は、どういう行動を取れば転倒や転落をするのか、その「過程」を示しているところです。

 

前原さんは、「部屋に行ったら転倒していた。気がついたら尻もちをついていた。そんなふうに“結果”を見ることがほとんどで、転倒や転落する“過程”を実際に見ることはあまりありません。それが事例集を作成するきっかけでした」と言います。

 

そこで、新人スタッフの教育のために、さまざまな転倒・転落のケースを過程も含めて解説する事例集にすることにしたそうです。

 

足利赤十字病院医療安全推進室看護係長・前原恵さん

「冊子になるまで長い道のりでした」と前原さん

 

2015年8月から着手し、完成までにかけた時間は1年あまり。

 

手書きの漫画からスタートし、リハビリスタッフの協力も得ながら、「こんなふうには転ばないよね?」「ここはこうじゃない?」と話し合いを重ね、手直しをしていったそうです。

 

 

新人スタッフの転倒・転落に対する「リスク感性」を磨く

そうやって2016年9月に完成した事例集ですが、前原さんは次のように言います。

 

「ただ、冊子を配るだけでは不十分です。後半を隠した状態で、前半の2コマだけを見せ、その後どんなふうに転倒や転落をするのかを新人スタッフに考えてもらうことで、リスク感性を磨いてもらっています」

 

T字杖が床面で滑って転倒

[出典]「転倒・転落あるある事例集」(編集:足利赤十字病院、制作協力:株式会社ケアコム)

 

たとえば、杖歩行の患者さんが転倒したケースでは、「臨床経験のないスタッフは『杖をついているのになぜ転倒するの?』と思うかもしれません。ですが、床が濡れていたり、床の素材が滑りやすかったりすれば、転ぶことがありますよね」と前原さん。

 

そうやってリスクアセスメントをしてみた後で、後半部分や右横に添えているポイントで、なぜ転ぶのか、転ばないためにはどういったところに注意すべきかを確認し、しっかり身につくように教育しているといいます。

 

 

患者・家族指導のための「転倒・転落予防パンフレット」

足利赤十字病院では、事例集だけでなく、患者自身や家族にもリスクを知ってもらう「転倒・転落予防パンフレット」の作成も手がけています。

 

パンフレットは、入院による環境の変化や術後の状態、リハビリ期ならではの注意点などにポイントを絞り、事例集よりぐっとコンパクトになっています。

 

新人教育と同様、パンフレットを渡すだけではなかなか見てもらえないため、A3用紙に印刷してパウチ加工したものを患者自身や家族に見せながら、必ず対面式で指導するようにしているそうです。

 

2016年度から開始したパンフレットを使った指導は、現在では、95%を超えるほとんどの患者さんに行われるようになっています。

 

「取り組み始めてそれほどたっていませんので、目に見える効果はわかりませんが、患者さんとスタッフがコミュニケーションを取る機会になっています。医療コンフリクトが起こらない一助になっているのではないかと考えています」と前原さんは言います。

 

 

ほかにも転倒・転落のリスク対策いろいろ

足利赤十字病院が行っている転倒・転落を減らす取り組みは、ほかにもあります。

 

たとえば、転倒・転落の発生状況を分析した結果を踏まえ、改善につなげています。

 

回復期リハビリテーション病棟では、夜勤ナースしかいない朝の時間帯に、リハビリに備えて着替えをする際に転倒・転落が発生していました。そこで、日勤ナースが出勤してきてからの時間帯に着替えるように変更したところ、こうしたケースは減ったそうです。

 

また、トイレ介助中、看護師の目が届かない個室の中で転倒・転落するケースに着目。
トイレでの転倒・転落のリスクを低減する装置「トイレ セーフコール」の開発を、株式会社ケアコムのグループ会社である株式会社ケア環境研究所と進めました。 

 

「トイレ セーフコール」は、便器の脇に設置し、セットをすれば、患者さんがトイレから離れるとセンサーが反応し、ナースコールが鳴る仕組み。セットはボタンを押すだけなので、必要時に手軽に使用できます。また、一定時間以上座り続けていると鳴る設定も可能です。

 

現在、足利赤十字病院内に数カ所設置されており、スタッフから「ちょっと離れていてもコールが来るので安心」と好評価を得ているといいます。

 

トイレオフコール

写真左の装置が「トイレ セーフコール

 

 

転倒・転落は減っている?

足利赤十字病院では、こうしたさまざまな取り組みをしていることもあってか、転倒・転落の発生件数は2016年度には505件となり、前年度の545件と比べると少し減ったそうです。ただ、2017年度には553件と増加に転じています。

 

しかし、発生件数ではなく、患者さんへの影響レベルでみると、軽いものが増え、重いものは減少傾向ですので、状況は良くなっているとも言えます。いずれにしても、まだ取り組みに対する評価は難しいところだといいます。

 

講演の最後、前原さんは、今後、スタッフの指導レベルの統一を図ったり、転倒・転落患者に多い意識状態がよく転倒の履歴がない患者への指導強化をしたりするなどして、「さらなる転倒・転落の低減に努めていきたい」と語りました。

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

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(参考)

患者さん・ご家族向け 説明用パンフレット制作(ダウンロード)(株式会社ケアコム)

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