タンザニアの妊産婦を救いたい!国際医療の現場に生きる助産師・マガフ範子さん【4・終】
【前回まで】
助産師として、十分な医療が行き渡らない地域である、タンザニア・タボラ州の保健センターに派遣されたマガフ範子(なおこ)さん。
「1,000人のうち5~6人の妊婦さんが亡くなる」タンザニアにおいて、妊産婦死亡を防ぐため、約3年間の任期の間、保健センターや集落で妊婦健診や産後ケアなどの母子保健活動を行いました。
【第3回】野菜作りで妊婦さんの鉄分補給!?
最終回:派遣活動中のお給料や住環境のこと。そして、これからの目標
仕事としての海外派遣ナース・・・お給料や生活は?
教会学校の子どもたちと、マガフさん
前回までは、マガフさんの助産師としての活動を紹介してきました。ところで、派遣中の生活面はどうだったのでしょうか。とくに収入などは気になるところ・・・聞いてもいいですか?
「問題ありませんよ! むしろ、きちんとお話しなきゃいけないことだと思います。海外派遣というと、世間からはボランティアと思われていることもあって・・・。だけど、3年という長期滞在だと、収入は無視できませんしね。
当時の収入は25万円程度で、全て日本の銀行に振り込まれていました。
住居は、イプリ保健センターを管轄している教会から、教会の宿舎のスペースを無償で提供されていました。なので、現地では自分のお金を使うということは、ほとんどなかったです。生活用品やフルーツを買うぐらいでしたね」
ちなみに、現地通貨である「タンザニア・シリング」の相場は、約16シリング=1円。
「タンザニアは物価がとにかく安いです。500シリング(約30円)もあればランチをお腹いっぱい食べることができます。紅茶は10シリング(約0.6円)。マンゴーやバナナなどのフルーツなら、なんと2シリング(0.125円)!
でも、タンザニアの街にはいたるところにマンゴーやパパイヤなどのフルーツがなっている木があって、人々は好き勝手に食べています。これが本当においしい!日本のものより甘いので、きっと食べたらびっくりしますよ」
350mlのコーラ缶は200シリング(約12.5円)。ガソリンは1リットルあたり1,200シリング(約75円)など、輸入に頼っているものほど高額の傾向が。ちなみに、コーラは「来客へのおもてなし用」として振舞われることがほとんどだそうです。
自然と暮らすタンザニアの日常
マガフさんが暮らしていた部屋は教会の宿舎の3階。6畳ほどの大きさで、そこにベッド、蚊帳、机、イス、クローゼット、バスルーム(トイレと洗面台付)があったそうです。
マガフさんが暮らしていた教会の宿舎
「部屋は快適でした。ただ、宿舎には水道がないので、トイレや洗面を使うためには、水を準備しないといけなくて。毎日、建物の外にある、雨水を貯めてある大きなタンクの元に行きます。そして、25リットルのバケツを使って水を汲み、3階にある自分の部屋のバスルームまで運びます。バスルームには80リットルのバケツがあって、それに移し替えるんです」
その水を、トイレや洗面のときに使用していました。ちなみに、水が流れない洗面台だったのに、何故か蛇口はついていたとか。
もう1つ、日本人なら気になるポイント。「お風呂」はどうしていたのですか?
「バスルームにはシャワーはなかったので、水浴びをしてました。先ほどお話した、自室のバスルームにある80リットルのバケツから、小さな桶で水をすくって、髪や体を洗います。雨が降らない乾期は、清拭だけにして髪を洗わないこともありましたが、雨季は毎日水浴びしていました。シャンプーやリンス、石鹸などは、近くのマーケットで全部揃うんですよ」
週に1度のオフ日は、教会に行ったり、たまった洗濯や掃除、散歩や昼寝など、ゆっくりと時間を過ごしていたそう。
「星空はとても綺麗でした。毎日10時には就寝し、朝の6時には起きて、昇る朝日をみながらランニングをして、さわやかに汗を流してから出勤していました。まるで景色を独り占めしているみたいで、贅沢な時間でした」
宿舎から勤務先のイプリ保健センターまでは、自転車で20分。タンザニアのオフロードを自転車で駆け抜けるのが、とてもよい気分転換になったとか。
また、申請すれば30日の長期休暇を取ることもできたので、3年の活動のうち、3回ほど日本へ戻り、講演活動に励んだり、ゆっくりと休暇を楽しんだそうです。ちなみに、タンザニアから日本までは、直線距離で11,777km。往復で約4日かかります。
タボラ空港。まるで普通の家のような外観です。
母としての夢、助産師としての夢
タンザニアでの活動を終え、そして現在は2児の母となったマガフさん。
「これからやりたいこと」は何ですか?
「まずは子どもたちを育てることです。タンザニアにいる3年の間で、約700件の分娩に立ち会ってきましたが、ずっと自分でも赤ちゃんを産みたかったし、母乳もあげたかった。母親になれたことはやっぱり嬉しいです」
と言って、今日一番の優しい笑顔で笑ってくれました。
「私のように、海外で働く助産師でも、『子どもを産んで育てることができる』ということが、これから世界を目指す看護職のみなさんにとっての、1つのモデルケースになれたら嬉しいなと思います。働くことと、子どもを育てること、どちらしか選べないなんてことはないんだよって。そう伝えられるようになりたいですね」
そして、今後の目標を伺うと、「タボラに看護学校をつくりたい!」と教えてくれました。
タンザニアでずっと働くことができる看護師を増やしたいという想いがあります。
「やっぱり、地元の人が、ずっと地元で看護師として働きつづけられる環境って、ひとつの理想だと思うんですよね。私たちのような海外派遣ナースがいなくても、その街に安定した看護や医療が続いていくためには、人材育成が一番の方法だと考えています。だから、タボラに看護学校をつくりたい。
学校をつくることはお金も労力もかかるし、何より、まだ私、先生はやったことないし!実現までは、長い道のりかもしれませんが、今、日本にいるこの瞬間にもできることはきっとあると思うので。一歩一歩、実現に近づいていきたいです」
これまでも、ずっと一歩先の未来を見据えながら、不可能を少しずつ可能にしてきたマガフさん。
タンザニアの学校の教壇に立つ日も、きっとそう遠くないのだろうと思いました。
その時は・・・ぜひタンザニアまで取材に行かせてください!!
【看護roo!編集部】
【目次】
(4)活動中の給料や休日、今後の目標
【マガフ範子(なおこ)さん】
助産師。大学卒業後、3年半の病院での臨床経験、さらに大学院での2年間を経て、JOCS(日本キリスト教海外医療協力会)に入職。2007年9月から海外派遣ナースとして、アフリカ大陸にある、タンザニア・タボラ州にあるイプリ保健センターに赴任。妊産婦死亡率を下げるために、妊産婦への検診活動や産褥ケアなどの母子保健活動を行った。約3年間の任期を終え、2010年11月に帰国し、JOCSを退職。その後結婚をし、現在はボツアナ共和国在住で、2児の母。
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