ドラマ以上にドラマチック!救急外来は人の生きざまが見える現場(後編)|ナースに会ってきた【7】

前回に続き、救急外来で働く皐月さんにお話をうかがいます。
救急外来に来るのは、患者さんにとっては人生で数回の大事件。
それだけに、人の生きざまが見えてくるようです。

『ナースに会ってきた』

 

vol.7 ドラマ以上にドラマチック!救急外来は人の生きざまが見える現場(後編)

「人生が見える現場」その1。「救急車で病院に運ばれる」って患者さんにとっては人生で何回かの大事件のひとつだと思います。患者さんの生き方が見えたことはありますか?という質問をしました。答えてくれたのは、仕事中に機械で第一関節から先の指を落としてしまった人の話しでした。傷の見た目は小さいしたいしたケガじゃなかったんですけど、先生が「指をつなげたからといって直るとは保証できるものじゃない。仕事に早く復帰したいならこのままにしておこう。どうする?」と、あっさり決断を迫ったそうです。患者さん呆然としちゃっていたので、「誰かに電話したいよね?相談できる人いる?」と話しかけました。

すると患者さんが「はい…彼女に…」と言って電話して相談してました。その2。大動脈瘤破裂で来た人がいたんですが、先生が患者さんに「助かるかわからないですが、助かるには手術しかありません」と説明し、皐月さんは「うちの病院じゃ診られないから」と思って必死に準備していました。そうしたら患者さんが「手術はしません。ぼくは自分に大動脈瘤があることは知っていましたし、破裂したら突然死があるということも聞いていました」とおっしゃったそうです。

「これを覚悟して生きてきました。もう何もしません」という患者さんに、皐月さんは「なんで?今助けようと…」と気持ちが追いつかず涙が出たそうです。先生が患者さんの息子さんを呼んできたら、患者さんは「今までありがとうな。あと数時間しかないから家族を呼んでくれ。○さんも最後に会いたいから呼んでおいて。○さんは心配するから死んでから知らせればいいよ」と落ち着いて話したそうです。皐月さんは「ああいう生き方・死に方もいいなと思いますよね。自分でちゃんと身の回りのことを「もうすぐ死ぬからこうしとけ」と落ち着いて言える人って中々いないから」といいます。

その3。「自殺はいやですね…」という皐月さん。「死体」ってはっきり判断できない限り亡くなってる方も運ばれてくるから。3件続いた日があったんですけど、1件目はうつ病の方の自殺で、その方の母親が心配して田舎から「行くから待っててね」と言ってたそうなんですが、母親が着く前に首を吊ってしまったそうで、なぜ娘さんが自分を待てなかったのかと何度も聞いてくる母親に返す言葉もない。忙しくて「良く働いた!」と思う日と公開する日があるけど、自殺の場合は「忙しくて辛く疲れた日」ですね。と話してくれました。「感情的になったこと」の話もしてくれました。20歳くらいの女の子が自殺未遂で運ばれてきたんです。お腹の中が出血してたんですが、病院についても「死にたい」と叫んでいたそう。

「死にたい」と連呼する中で、処置をしていましたが、彼氏が心配するのを聞いていて…「あんたはよくても彼氏はどーすんの!」って感情的になってしまいました。看護師じゃなかったですね。という皐月さん。「じゃあ死ねよ」って一瞬思っちゃいませんか?と聞いてみると、「現場から離れてたら思いますよ。でも目の前に来た移乗血が騒ぐんですよね。」と返ってきました。

「本人を物前にしては絶対言わないです。外ではそんなに死にたいならもっと確実な方法をとればいいのにと思いますけど、生きたいという気持ちが残っているんだったら必然的にいっちゃいます」と皐月さんがおっしゃいます。もしまた自殺未遂したら…と伺ってみると、「切ないですね…一生懸命助けたんだから私たちの前には来ないで欲しい。でも私たち看護師が相手にしなきゃいけないのは「不安」な人です。その人のせいだけじゃない、その人の弱さにつけこんだ周りの環境もあります。どうせ生活保護…アル中…と思っていると行き詰まる。そういう辛い時期もあった飲めと認められないと楽しくなくなるのかも知れないですね」

「救急外来に来る患者さんたちを見ていて思うこと」本当に重症な人が1割っていうのは人の弱さも見える現場だと思うんですけど、皐月さんの中で、こういうタイプの人はこうだな、と思うことは何かありますか?と聞いてみました。「若くても年をとっても関係なく前向きな人ってすごいですよね。たとえば病気になって重症で、先生から説明を受けたときに「そうですか…わかりました。よろしくお願いします」といえる人は前向きな人なんだと思う。常にそのときあったことを受け入れて、じゃあこうすれば良くなるんだといえる人って素直に治療にのるんだと思います。」

逆に「不安な人」はどんな感じですか?と聞くと、「まず拒否する。結局はやるんですが」と聞いて自分だと反省。「すぐ受け入れる人」と「最初は拒否する人」の割合ってどのくらいですか?という質問には「半々くらいですかね」という回答がありました。見た目でわかりますか?と聞くと、「一言二言話せばわかるけど見た目じゃわからないでね」とのことでした。「あとは…家族がいなくて独居の人でも友達が多い人は困らないです。入院してても友達が助けてくれます。人付き合いって大事だなと思います」という言葉を聞いて、友達大事にしようと思うのでした。

 

 


【著者プロフィール】

水谷緑(みずたに・みどり)

水谷緑

著書は「コミュ障は治らなくても大丈夫」(吉田尚記、水谷緑)「まどか26歳、研修医やってます!」「あたふた研修医やってます。」(KADOKAWA) 他。小学館「いぬまみれ」にて犬漫画「ワンジェーシー」連載。

HP:http://mizutanimidori.com/

 

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