ナースのお悩み処方箋【8】看護師は無力なの?

「人間が人間の命を救うなんてことはできない。

けれど、最期の瞬間に癒しを与えることができる。

それがわたしたちの仕事の醍醐味」

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人が亡くなるのを見るのは辛いものです。
最期に一緒に過ごした期間が長くなればなるほど、その死が辛くなります。

それは私たち看護師でなくて、ドクターたちも同じなんですね。

絶対に助ける、助けたい!
その思いで治療を重ね、思いが強ければ強いほど、患者さんの死に、やり場のない『敗北感』を覚えてしまうのかもしれません。

上に書いたのは、担当患者さんに死亡宣告をし、詰所で「僕は無力だ」と泣き始めた若いドクターに向かって、病棟師長が言ったコトバです。

病を治すことを最大の存在理由にしているドクターにとって、師長の言葉は素直に聞けるような言葉ではなかったらしく、「僕は人を救うために医師になったんだ!!」と反論していましたが。

みなさんなら、この若い彼には伝わらなかった師長の言葉の、本当の意味を察していただけると思います。

人間は人間。
人間である以上、誰かの消えかかった命をどうにかできるような能力なんてないのです。

私たち人間にできることは、患者さんが自己治癒能力を発揮しやすいように、手助けをすることだけ。
病気を治すのは、患者さん。
医師も看護師も、患者さんの手助けをしているに過ぎないのです。
そこを履き違えてしまうと、患者さんの死に直面して、敗北感や無力感を覚えてしまうのではないでしょうか。

残念ながら、その後しばらくしてその病院を辞めてしまったので、あの時、師長に反論した若いドクターが、今、どんなドクターになっているのかはわかりません。
けれど、ケアを大事にする師長さんと、何人もの患者さんの死を見つめて、ドクターなりに最期のケアを提供することを考えて、答えを出しているはずです。

私たちは、人でしかない。
そして、人は必ず死ぬのです。
だからこそ、最期の瞬間に、少しでも悔いや憂いを少なくなるような治療やケアを提供することが大事なのではないでしょうか。

私はそう思います。

 

 


 【岡田久美】 兵庫県出身。看護書籍の編集とゲームシナリオライターを本業に、フリーの看護師として活躍中。いつでもどこでもどんなところでも勤務できるオールマイティな看護師を目指し、これまでの勤務職場は病院、クリニックなど30以上。

著書に「看護師の流した涙」(ぶんか社)がある。

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