これから救護活動に行く方に知っていてほしいこと、心構え|災害現場での救護活動のメンタルヘルス
災害救護活動は、被災地域の復旧・復興の手助けの一端を担う、社会的に重要な任務です。
しかし、その活動は、余震や建物崩落など、二次災害の危険を伴います。さらに、通常の医療現場とは異なる、とても多くのストレスを伴います。
何事にも事前の心構えが重要ですが、災害の救護活動も例外ではありません。ここでは、救護活動を行う医療従事者(以下、救護活動従事者)が「心身の安全第一」で活動するための秘訣をまとめました。
重村淳
(防衛医科大学校 精神科学講座 准教授)
【目次】
これから救護活動に行く方に知っていてほしいこと、心構え
救護活動中に気を付けておくこと
救護活動後に気を付けておくこと
被災地で救護活動を行った同僚と接する医療従事者の方へ
これから救護活動に行く方に知っていてほしいこと、心構え
被災地域に外部支援者が訪れることは被災者に希望を与えます。そして、その活動は、現地の復旧・復興の手助けの一端となります。しかし、それは、救護活動従事者が被災者の方々の迷惑にならないことが大前提です。
たとえば、あなたが被災した場合を考えてみましょう。
見ず知らずの外部支援者が手伝いを申し出たとき、あなたは何を求めますか? そして、逆に、してほしくないことは何ですか?
外部支援者は、この自問自答を続けながら被災地で活動することになります。
救護活動にあたっては、被災地域(被災者)の負担が最小限になるよう考えることが求められます。加えて、あなたの組織が何を求めているのか、任務の意味をはっきりさせましょう。
救護者の多くは、自分が活躍できることを期待して現地に向かいます。しかし、現地のニーズは救護者本人の思惑とは必ずしも一緒ではありません。
待機のみを強いられる活動もあるでしょう。あなたにとっては、やりきれなさを感じる活動かもしれません。しかし、それでも、被災地域や被災者、そして組織にとってその活動は何らかの意味を持っているはずです。
外部支援者には、「誇りを持ちながらも、身分相応に、威張らずに」活動することが求められます。
救護活動中に気を付けておくこと
「心身ともに安全第一」これが最も重要なことです。
災害現場では、余震や建物崩落など、二次災害の危険性があります。救護活動従事者自身が安全でなければ、ほかの人を助けることはできません。
心の健康についても同じことがいえます。
「支援者ストレス」「共感疲労」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
もともと医療従事者、特にナースは、仕事を通して心が傷つきやすいです。看護を通して、患者さんの苦しい体験を、ナース自身も追体験するためです。
災害現場では、それに加えて、膨大なストレスが襲ってきます。現場は混乱し、やりたいことは際限なくあり、あっという間に不眠不休になります。時には、とてつもない惨状を目の当たりにすることもあります。
このような、災害救護者・支援者に生じ得るストレスを「惨事ストレス」と呼びます。
救護活動従事者に生じ得るストレス反応として代表的なものを表1にまとめました。このような反応は「異常な事態に対する正常な反応」です。誰にでも起こり得ますが、時間とともに収まることがほとんどです。
このような心身の反応は、まず自分自身が気付き、対処することが重要です。
誰もが日々、ストレスへの対処を行っていますが、災害現場では、それを自ら率先して行いましょう。自分だけの時間を自らつくることも有用です。
救護活動後に気を付けておくこと
活動後、救護活動従事者が「何もできなかった」、「誰も助けられなかった」と感じて、自分を責めたり、悩み続けたりすることがよくあります。これは、表1でも挙げた通り、誰にでも起こり得る変化です。
大規模災害に対して、一人の人間はあまりにも微力です。どのような専門家であっても、一人ができることはごくごく限られています。そして、災害現場で、本人の希望通りに活躍できることはまずありません。
被災地域あるいは組織の要望によって、活動が思う通りにいかないことはあるでしょう。しかし、それは自然なことです。ですので、その限界を自分に言い聞かせ、自責感を和らげましょう。
「あなたがその場にいたことは、被災地域の人々にとって、それだけで大きな意義がある」ということを確認し、認識することも自責感を和らげるのに役立つでしょう。
表2にストレスを最小限にする方法をまとめましたので参考にしてください。
被災地に救護活動に向かった同僚と接する医療従事者の方へ
1)活動後の同僚への接し方で気を付けておくこと
もしあなたが上司ならば、まずは行った救護活動をしっかりと褒め、ねぎらってください。
組織としての応援を言葉としてしっかり伝えることが肝心です。逆に、言葉にしないと、救護活動従事者は、組織の中での活動の意味に戸惑い、自問自答することになります。
また、心身の反応は誰にでも生じ得ます。回復には休養と時間が必要な場合があります。その点を同僚・上司・部下が理解することが大切です。
時には、気分の高ぶりが続いて、いつも以上に頑張ろうとする場合があります。そのような場合、上司は、そのスタッフにしっかり休みをとらせ、回復を促すことが重要です。さらに、職場に戻ってきてからも無理はさせないような配慮が求められます。
救護活動従事者が落ち着いたら、組織の中で報告会・激励会を行うことも重要です。これらを通じて、周囲はその人の体験を知ることができ、自分だけで体験をためこまないように伝えることもできます。
2)救護活動従事者の変化に気付いた場合どうするか
災害後のストレスはしばらく続きますが、通常は数週間以内に自然と収まります。周囲は、その回復を支え続けることが求められます。
帰任後、仕事に過剰に没頭する場合、休憩を取りたがらない場合には、気分の高ぶりが続いている証かもしれません。無理をしないように声をかけること、時には業務配分を配慮することが重要です。
専門的なケアを要するレベルまで行くことはまれですが、もし救護活動従事者に体(睡眠、食欲)、心(イライラ、涙もろい、ふさぎこむ)、行動(ミス増加、仕事に過剰に没頭する、遅刻が増える)などの変化が数週間続く場合には、注意が必要です。
上司などが本人にしっかりと話を聞くとともに、手助けしたいことを伝えた上で専門的なケアを勧める場合があります。
災害の救護活動は、被災地域の方々にとって重要な活動であり、希望を与えるものです。
一方で、その活動には大変多くのストレスがかかります。救護活動に向かわれる医療従事者が「心身の安全第一」をモットーとして、無事に任務を遂行できることを願ってやみません。
【重村 淳 (しげむらじゅん) 】
経歴
1994年3月 慶應義塾大学医学部 卒業
1999年5月 防衛医科大学校 精神科学講座 助手
2003年5月 兼 米国軍保健科学大学 精神科教室 トラウマティック・ストレス研究センター 客員研究員
2006年4月 防衛医科大学校病院 精神科 講師
2014年4月 防衛医科大学校病院 精神科 准教授
専門
災害精神医学(特に救援者・支援者のメンタルヘルス)
所属学会
日本トラウマティック・ストレス学会(副会長)、日本精神神経学会(災害支援委員会委員)、日本集団災害医学会(評議員)など
表彰
被災者支援活動に対する感謝状(2012年、福島県知事)
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