「医療・福祉」業界はストレスが多いって本当?

医療や福祉業界で働く人は、仕事による心身の負担が大きく、メンタルヘルスの不調をきたしやすい-。

 

そのように言われていますが、ほかの業種と比べて本当にストレスを抱えている人が多いのでしょうか?

 

労災の精神障害の請求状況やストレスチェック(関連記事)の統計分析データなどを元に、医療・福祉業界のストレス傾向について考えてみました。

 

 

精神障害の労災請求は全業種で「医療・福祉」が最も多い

厚生労働省が毎年発表している「過労死等の労災補償状況」によると、2017年度に仕事による強いストレスで精神障害を発症し、労災請求を行った件数は、全業種で1,732件で、そのうち「医療・福祉」は313件と最も多い業種でした。これは、全業種の18%に当たります。

 

図1精神障害の労災請求件数の推移

精神障害の労災請求件数の推移、2008年度(全業種/927、医療・福祉/122、その他/805)、2009年度(全業種/1,136、医療・福祉127、その他/1,009)、2010年度(全業種/1,181、医療・福祉/170、その他/1,011)、2011年度(全業種/1,272、医療福祉/173、その他/1,099)、2012年度(全業種/1,257、医療・福祉/201、その他/1,056)、2013年度(全業種/1,409、医療・福祉/219、その他/1,190)、2014年度(全業種/1,456、医療・福祉/236、その他/1,220)、2015年度(全業種/1,515、医療・福祉/254、その他/1,261)、2016年度(全業種/1,586、医療・福祉/302、その他/1,284)、2017年度(全業種/1,732、医療・福祉/313、その他/1,419)

出典:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」

 

また、実際に労災と認定された件数でも、「医療・福祉」は82件と、「製造業」(87件)に次ぐ二番目に支給件数が多い業種です。

 

この10年で、労災請求の中でも精神障害に関する請求件数が多くの業種で増加傾向にあり、全業種で約1.87倍に増えています。特に「医療・福祉」の伸び率は高く、「医療・福祉」だけで見ると請求件数は約2.57倍にまで増えています。

 

職種別では、2017年度は、請求件数が「介護サービス職業従事者」と「保健師、助産師、看護師」は同じ74件(全職種で6番目に多い)で、そのうち支給が決定した件数が「保健師、助産師、看護師」は21件、「介護サービス職業従事者」は20件でした。

 

表1精神障害の労災請求件数の多い職種(2017年度)

  職種 請求件数
1 一般事務従事者 222件
2 営業職業従事者 122件
3 商品販売従事者 96件
4 自動車運転従事者 94件
5 製品製造・加工処理従事者(金属製品を除く) 93件
6 介護サービス職業従事者 74件
6 保健師、助産師、看護師 74件
8 情報処理・通信技術者 71件
9 法人・団体管理職員 62件
10 接客・給仕職業従事者 49件

出典:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」

 

このように、精神障害の労災請求状況からは、「医療・福祉」で働く人にストレスが多いことがうかがえます。

 

ただし、元々、就業者が多い業種であることを踏まえて考える必要があります。

 

 

「身体的負担」をストレスと感じている人が多い

では、医療や福祉に従事している人は、何にストレスを感じているのでしょうか。

 

メンタルヘルスケアサービスを手がけるNECソリューションイノベータ株式会社の根本繁さんは、「医療・福祉」業界で働く人には次のようなストレス傾向があると言います。

 

・「身体的負担」をストレスと感じている人が多い

・「職場環境」「技能の活用」「働きがい」をストレスと感じている人は少ない

 

これらは、同社のメンタルヘルスケアサービスを利用している企業や団体のうち、結果に影響が出ないよう回答者数が多い企業や団体を除いた469社、15万4,934人のストレスチェックデータを分析した結果からわかった傾向です(図2参照、12業種の平均値を比較したもので、ブルー・グリーンの折れ線が「医療・福祉」。グラフは女性のみのデータ)。

 

図2業種別のストレスチェック結果の平均値(19尺度偏差値〈女性5万8,322人〉)

「職業性ストレス簡易調査票」の回答結果を19の尺度(「仕事の負担(量)」「仕事の負担(質)」「身体的負担」「対人関係」「職場環境」「技能の活用」「仕事の適性度」「働きがい」「活気」「イライラ感」「疲労感」「不安感」「抑うつ感」「身体愁訴」「上司支援」「同僚支援」「家庭友人支援」「仕事生活満足度」)で分類し、ストレス状況を評価したもの。いずれも値が低いほど、ストレスが高くなります。

出典:NECソリューションイノベータ株式会社

 

根本さんは、「医療・福祉」の業種で「身体的負担」をストレスと感じている人が多い理由について、次のように話します。

 

「情報通信などのデスクワークが多い業種では、『身体的負担』をストレスとあまり感じていません。逆に、ストレスと感じているのは『医療・福祉』のほか、『宿泊・飲食』などの業種です。そのため、立ち仕事やシフト勤務が多いことなどが関係しているのではないかと考えられます」

 

一方で、「職場環境」「技能の活用」「働きがい」については、「『医療・福祉』の業種では専門職が多く、『こうした仕事に就きたい』という明確な目標があって従事している人が多いからか、こうした仕事そのものに関する部分にはストレスをあまり感じていないようです」と根本さん。

 

NECソリューションイノベータ株式会社の根本繁さん

「医療・福祉の業種では疲労感を取るような対策が必要」と話すNECソリューションイノベータ株式会社の根本繁さん

 

 

女性にストレスが高い傾向がみられる

さらに、同社の分析によると、「医療・福祉」で働く人には、もう一つ大きな特徴がみられるそうです。

 

それは、男性よりも女性の方がストレスを感じている傾向があること

 

全業種では高ストレス者の割合が、男性は14~16%、女性は12~14%と、男性の方が高かったのに対し、「医療・福祉」の業種では、男性は12~14%、女性は13~16%と、男女で逆の結果だったそうです。

 

それでは、女性はどういったところにストレスを感じているのか-。

 

ストレス判定図という「裁量度(自分で仕事をコントロールできる度合い)」「仕事の量的負担」「同僚の支援」「上司の支援」の4つの尺度で健康リスクを考えるデータで見ると、「医療・福祉」業界で働く女性は、「裁量度が少ない」「仕事の量的負担が強い」と感じている傾向が強く、「宿泊・飲食」に次いでストレスを強く感じているといいます。

 

また、全業種の平均と比べ、「上司の支援」「同僚の支援」がやや少ないと感じていたそうです。その傾向は特に20代でより強くみられ、「サービス」「建設」「製造」「卸売、小売」に次いで、ストレスを感じている結果でした。(図3参照、ブルー・グリーンが「医療・福祉」で、20代女性のみのデータ)。

 

図3業種別・健康リスクの平均値(ストレス判定図〈20代女性9,808人〉)

「職業性ストレス簡易調査票」の回答結果を基に、「仕事の量的負担」「裁量度」「上司支援」「同僚支援」の4つの尺度で健康リスクの平均値を図に落とし込んだもの。上の図は右下にいくほど、下の図は左下にいくほど、ストレスが高くなります。※全国平均(女性)は、厚生労働省がこれまでの調査における平均値として示しているもので、全業種20代は、NECソリューションイノベータ株式会社の全業種における平均値

出典:NECソリューションイノベータ株式会社

 

 

***

 

「医療・福祉」の業種で働く人のストレス傾向についてみてきましたが、やはり他業種と比べてストレスが多く、特に女性でストレスを強く抱えている傾向がみられました。

 

人手不足が深刻な医療・福祉業界。少しでも多くの人材を確保するためにも、身体的負担や仕事の量を軽減する何らかの対策が必要と考えられます。

 

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

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(参考)

過労死等に関する労災・公務災害の補償状況(厚生労働省)

ストレスチェック統計分析レポート(NECソリューションイノベータ株式会社)

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