身体拘束はせざるを得ない!?|看護現場の身体拘束(1)

ベッドの四点柵、車いすの安全ベルト、ミトン型の手袋-。

こうした、患者さんの安全を守るために身体の動きを抑制する「身体拘束」のあり方が、社会的な関心の高まりを受け、看護師の間でも改めて注目されています。

 

みなさんは、身体拘束についてどのような考えを持っていますか?

 

身体拘束は、患者さんの疾患や状態、病院の機能やマンパワーなど、さまざまな要因が絡む難しい問題です。どこで勤務しているかによっても考え方が違うのではないでしょうか。

 

そこで、何かと悩ましい看護現場での身体拘束の実際を取材しました。3回にわたって、お届けします。

 

【目次】
看護師が身体拘束を必要と考えるケースは?
超急性期での身体拘束の考え方は?
せざるを得ないかを判断するためのガイドライン
実施や解除の判断に使えるフローチャート
抜けないようにどうする?それでも抜けたら?
治療やケアの環境が変化し、新たな課題も

 

 

看護師が身体拘束を必要と考えるケースは? 

「看護師が思う、身体拘束が必要なケース」はルート抜去のリスクがある場合が最も多い、CVカテーテルを抜去しようとする/745票、経鼻胃管を抜去しようとする/385票、転倒・転落の危険性が高い/297票、暴力行為がある/251票、点滴を抜去しようとする/227票、術後せん妄がある/133票、車椅子からずり落ちる/103票、服を脱いだり、おむつを外す/89票、徘徊の恐れがある/38票、必要な場合はない/21票、認知症がある/19票

(看護roo!アンケート「身体拘束が必要と考えるのはどのケース?」)

 

看護roo!が実施したアンケート調査(回答者数887、複数回答)によると、看護師が身体拘束を必要と考えるケースは、「CVカテーテルを抜去しようとする」が最も多く、次いで「経鼻胃管を抜去しようとする」「転倒・転落の危険性が高い」でした。

 

一方で、「認知症がある」「徘徊の恐れがある」などでは身体拘束を必要と考えている人は少ない結果でした。

 

このアンケート結果からは、看護師がルート抜去のリスク、つまり急性期の治療に支障をきたす場合に身体拘束をせざるを得ないと考えている様子がうかがえます。

 

ルート抜去は頻度の多いインシデントの一つで、命を失う危険もありますので、神経を使ってケアをされているのではないでしょうか。

 

 

超急性期での身体拘束の考え方は?

それでは、生命の危機を伴う重症患者さんのケアをする超急性期の医療現場では、身体拘束はどのように考えられているのでしょうか。

 

日本集中治療医学会・看護ガイドライン検討委員会委員長の明神哲也さん(東京慈恵会医科大学)に話を聞いてみました。

 

明神哲也さん(東京慈恵会医科大学)

「鎮静スケールの活用で身体拘束をせずに済むケースが増えてきた」と話す明神さん

 

明神さんは、大前提として「不要な身体拘束はやめよう。外せるものなら外したい」という気持ちを看護師は持っていると強調します。

 

その上で、たとえばルート抜去による急速な血圧低下や気管チューブの抜去による呼吸困難のように、命にかかわるリスクを防止するためには身体拘束が必要という考え方がこれまでされてきたと言います。

 

 

せざるを得ないかを判断するためのガイドライン

しかし、2000年に施行された介護保険法で身体拘束が原則禁止となり、厚生労働省が「身体拘束ゼロ作戦」を打ち出したりしたことで、医療・介護界全体で身体拘束をできるだけ減らそうとする機運が高まりました。

 

そうした流れを受け、超急性期の医療現場でも「適切に身体拘束をしましょう」という考え方に変化してきたと明神さんは言います。

 

そこで、日本集中治療医学会は、2010年12月、集中治療室(ICU)がある1,188施設を対象に実態調査を行った結果をまとめた「ICUにおける身体拘束(抑制)ガイドライン」を作成しました。

 

このガイドラインは、身体拘束をしないための対応だけでなく、やむを得ず身体拘束を行う場合の考え方や対策が示されているのが特徴で、

 

1)身体拘束(抑制)判断基準フローチャート
2)抜かれない・抜けないための抑制方法(一覧表)
3)チューブ別管理方法と抜去時の対応(一覧表)

 

というように、現場で使えるツール類が盛り込まれています。

 

明神さんによると、作成から7年以上たった今でも問い合わせがあり、広く活用されていると言います。中には一般病床での看護に活用したいとの声もあるそうです。

 

 

実施や解除の判断に使えるフローチャート

ガイドラインの根幹をなす「身体拘束(抑制)判断基準フローチャート」は、患者のアセスメントを行うステップ1、身体拘束以外のケアプランを考えるステップ2をへて、それでも代替ケアの効果がみられず、ルートの自己抜去などのリスクがある場合にはステップ3に進み、医師と看護師で身体拘束の実施を判断するという流れになっています。

 

身体拘束を行うことになっても、毎日、ステップ1からステップ3までの評価を繰り返すことで、身体拘束を解除する判断材料としても使用することができます。

 

身体拘束(抑制)判断基準フローチャート

出典:日本集中治療医学会

 

 

抜けないようにどうする?それでも抜けたら?

抜かれない・抜けないための抑制方法」の一覧表は、抑制具自体の不具合や固定の問題など、起こりがちな15の要因別に、医療安全の観点から身体拘束を実施する際の注意点が示されています。

 

たとえば、用具が老朽化していないかマジックテープ®やホックなどの確認をする、緩みが生じないよう固定ひもをベッド柵やベッドフレームのスライドしない部位に固定するなどのように、具体的な対策が示されています。

 

また、「チューブ別管理方法と抜去時の対応」の一覧表では、抜去を防ぐルート管理のポイントや、抜けた場合の対処方法が22種類のチューブ別にまとめられています。

 

具体的に、気管切開チューブの場合を紹介します。

 

気管切開直後~1週間以内であれば、気管切開部からの再挿入は困難なため、あらかじめ用手的換気装置や気管挿管の準備をしておきます。そして、チューブが抜けてしまったら、患者さんの呼吸状態を観察し、周囲にいる人に声をかけ人員を確保し、医師に報告するというように、事前に必要な準備や緊急時の動きがわかるようになっています。

 

 

治療やケアの環境が変化し、新たな課題も

ガイドラインは、全国のICUから集められたケアの経験知ですが、「作成から少し時間がたったこともあり、治療やケアの環境の変化に伴い、内容を見直す必要があるかもしれません」と明神さんは言います。

 

たとえば、鎮静スコアの活用で身体拘束をしない施設がかなり増えていることや、ハイケア・ベッドの普及でこれまでとは違う抑制具を固定する際の工夫が必要になっていることなどが考えられるそうです。

 

ほかにも、ルート確保の際、血栓予防の観点から鼠径部を避けるようになったり、気胸が起こりやすい鎖骨下には入れなくなったりしたことで、服で隠せない場所でのルート固定など、ケアが難しい状況も出てきているそうです。

 

* * *

 

この記事では、超急性期病床の現状について取り上げました。
次の記事「絶対に身体拘束をするな」とは言わないでは7対1の急性期病床での身体拘束をめぐる取り組みについて紹介します。

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

看護現場の身体拘束シリーズ

「絶対に身体拘束をするな」とは言わない

身体拘束をする病棟・しない病棟のケアはどう違う?

 

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(参考)

ICUにおける身体拘束(抑制)ガイドライン(日本集中治療医学会)

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