「怖い話の話」―看護師が体験した怖い話【最終話】

看護師が実際に体験した怖い話(?)を全5回にわたってお届けする本企画。

 

最終話となる今回は、「意味がわかると怖い話」です。

 

怖い話が嫌いな人は、今すぐお戻りください。

 

怖い話を読むのが好きな人は、どうぞお気を付けください。

 

 

夏の怪談―看護師が体験した怖い話

最終話「怖い話の話」

 

 

 

 

私は怖い話が嫌い。

 

怖い話をしている人も嫌い。

 

怖い話を読んで怖がってる人は、もっと嫌い。

 

そういう人は、いなくなればいいのに。

 

 

 

 

 

 

だからあの日も、行かなきゃよかった。

 

 

看護師なのに廃病院で肝試しだなんて、不謹慎極まりない。

 

 

しかも、友人カップル2組と私の計5人って。

 

 

暇だから参加したけど、先にメンバーを聞いておけばよかった。

 

 

 

目的地は地元で有名ないわく付きの病院らしい。

 

 

もちろん立ち入りの許可なんて取ってない。

 

 

 

季節は夏だった。

 

 

夜は蒸し暑いはずなのに、なんだか空気がひんやりしてる。

 

 

 

明らかに、入っちゃいけない空気。そういうのって、ほんとにあるんだと思った。

 

 

 

 

 

 

夏になると、いろいろなところでいろいろな怖い話を見たり聞いたりする。

 

 

テレビでも、雑誌でも、ここみたいなインターネットのなかでも。

 

 

スマホとかパソコンとかで、夜に1人で怖い話を読んでる人がいる。

 

 

暑くて眠れなかったはずなのに、今度は怖くて眠れなくなる。

 

 

なんの意味があるの?

 

 

怖いなら見なきゃいいのに。私にはわからない。

 

 

 

 

 

 

廃病院に向かうまでの車中は大盛り上がりだった。

 

 

どこで仕入れてきたのか知らないけど、よくもまあ次から次へと怖い話が出てくるもんだなと思った。

 

 

目的地にどんな「いわく」があるのか知りたくて聞いてみたけど、「急かすな」って笑われた。

 

 

これから心霊スポットに行こうとしてるのに、楽しそう。

 

 

 

私はそうでもないけど、みんな好きなんだ、怖い話が。

 

 

 

 

 

 

 

 

みんな、知らない。

 

 

怖い話が好きな人に限って、知らない。

 

 

みんな、怖い話に怖がるけれど、頭のどこかで「つくり話」って思ってる。

 

 

そう、世の中にあふれてる怖い話のほとんどが、「これは実話です」って前置きしてある、つくり話。

 

 

 

でも、「火のないところに煙は立たない」っていうでしょ。

 

 

 

もともとはほんとに起こったことが、誰かの頭のなかで自然に、それか、わざと変えられたもの。

 

 

 

その話が広がって、変えられて、また広がって――それを繰り返してるだけ。

 

 

 

だから、話のどこかには、ほんとうに起こったことが書かれてあるはず。

 

 

 

 

 

 

 

20●号室。ここが目的の病室らしかった。

 

 

私を除く4人は、車内でもったいぶって話さなかった「本題」を、ようやく切り出した。

 

 

「この病室に入院してた女が首吊って自殺したんだってさ。最初に発見したのは看護師。パニクって助けを呼びに行ったんだけど、戻ってきたら、さっきまでぶら下がってた女がいなくなってた」

 

 

「え、違うだろ。入院してたのは全身が不自由だった女。そのベッドで寝てたらしいぞ。で、夜中に病院に入ってきた頭がオカシイ男に殺されたんだ。死体はぜんぶバラされて、トイレに流されたってよ」

 

 

ほかの2人も怖い話が好きなだけあって、この病室にまつわる話を知ってた。

 

 

 

でも、やっぱりどこか違う内容だった。

 

 

 

 

女の死体が消えた、ってこと以外は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんな話にも、誰かの想いが息づいてる。あなたにもあるでしょ、想い。

 

 

誰かが好きとか、あれが欲しいとか、これを伝えたいとか、そういうやつ。

 

 

何度もかたちを変えて、ぐちゃぐちゃになっても、その話には、息づいてる。

 

 

知らなかったでしょ。

 

 

じゃあ、真実から変わってしまって、どんどん増えてしまった話に息づく想いは、薄まると思う?

 

 

 

 

正解は、その逆。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんとに最悪。ほんとに来なければよかった。

 

 

 

どこかに携帯を落とした。気付いたのは車まで戻ってきたとき。

 

 

 

女友達の1人は具合悪いとか言うし。

 

 

その彼氏は残るって言うし。

 

 

もう1人の子は「もう怖いから行きたくない、そばにいてよ◯◯くん」とか言うし。

 

 

 

なんなんだよコイツら。本気で友達やめようかと思った。

 

 

 

 

とにかく、私は携帯電話を借りて、自分の番号にかけながら探すことにした。

 

 

 

 

どこかでブーブー鳴ってるはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想いって、ほんとにすごい。

 

 

 

どんなに話が変わっても、たとえ文字になっても、ぜんぜん消えない。

 

 

 

それどころか、どんどん濃くなる。

 

 

 

「どうしてそんなことがわかるの?」って思った?

 

 

 

むかし看護師をしてたとき、患者さんの想いを考えろって怒られまくったから。

 

 

 

っていうのはウソ。

 

 

 

 

 

ほんとは、想いに触れているのはあなただけじゃなくて、想いも、あなたに触れているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あった、私の携帯。

 

 

 

 

「こんなところ通った覚えない」なんてことはなくて、さっきの20●号室に落ちてた。

 

 

 

 

屈んで携帯を拾う。床が黒く染みてて気味が悪い。

 

 

 

 

幸い、携帯は壊れてなかった。ボタンも押せるし、ヒビも入ってない。

 

 

 

 

そうだ、「見つけたよ」って電話しなきゃ。

 

 

 

 

 

 

でも、つながらなかった。

 

 

 

 

 

いや、つながるんだけど、なにも聞こえない。

 

 

 

 

 

電波が悪いのかな。

 

 

 

 

 

もう一度画面を確認してみた。

 

 

 

 

 

やっぱり異常なし。

 

 

 

 

 

急に怖くなった。

 

 

 

 

 

早く戻りたい。

 

 

 

 

 

 

 

そう思ったとき、携帯が「ブーブー」と鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

友達からだと思ったけど、画面に友達の名前は映ってなかった。

 

 

 

 

 

 

でも、映ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らない女の顔が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私のことを面白がってる人は、みんな消えればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、負の想いが息づいた顔が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、ほんとに、来なきゃよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたはスマホ? それともパソコン? どっちでもいいけど。

 

 

 

画面越しに、想いはあなたを見ている。

 

 

 

忘れないで。

 

 

 

この話がどこまで変えられてて、どこに真実があるのか、私にはわからない。

 

 

 

でも、想いは息づいてる。

 

 

 

忘れないで。

 

 

 

画面を真っ暗にしたとき、そこにあなたの顔は映るかな。

 

 

 

となりに、うしろに、もしかしたら上とか下のほうかもしれないけれど。

 

 

 

 

 

なにもいないといいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、私は帰れなかった。

 

 

 

 

 

 

でもきっと、あの4人が伝えてくれたはず。

 

 

 

 

 

伝えられた話に付属していたはずの同情は、伝播するたびに洗われて、いつか綺麗さっぱりなくなる。

 

 

 

 

 

そうやって、私の話はただの怖い話になって、変えられて、広まって、変えられて、どんどん広まって――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は怖い話が嫌い。

 

 

怖い話をしている人も嫌い。

 

 

怖い話を読んで怖がってる人は、もっと嫌い。

 

 

 

 

 

そういう人は、いなくなればいいのに。

 

 

 

 

 

それが私の、想い。

 

 

 

 

 

おわりに

次回の怖い話は今のところありませんが、場合によっては続編も検討いたします。

 

はじめ(第一話)からご覧になっていない人は、ぜひそちらもお読みくださいね。

 

おそい時間帯に読むと、ちょっと怖いかもしれませんが……。

 

前と後ろをしっかり確認してから読むことをおすすめします。

 

 

 

だいじょうぶです、たぶん、何もいませんから。

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