多職種が考えた、死亡診断時のマナー違反とは?

「自分の名前を名乗らない」「素足で訪問する」「不機嫌そうな顔」-。

 

これは、「地域の多職種で作る『死亡診断時の医師の立ち居振る舞い』についてのガイドブック」でNGとされたマナーです。

 

 

同ガイドブックは、横浜市立大学総合診療医学准教授(研究当時・みらい在宅クリニック)の日下部明彦氏をはじめ、看護師や薬剤師ら多職種が共同で3年前にまとめたものです。医療者や遺族の意見を基に、どのような医師の立ち居振る舞いが家族のグリーフケアにつながるかという視点で考えられており、身だしなみや声の掛け方など具体的な振る舞い方が示されています。

 

先日開かれた「第28回日本在宅医療学会・学術集会」では、日下部氏がこのガイドブックの作成経緯などについて発表しました。ガイドブックは医師向けのものですが、看護師を中心とする多職種の声がふんだんに盛り込まれているので、看取りに携わる看護師にも通ずるものがあります。この記事では、そのポイントを紹介します。

 

【目次】

携帯電話での死亡時刻の確認はNG

あくまで診察の形を取ってほしい

マニュアル通りではなく、考えることが大事

 

 

携帯電話での死亡時刻の確認はNG


 

日下部氏は、ガイドブックの作成に先立ち、死亡診断時の医師の立ち居振る舞いについて緩和ケア病棟の看護師ら32名にアンケート調査を行っています。

 

それは、日下部氏が市中病院の緩和ケア病棟で病棟長として勤務していたころ、デスケースカンファレンスで看護師から医師のマナーについての苦情を受けることがよくあったことがきっかけだったといいます。中には、「当直の医師の態度や振る舞いで、これまで行ってきた緩和ケアが台無しになってしまった」、そんな厳しい声もあったそうです。そのため、死亡診断の場面での医師の立ち居振る舞いが、その後の遺族の悲嘆に大きく影響を及ぼすのではないかと考えるようになったそうです。

 

アンケート調査の結果、多くの看護師が、主治医と主治医以外の医師では、病室の滞在時間や声掛けなどに差があると考えていることが分かりました。これにより、当直医など主治医以外の医師が、患者や家族と面識がないまま最後に立ち会うことになった場合に、コミュニケーションが十分に取れてないことが示唆されました。

 

また、看護師が感じる具体的なマナー違反としては、「不機嫌そうにやってくる」「身だしなみが悪い」「バタバタとうるさく入室する」などで、なかでも、「携帯電話での死亡時刻の確認」が最も評判が悪かったそうです。

 

日下部氏は、こうした調査の結果からマニュアルを作成する必要性を強く感じ、遺族のグリーフケアにつながる医師の良い立ち居振る舞いについての検討を開始しました。それは、患者や家族のためであると同時に、死亡診断時の振る舞い方に戸惑う医師自身のためでもあったといいます。そして、ガイドブックの前身となるマニュアルを作成し、自身の母校である横浜市立大の「瘻手帳」に盛り込んでもらったそうです。

 

 

あくまで診察の形を取ってほしい

その後、日下部氏は、前述のマニュアルを見て、その趣旨に賛同してくれた地域の看護師らとともに、「本当に地域で使ってもらえるものを作りたい」と考え、内容のブラッシュアップに着手します。日下部氏が当時勤めていた、みらい在宅クリニックが担当した自宅で死亡診断を行った遺族へのアンケート調査(有効発送195名、回答率50.7%)や、地域の在宅医(8名)や訪問看護師(10名)へのインタビューを行ったそうです。

 

遺族のアンケート結果からは、家族が医師に対して、落ち着いた雰囲気や、面識がなくてもある程度の患者の経過を把握していることなどを求めていることが分かりました。また、死亡確認を行う際に聴診器を使うなどしてあくまでも診察という形を取ることを望んでいることや、実際にはなぜ亡くなったのかをきちんと説明してほしいと考えていることなどが明らかになりました。また、医師の身だしなみが整っているかどうかも気にかけていたといいます。

 

在宅医や訪問看護師らへのインタビューからは、初めて会う家族に対しての自己紹介の必要性や、主治医から状況を聞いていることを言葉にして伝えることの大切さねぎらいの気持ちを持つことの重要性などが浮き彫りになったそうです。

 

 

マニュアル通りではなく、考えることが大事

そうやってさまざまな意見を取り入れて完成したガイドブックは、家族から呼吸停止の電話連絡を受けた際の受け答え時の注意点から、自宅へ向かう前のチェック(亡くなる直前の病状確認や、身だしなみのチェック等)、実際の死亡診断時の振る舞い方まで、内容は多岐にわたります。20ページの小冊子にまとめられており、インターネット上でもPDFデータで公開されています。

 

日下部氏は、「それぞれの医師が、自らの立ち居振る舞いを見直して、遺族の悲嘆ケアを意識するきっかけになることが重要です。この通りにやってくださいということが大事なのではなくて、こういう部分も皆さんで考えてみましょうよということが大事だと、作っていて分かりました」と強調しました。そして、こうした地域の多職種でのマニュアルづくりが、互いに気づきを与え、地域連携をよりスムーズにするのではないかとの考えを示しました。

 

2017年度内には、一定の条件を満たした場合に、医師が遠隔診療を行い、看護師が死亡診断書を代筆する制度が始まろうとしています。賛否両論ありますが、どのような形であるにせよ、看護師が在宅での看取りにかかわっていく場面は今後増えていくと思われます。看取りや遺族の悲嘆ケアのあり方について、多職種で一緒に考えていく機会を増やしていく必要があるのではないでしょうか。

 

看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo

 

2017年9月17日(日)~18日(月・祝)
第28回 日本在宅医療学会・学術集会

【会場】

京王プラザホテル

【会長】

飯島勝矢(東京大学) 
 

【学会HP】

一般社団法人 日本在宅医療学会

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