「看護師個人が訴えられたらどうする?」-看護職賠償責任保険選びのポイント-【後編】

日本看護協会出版会で「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室・室長を務める平林明美さん。

前回は、看護師個人も訴えられる時代であり、そのリスクをしっかり認識しなければいけないということをお話いただきました。

 

「看護師個人が訴えられたらどうする?」-看護職賠償責任保険選びのポイント-【前編】

 

後編では、こうした看護師向けの賠償責任保険が、看護師個人が訴えられた場合以外ではどんなときに役立つのか。また、保険を選ぶ際のポイントについてお聞きしました。

 

 

訴訟以外で補償されること

前編で紹介した【ケース1】のような対人賠償や、【ケース2】のような人格権侵害以外でも、保険が適用になるケースはたくさんあります。平林さんは「むしろ、訴えられた場合以外でも、看護師の支えになることが多い」と語ります。

 

その代表的な補償内容が「対物補償」と「初期費用・争訟費用」です。

 

(1)対物賠償

最もニーズが高いのが、患者さんの持ち物を誤って破損してしまった場合の対物賠償だそうです。ちなみに「看護職賠償責任保険制度」で、これまでに賠償の対象となった物は「補聴器、時計、義歯、メガネ」が上位だそうで、まれにナースが誤って病院の備品を壊してしまった場合の賠償に適用されることもあるそうです。

 

(2)初期対応費用・争訟費用

事故が発生した場合、事故についての調査をしたり、被害者にお見舞いを支払ったりするための費用がかかります。また、訴訟になれば弁護士費用がかかりますが、訴訟にならなかった場合でも事実を明らかにするプロセスで弁護士費用が必要になる場合があります。こうした初期対応費用、争訟費用もニーズが高いそうです。

 

■主な保障内容と賠償金 ※「看護職賠償保険制度」の例

※あくまでも例です。詳しくは看護職賠償責任保険制度」ホームページをご確認ください。

 

保険選びのポイント

実際に保険を選ぶ際に押さえるべきポイントは何でしょうか。

 

【保険選びのポイント】

(1)いざと言うとき、直接相談を受けてくれるか

(2)事実を明らかにする調査等を行ってくれるか

(3)補償対象になる業務の範囲・雇用形態は自分に合っているか

 

(1)いざと言うとき、直接相談を受けてくれるか

平成23年度に「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室に寄せられた相談のうち、2番目に多かったのが「事故発生後の対応について」でした。

 

このことからも分かるように、実際に事故が起きた場合、自分は何をすればいいのか、逆に何をしてはいけないのか、分からなくて戸惑ってしまうのは当然といえるでしょう。

 

「いざ何かが発生したときに頼れる、また、事故発生前でも業務に関する安全上の不安についてサポート体制があるか否かは大事な観点の1つでしょう。当方では最近、病院以外の新たな領域(訪問看護ステーションや介護施設、特別支援学校など)で看護業務に就いておられるナースからの相談が増えてきました。必要時は弁護士のアドバイスを受けながら安全な体制整備がなされるようアドバイスを行っています」

 

■事故発生から保険適用まで ※「看護職賠償責任保険制度」の例

事故発覚から解決まで、全プロセスで専門家の相談・支援を受けられるかが重要です

 

※上記の流れはあくまでも例で、期間も数カ月~10年など、事例によって異なる。

※対物賠償については原則として、事故調査委員会は開催せず事後報告とする。

 

(2)事実を明らかにする調査等を行ってくれるか

「特に病院で医療事故や患者とのトラブルが起きた場合、現場にいた人にしか状況が分からないことが多いものです。それだけに、患者の言い分が正しいのか、本当に看護師個人の行為に問題があったのかといった判断が難しく、訴訟にならなかったとしても、解決まで長引くことが少なくありません。こうした場合、看護職の立場に立ってサポートを行ってくれるかどうかも、看護職向けの賠償責任保険を選定する際の大事なポイントでしょう」

 

【例えば保険が適応されるのはこんなケース】

(ⅰ)「看護師が自分の悪口を言っていた」と入院中の患者から病院にクレームがあった。病院は詳細な調査をしないまま患者に謝罪を行った。

 

(ⅱ)しかし、患者の病院、看護師個人に対するクレームは収まらず、1年が経過した後、看護師が「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室に相談。

 

(ⅲ)それに応じて、保険会社の担当者とともに調査に赴き、「事故審査委員会」に報告。クレームの対象になっている悪口の事実はなかったことが判明。

 

(ⅳ)以後の対応窓口を弁護士に移したため看護師の精神的負担は軽減された。この間に要した弁護士費用(争訟費用)が支払われた

 

「看護職賠償保険制度」の窓口であるサービス推進室に寄せられる相談は、年間約250件。相談内容で多いのは保険制度の対象となる業務範囲・補償内容や事故発生後の対応についてですが、最近は患者からの暴言・暴力、組織管理の不備にまつわる相談が増えていると言います。

 

「ただ、間違ってはいけないのは、私たちのような相談を受ける立場の者は、事実関係が正しい、正しくないといった判断や評価をするわけではないということです。私たちが大切にしているのは、組織における問題解決促進のためのアドバイスです。同僚や上司と話し合い、組織として解決することが理想なのですが、残念ながらそうした対応が十分にとれず、力及ばないケースもあります」

 

(3)補償対象になる業務の範囲・雇用形態は自分に合っているか

また、保険を選ぶ際に確認したいポイントとして、補償の対象になる業務の範囲があります。例えば「看護職賠償責任保険制度」では、保助看法の規定に基づき、保健師・助産師・看護師・助産師が就業先の病院等で行う業務だけでなく、災害派遣や業務上のスキルアップのために参加する研修・講習・臨床実習・臨床研究における損害賠償事故にも対応しています。

 

もう1つのポイントは、正社員、パートなどの雇用形態に関係なく、補償の対象になるかということです。「看護職賠償責任保険制度」の場合は報酬の有無も問わないため、例えばボランティアなどで行った業務も対象になり、さらに看護師長などが管理監督者として看護師に対する指導責任等を問われた場合も対象となっています。この範囲についても、よく確認することが必要です。

 

リスクの高い業務だからこそ必要な制度

 

現在、「看護職賠償責任保険制度」の加入者は16万4,586名(平成23年度)。これは日本看護協会会員の約25%に当たります。あくまでも個人で任意加入する保険制度ですが、平林さんはこれからの時代こそ、こうした保険が必要になるだろうと言います。

 

「今はまだまれなケースですが、患者が起こした賠償請求で看護師個人が訴えられなかった場合でも、病院側から看護師の責任の割合に応じた金額を払うように請求されることもあり得ます。私がこうした保険が必要だと考える一番の理由は、何よりも看護職がリスクの高い業務を担っている職種だからです」

 

また、これまでのように使用者責任だけを問うのではなく、個人の責任を明確にしたいと考える患者さんが増えているのではと平林さんは考えています。

 

「私は看護職が専門職として評価され、期待されているということに誇りを持ってほしいです。看護師個人が訴えられることを単に恐れるのではなく、自らが行った判断や行為についていつでも他者に説明できるような力を身につけてほしいと願っています。

 

その上で、これからの医療・看護の場で活躍する専門職業人として、誰にでも起こりうるリスクに、保険という選択肢を1つ加えて備えていくべきではないでしょうか」

 

“看護師個人が責任を問われるケースが増えている”と聞いて、驚いた方も多いのではないでしょうか。でも、それはナースが高い技術を持ち、医師とは異なる面で患者さんから期待されている専門職だからこそ。自信を持って仕事をしていくためにも、万が一のときに自分を守ってくれる看護職賠償保険について調べてみませんか?

 

まずは自分の勤務先にどんな制度があるのかチェックしてみましょう。

 

【前編】「看護師個人が訴えられたらどうする?」 -看護職賠償責任保険選びのポイント-


【お話を伺った方】

株式会社日本看護協会出版会 損害保険部部長

(兼)「看護職賠償責任保険制度」サービス推進室 室長・看護師 平林明美さん

 

<プロフィール>

1999年(平成11年)に横浜市立大学医学部附属病院で手術患者取り違え事故が起きた際、同病院の小児科病棟の看護師長として勤務。この事故をきっかけに安全管理体制が見直され、2000年より初代リスクマネージャー(医療安全管理者)を務める。その後、横浜市衛生局等を経て、2006年(平成18年)より現職。「看護職賠償責任保険制度」加入者への相談対応、安全管理の啓発などを行っている。

 

看護職賠償責任保険制度」ホームページ

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コメント

コメント一覧 (29)

29
2018/03/14 18:16

実際に看護師個人が賠償する(した)金額ってどこにも出てないんだけど,それが分からないと保険に入る必要があるのかどうか分からないね

28
2015/06/17 07:50

バカどもがミスなく仕事するのがプロで給料もらってるんじゃないの?

27
2014/02/05 19:42

育休中に切らしてしまったので、再加入します

26
2013/12/17 23:18

難しくていまいち理解できないのでもう一度読み返します。

25
2013/12/13 21:25

看護師するのが怖くなります

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