シリアの病院で今、起こっていること｜国境なき医師団看護師・白川優子さんインタビュー【1】

内戦が激化するシリアで、医療支援活動に参加した日本人看護師がいます。

 

看護師・白川優子さん。NPO国境なき医師団の一員としてシリアに入り、外傷専門プロジェクトチームのオペ室ナースとして活動しました。

 

戦争の最中にゼロから病院をつくり、空爆や銃撃戦で傷ついた患者のケアをする・・・

現代の日本で働く看護師が見る光景とはあまりにかけ離れています。

 

白川さんが看護師として見たシリアの現状をお聞きしました。

 

 

シリアの病院で今、起こっていること

白川優子さん(39)

看護師・国境なき医師団所属。2013年7月～9月、シリアにて活動。

埼玉県内の看護学校を卒業後、外科・オペ室・産婦人科勤務。その後オーストラリアにて看護学修士課程を修了・看護師として勤務。2010年よりNPO国境なき医師団に参加し、スリランカ、パキスタン、イエメン、シリアへ派遣。現在は日本をベースに、国境なき医師団や医療通訳などの活動を行う。

 

飛行機＝爆撃機。だから日本でも飛行機は苦手

「先日、友達と恵比寿を歩いてたら、工事中のクレーン車から、ドン！って大きな音がしたんですよ。

そのとき私、とっさに頭を両手でかばってしまって。

『日本で、そんな反応するのあなただけだよ』って言われて、笑っちゃいました。(笑)

 

シリアをはじめ、紛争地域では『音がしたらまず頭を守れ』って鉄則なんですよね。だから音には敏感になっちゃってるかも。」

 

こう笑う白川さんがつい1ヶ月前に歩いていたのは、シリア国内の国境沿いの村。

間近に空爆の音を聞きながら、被害を受けた市民や、実戦で傷ついた兵士のケアをしていました。

 

「シリアでは、飛行機イコール軍事用。爆撃に直結します。だから日本にいても、飛行機の音は苦手なんです」

 

シリア国境沿いの病院で

看護師・白川優子さんは、NPO国境なき医師団のオペ室ナースとして、シリアをはじめ各国での活動に参加しています。

 

今回のシリア派遣は、2013年7月から9月までの3ヶ月間。半年前に続き、二度目の派遣です。

 

「前回は、国境沿いの村の民家を改装して、病院をつくりました。

外から見るとまったく普通の民家なんですけど、中に一歩入ると、病院なんです。

庭は救急、1階はオペ室・救急蘇生室、リカバリー室。2階は病棟とオフィスに改装しました。

 

 

病棟には扇風機もあったし、オペ室にはクーラーもついていました。日本の最新設備と比べたらそれは、びっくりすることばかりですけど。でもきちんと医療行為を行える設備は整っていました。」

 

白川さんはそこに、オペ室ナースとして勤務。オペ室の運用や設備の管理、現地採用のナースの育成が主なミッションです。

 

「もちろん必要なときにはオペ介助も行います。そういうときは外回りですね。全体を見てコントロールします。

 

空爆や銃撃戦の被害者だけでなく、妊婦さんも行くところがないのでやって来ます。だから緊急オペばっかり。

スケジュールコントロールや、薬品の管理、インフェクションコントロール（感染予防）もオペ室ナースの役割です。

 

戦時中にも産まれる命があります。この双子は空爆の日に産まれました

 

 

もうひとつ重要なのは、現地で雇ったナースの育成です。

 

私たち外国人ナースは、交代で派遣され、最長でもひとり約3ヶ月までしか滞在しません。

現地で看護師スタッフを雇うのですが、前回、病院の立ち上げ時にはなかなか集まらなくて。

採用したオペ室ナース5人のうち、2人が現場経験のない若者でした。

ゼロから教えましたよ。手の洗い方から。もう本当に大変だった(笑)」

 

物品や薬品名は英語とアラビア語で記載

 

病院を立ち上げる際には、すべてがゼロから。スタッフについても、掃除担当や門番など、あらゆる仕事の募集をかけるそうです。

 

「今回は、都市で空爆が激しくなったために、病院のある田舎の村の周辺には避難民があふれていました。その中にはダマスカスやアレッポの大病院で働いていた看護師たちもいましたね。

そういう意味では、即戦力の採用については前回よりもスムーズでした。」

 

大学が爆破されて学べなくなった学生。

地元で空爆にあい、家族をなくし、職もなくして避難するしかなかった人たち。

多くのシリア人が、家を追われ避難民として暮らすことを余儀なくされています。

 

現地での採用は、彼らの雇用を生み出す意味も持ち合わせているのです。

 

アレッポ市内・破壊されたモスク

 

空爆や銃撃の負傷者とやけどのオペが主

運ばれてくる患者は、多くが空爆や銃撃戦の負傷者です。

特に今（2013年9月時点）は、毎日のように政府軍の空爆があるほか、粗悪な燃料が暴発することでやけどを負った患者さんが多いそう。

 

 

「半年前はシリア国内に病院が少なかったので、遠くから何時間もかけて私たちの病院まで来る人も多かったんですよ。そういう場合の傷って、すごく汚くて、感染がいちばんの懸念になります。

 

創傷の場合、負傷してから6時間が『ゴールデンタイム』と言われます。それまでならすぐ縫える、という時間です。

でも、そんなのとっくに過ぎている患者さんが多い。だからオペができるようになるまで、まずは何日も洗わないといけないんです。

 

たとえば傷が腐っていたら、その皮膚をどんどん切って、大量の水で洗って、ということを繰り返します。何日も繰り返して、やっときれいになって、中から新しい組織が出てきたあたりでオペができるようになります。

 

 

銃創はそれに比べるとある意味かんたんでした。弾が骨や動脈に当たっていなければ、ですが。

 

手術時間がかかるという意味では、爆破による負傷も大変ですね。1箇所だけじゃなくて、手も足もやられてるという場合がとても多いので。」

 

さらりと話す治療内容は、日本の病院ではなかなか考えられない症例ばかり。

白川さん自身、派遣される前に勉強しようとしても文献がなく、現地で学ぶしかなかった、と言います。

 

「国境なき医師団として3回目に行ったイエメンでの経験が大きかったです。

はじめて外傷専門のチームとして派遣されて、外傷に関してはそこで学びました。

ラッキーだったのは、そのとき一緒に日本人のドクターがいて、いろいろ教えてもらえたことです。

イエメンでの経験がなかったら、シリアは乗り越えられなかったかもしれません」

 

【次の記事】Vol.2　「戦時中」シリアの手術室での一日

 

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【国境なき医師団・白川優子さんインタビュー】

Vol.1　シリアの病院で今、起こっていること

Vol.2　「戦時中」シリアの手術室での一日

Vol.3　唯一輸血に困らなかった国、シリア

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【取材協力】国境なき医師団日本　http://www.msf.or.jp/

 

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10,000円で、560人の子どもたちに、はしかの予防接種を実施可能