フライトドクターに聞いてみた ドクターヘリのあれこれ|日本医科大学千葉北総病院インタビュー【前編】
かんごるーが今回お邪魔したのは、「コード・ブルー」のロケ地であり、医療監修も行っている、日本医科大学千葉北総病院です!
ほら…ドラマでよく出てきましたね!このヘリポートへつながる通路。なんだか走りたくなっちゃいます
空を見上げると、あのヘリが・・・!(本院で使用しているドクターヘリは、「コード・ブルー」で使用されているものと同型です)
今回は、フライトドクターの益子一樹医師に、「コード・ブルー」のロケ地ともなった、日本医科大学千葉北総病院ドクターヘリチームについて、お話を伺いました!
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フライトナースになりたいあなたに知っていてほしいこと|日本医科大学千葉北総インタビュー【後編】
フライトドクターの基本的な一日
今回お話を伺った、救命救急センターの益子一樹医師。「コード・ブルー」では医療監修としても関わっていらっしゃいます
―先生は、月にどれくらいフライト当番になるのでしょうか?
医局員の人数にもよるのですが、今年はだいたい、月に3~4回くらいです。
ドクターヘリチームには、フライトドクターやフライトナースのほか、ドクターヘリの運航管理に関するさまざまな調整業務を行うCS(コミュニケーションスペシャリスト)、機長、整備士などがいます。
基本的に当番日は一日待機し、要請があれば出動します。当番日以外は救命救急の医師として仕事をしています。
「ブリーフィング」はチーム参集時のミーティング。「デブリーフィング」はチーム解散時のミーティングのこと。ナースが勤務前後に行う申し送りのようなもの。
―ドクターヘリの要請はどのような方法でどこから来るのでしょうか?
ドクターヘリの出動要請は、消防の通信指令室、もしくは現場の救急隊から来ます。
通信指令室と救急隊には、それぞれ、ドクターヘリの要請基準があります。 その基準には、「3m以上の高さから落ちた」とか「突然倒れた」などのキーワードがあり、そのキーワードに該当する患者さんが発生した場合、ドクターヘリの出動要請を行います。
ドクターヘリの出動要請は、院内のホットラインに入ります。出動要請がかかると、すぐさま運航管理室にいるCSが現場の天候、風向き、視程(視界の距離)や、ほかにその領域を飛んでいる機体がないかなどの確認をします。
CSは病院の所属ではなく、提携している運航会社(朝日航洋株式会社)に所属しています。この日の当番は佐藤雄一さん
要請が来たら、何らかの形で医療者を患者さんに接触させる
―出動要請が複数来た場合はどうするんですか?
一番多いのは、チームを分割して、1つ目の現場では一人のドクターを降ろし、もう一人のドクターとナースは次の現場に行くという方法です(下記の図参照)。
この場合、最初の現場で降りたドクターは、診察した患者さんを搬送する必要があれば、救急車に同乗して受け入れ先の病院か当院まで搬送します。
ほかには、急いで戻ってきてから別の現場に向かうケースや、千葉県にもう一機あるドクターヘリに対応してもらうというケースもあります。
要請が来ている以上、何らかの形で医療者を患者さんに接触させるのが僕らの仕事です。そのためにいろんな選択肢を用意しています。
一人前のフライトドクターになるまで約3年、300フライトが目安
―フライトドクターとして一人前になるためには、どれくらいの期間が必要なのでしょうか?
目安としては大体300~400回のフライト。期間にすると3年です。
まずは指導医と一緒に同乗し、消防との調整など、普段の救急現場ではできない経験を積んでもらいます。これが大体50~100回くらい。
それが終わると今度はメインで活動してもらいます。メインといっても最初は指導医が手取り足取り指導しますが、だんだんと自分の判断で診断や治療の方向性の決定や、現場での処置などができるようになっていきます。
フライトドクターの胸ポケットには専用のスマートフォンが搭載されていて、現場に到着するとスイッチが入れられます。カメラの映像や音声は、運航管理室にあるモニターから流れるため、ドクターヘリの離陸後、運航管理室には救命センターの医師が集まって現場での処置を見守ったり、場合によっては指示を出すこともあります
当院だと年に1,200回くらいフライトがありますが、だいたい一人あたり、年100回くらいのフライトになります。
あくまで目安ですが、おおよそ一人前になるには通算300回くらい。期間にすると3年くらい、ということになります。
―医師で3年というのは、かなり長いですね。
それだけ専門性が高いのだと思います。
フライトドクターに求められる専門性
―その専門性というのは、救命救急に関するスキルのほかにどういうものが必要なのでしょうか?
当院のドクターヘリは半径50キロ圏内が出動範囲です。
その出動範囲内の地理や医療施設を把握しておかないと、患者さんの搬送までの時間を逆算できません。
出動範囲内の地理や医療施設を把握しておけば、出動現場周辺に搬送できる病院がなければ、「搬送まで時間がかかりそうだから、現場でできる処置は全部しておこう」と判断できます。
逆に、「ここだったら陸路で○○病院へ搬送できるから、初期治療に留めて、病院に引き継ごう」と、考えることもできます。
運航管理室にある北総ドクターヘリの運航範囲図。運航範囲内にある病院やヘリポートの有無などがひと目で分かります。ちなみに、一日の最高出動回数は12回なのだそう
ドクターヘリでできる処置は限られているので、病院への搬送時間によって、現場で行う処置を瞬時に判断しなくてはいけないんです。
これはドクターヘリならではであり、また、専門性が高いと考える理由です。
さらに、病院ごとに得意・不得意もあります。また、日によっては対応できる医師がいる時間も違うので、そういったことも把握しながら、活動しなくてはいけません。
こうした地理・医療的背景も把握しておかないと、フライトドクターとして活動はできないんです。
完璧主義の人は、実はフライトドクターには向いてない
―「コード・ブルー」などを見て、フライトドクターやフライトナースに憧れる人が増えたんじゃないかと思いますが、フライトドクターに必要な素質は、何でしょうか?
優柔不断な人はだめですね。あと、完璧主義の人も。
―優柔不断な人は分かりますが、完璧主義な人も向いていないんですか?
そうですね。病院の中であれば、いろんな検査ができますが、ドクターヘリの現場では病院と同じような検査はできません。
フライトドクターの最も重要な役割は、検査ができず、患者さんの身体的情報が少ない中、確定診断こそできなくても、自分の経験とその数少ない情報を頼りに、大まかな治療の方向性を決めることです。
でも、優柔不断な人や完璧主義の人にはそれが難しいんです。
ドクターヘリの要請が入り、益子医師を含むこの日のフライトチームが出動すると、運航管理室にはほかのドクターが集まってきました
また、コミュニケーション力も大切です。
ドクターヘリでは、航空会社や消防など、医療者ではない人とも一緒に仕事をしなくてはいけません。
医療者としてプライドばかり高くて、人を寄せ付けないような人は向いてないです。
現場では、いろいろな人が見ている中で処置を行いますので、そのような中で、関係者とコミュニケーションをとりながら活動できる、柔軟な人が向いていると思います。
この日、本院のある地域の気温は35.4度。朝からすでに3本のフライトを終え、暑さからの避難のため、格納庫で待機・整備された機体の前で。左はパイロット。「コード・ブルー」では、機内ではヘッドセットを装着していますが、こちらではヘルメットを着用します。ちなみに一つ、15万円!
ドクターヘリの出動範囲で最高レベルの治療を
―北総ドクターヘリは、日本のドクターヘリの中でも最も歴史あるドクターヘリチームですが、チームの自慢や特徴は何ですか?
やはり、伝統がある中でも、ドクターヘリを導入した初期からのモットーが受け継がれていることでしょうか。
当院は、日本で最初にドクターヘリの運航が開始された施設のうちの一つです※1。
もともと、ドクターヘリは、「こうでもしないと、人を助けられない」と医師を始め、医療者がもがき苦しむ中で始まりました。
僕らは千葉県の医療を全部支えようとしているのではなくて、ほかの医療機関にできることはしていただく一方で、「千葉県という広いエリアで、発生する頻度は少ないものの、救命が難しい患者さん」を対象としています。
出動してから約一時間後、患者さんを載せて帰院したドクターヘリ。患者さんは急性冠症候群ですぐにICUでの治療が開始されました
その最たるものが、重症外傷の症例です。
当院の救命救急センター長は、代々外傷の専門家が務めており、スタッフも外傷の専門家がそろっています。
それを最大限に生かして、「片道15分、半径50キロのエリアに最高レベルの重症外傷の治療を提供しよう」というのが、われわれの当初からのモットーです。
このモットーが、立ち上げ当初のスタッフからどんどん人が入れ替わった今も継承されて残っています。それがうちの自慢ですね。
※1 1999年10月に厚生省(現在の厚生労働省)が岡山県の川崎医科大学附属病院高度救命救急センターと神奈川県の東海大学医学部附属病院救急センターで「ドクターヘリ試行的事業」を開始(2001年3月まで)、2004年4月に日本医科大学付属千葉北総病院にて正式に千葉県ドクターヘリが運航開始しました。
―最後に、先生から、この記事を読んでいるフライトナースを目指すナースへ一言お願いします。
フライトナースは、素晴らしい仕事だし、やりががある仕事だと思います。
でも、卒業していきなりフライトナースになるのは無理です。
日常の業務が基礎問題であれば、ドクターヘリに関しての治療やケアは、いわば応用問題です。
僕らフライトドクターもそうですが、応用問題を短い時間で解かなくちゃいけないのが僕らドクターヘリチームの仕事です。
応用問題をいきなりいっぱい覚えようとしても無理なんです。
基礎問題をたくさん解いて、基本的なことがちゃんとできるっていうことがベースだと思います。
フライトドクターもそうですが、フライトナースにとっても、日ごろやっていることが絶対に役に立ちます。まずは日ごろの仕事をちゃんと追求してやっていただけたらと思います。
ライター:山村真子(看護師)
撮影・編集:林 美紀(看護roo!編集部)
インタビュー後編
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