オリンピックの舞台裏で医療者は何をするのか? メディカルサポートチームの活動とその重要性
スポーツにケガはつきもの。オリンピックやさまざまなスポーツの世界大会では、医師などの医療者が帯同することをご存じの方も多いだろう。しかし、そういったアスリートに帯同する医療者が実際にどのような活動をしているのかをご存じの方は少ないのではないだろうか。
今回、「第16回日本旅行医学会大会」にて、2016年のリオデジャネイロオリンピックで医師として選手団本部に帯同した、土肥美智子氏(国立スポーツ科学センターメディカルセンター)が、実際のメディカルサポートチームの活動について講演を行ったので、レポートする。
自身が行ったオリンピックのメディカルサポートについて講演を行う土肥美智子氏
アスリートは虫歯も喘息も、一般人より多い!事前のメディカルチェックが重要
事前の携行医薬品のチェックはもちろん、選手が服薬している薬やサプリの確認も行う
現地の水質検査や万が一の精神的ケアもメディカルサポートの役割
アスリートは虫歯も喘息も、一般人より多い!事前のメディカルチェックが重要
土肥氏によると、オリンピックのメディカルサポートは、開催の2年前から始まっていると言う(表1)。中でも、最も重要なのは、開催6カ月前に行われるメディカルチェック(表2)で、その中でも特に重要な項目の一つが、一般のメディカルチェックでは行わない、歯科検診なのだそうだ。
表1オリンピックに向けたメディカルサポートチームの準備
表2メディカルチェックで行う検査項目
一般的に、アスリートは歯を大切にしているように思えるが、土肥氏によると、アスリートの虫歯保有率は、一般人の約2倍だという。
オリンピックのメディカルサポートチームには、内科系や外科系などの医師はいるが、歯科医はいない。もし、現地で虫歯や歯周病による痛みが出てしまえば、選手は競技中に踏ん張ったり、痛みのために食事があまり取れなくなるなど、コンディションにもかかわる。また、歯科医がいないので、痛み止めの薬を飲むくらいしかできず、治療ができない。そのため、事前の歯科チェックが重要になるのだ。
また、土肥氏は、喘息も一般人に比べ、アスリートに多い疾患の一つだという。喘息は、一般人ではだいたい9%程度だが、アスリートは自己申告では6%、検査をすると10%程度になるといい、「喘息があると自覚していないアスリートも多い」と指摘する。
なお、表1に挙げた検査項目以外にも、開催国の状況に合わせて検査項目を追加する場合もある。例えば、2008年に開催された北京オリンピックでは、大気汚染が問題になっていたこともあり、スパイロメトリを検査項目に追加したのだそう。先に述べたように、自分に喘息があるという自覚がないアスリートも多く、また、喘息の薬はドーピング禁止物質であるため、万が一、現地に行ってから喘息が悪化しても、喘息発作の薬を使うことができるよう、先に検査をしておき、必要であれば事前に書類の提出をするなどの対応をしなければならないのだとか。
事前の携行医薬品のチェックはもちろん、選手が服薬している薬やサプリの確認も行う
当然ながら、現地に持っていく携行医薬品の準備や事前の登録も、メディカルサポートチームの仕事になる。ドーピングとなる薬は、世界アンチ・ドーピング機関(WADA:World Anti-Doping Agency)により決められているが、大会主催国によって、持ち込みが規制されている薬剤もあるといい、また、9.11のテロ以降、AEDなどの電気医療機器や、トレーナーがテーピングの際に使用するスプレーなども、機内への持ち込みの規制が厳しくなっていると土肥氏は言う。
ほかにも、渡航中の機内で、選手がロングフライト血栓症を起こさないよう、血液凝固にかかわる疾患を持っていないかなどのチェックも事前に行う。特に女性選手であれば、月経周期を調整するために、経口避妊薬を服薬している場合もある。経口避妊薬は、場合によっては、ロングフライト血栓症のリスクファクターとなる。
また、ドーピングの観点からも、選手個々がどのような薬やサプリメントを服用しているかなどもチェックしなければならない。時に、選手は自分でどのようなサプリメントを飲んだか覚えていない場合もあるため、そういった確認は重要なのだという。
現地の水質検査や万が一の精神的ケアもメディカルサポートの役割
さらに、現地到着後は、選手のコンディションやパフォーマンスにかかわるあらゆる環境に目を配らなければならない。特に、宿泊施設の水質検査(簡易大腸菌培養と残留塩素定性検査)は重要で、飲水はペットボトルのものを別で確保しているが、シャワーや手を洗うシンクなどの水質検査も行うという。
また、場合によっては食材や調味料、調理器具も日本から持ち込む。現地では衛生状態が万全とはいえない場合もあり、選手のコンディションなども考慮して、普段から食べ慣れたものを準備するのだという。土肥氏によると「どの国であっても、日本より衛生状態は悪いと思って準備をする」のだとか。
さらに、選手が現地で強盗に遭うなど、危険な状態に直面した場合、精神的ケアを行うのも、メディカルサポートチームの役目となる。もちろん、選手は単独行動を避けたり、危険な地域に近づかないようにするなどの指導は受けているが、それでも完全に防げるとは言い切れない。国によっては、軍などで、そういった精神的ケアを行っているエキスパートを帯同していることもあるのだという。
なお、メディカルサポートチームに帯同する医師は、現地で医療行為ができるように、医師免許証を事前に登録しておかなければならない。しかし、医師賠償保険制度は、国内のみ適応するものであり、海外での医行為は適応外となる。そのため、土肥氏は、「どこまでの医行為を医師として行うか、行わないか、事前に考えておかなければならない」と指摘する。
最後に、土肥氏は「『何事もなく終わってよかったね』ではなく、メディカルサポートチームは、『何事もないように終わらせる』ことが大事」であるとし、そのためには事前の準備が最も大事だと話して講演を終えた。
なお、過去のオリンピックでは、残念ながらナースはこの選手団本部に入っていない。しかし、選手村近くにスポーツ庁により設置される、ハイパフォーマンスサポートセンターに滞在して、選手村の医務室の手伝いをすることもあるという。
2020年には東京で2度めのオリンピックが開催される。現在、国立スポーツ科学センターの女性メディカルスタッフネットワークと日本臨床スポーツ医学会と協力して、スポーツ医療に関しての知識を持った看護師の育成を検討しているという。興味がある方は、一度調べてみてはいかがだろうか。
【看護roo!編集部】
2017年4月15日(土)~16日(日)
第16回 日本旅行医学会
【会場】
国立オリンピック記念青少年総合センター
【大会長】
石井圭亮(大分大学医学部附属病院)
【学会HP】
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