がんになっても働きながら治療できる環境整備を―看護師・保健師も積極的に介入
2016年2月23日、厚労省が、企業向けに「治療と仕事の両立を支援するガイドライン(指針)」を公表しました。
このガイドラインは、がん・脳卒中・心疾患・糖尿病・肝炎などの長期治療を必要とする患者の退職を防ぐことと、逆に仕事の忙しさや職場環境を理由に治療を中断することがないよう促すねらいがあります。
内容には、患者・企業・医療機関が情報を共有するための具体的な仕組みが示され、患者が仕事内容を医師に伝えたり、医師が患者の職場復帰に必要な措置を記したりするためのひな型が盛り込まれています。
政府がこうしたガイドラインを公表するのは、今回が初めて。背景には、がんで通院しながら仕事を続ける患者が32.5万人にのぼる(平成22年)など、「働き世代の有病率が高くなっている現状」があります。
看護師、産業保健師が行う患者の就労支援は、どう変わるのでしょうか?
仕事と治療を両立させるための具体的な方法
仕事と治療を両立するため、ガイドラインで示されている一連の流れをまとめました。
【1】患者が主治医に自分の仕事内容を書面で提出
【2】患者から受け取った仕事内容を参考に、主治医が就業の可否、時短などの必要な措置を書面に記す
【3】患者が主治医から受けとった書面を企業に提出
【4】企業が、主治医の作成した書面(3)を産業医や産業保健師に提出、意見を求める
【5】企業がそれらを総合して患者(従業員)と話し合い、治療と仕事をいかにして両立していくのかを決める
これ以外にも、上記を実践する環境整備として、企業側に「従業員の相談窓口を設置すること」「短時間の治療が必要な従業員に、時間単位の休暇・出勤時間の変更などを認めるなど、一人ひとりにあわせた対応していくこと」などが盛り込まれています。
【治療と職業生活の両立支援を行うための環境整備】
○ 労働者や管理職に対する研修等による意識啓発
○ 労働者が安心して相談・申出を行える相談窓口の明確化
○ 短時間の治療が定期的に繰り返される場合などに対応するため、時間単位の休暇制度、時差出勤制度などの検討・導入
○ 主治医に対して業務内容等を提供するための様式や、主治医から就業上の措置等に関する意見を求めるための様式の整備
○ 事業場ごとの衛生委員会等における調査審議
(出展)厚生労働省
産業保健師・医療機関の看護師に求められることは?
今回のガイドラインで、もっとも大きな影響があるのは、企業などで働く産業保健師です。
産業保健師は、2015年には全国で4,119人となり、10年前と比べて2倍以上に増加しました。その仕事内容は、主に従業員の心身の健康を維持するための医学的なアプローチを行うこと。また、産業医・人事・各部署・医療機関などと連携して従業員の就労を支援すること。
まさに今回のガイドラインが目指す、患者が治療と仕事を両立するための相談窓口を担っているわけです。
しかし、これまでは医療機関と連携する仕組みが整備されておらず、保健師が知ることができるのは、企業で実施された健康診断の結果のみ。再検査後に継続中の治療や個人での受診には、個人情報保護などもあって、そこまで介入することができなかったのです。
今回のガイドラインには、患者(従業員)の許可があれば、産業保健師も医療機関と直接やりとりをすることができると示されています。これにより、より積極的な就労支援が可能になるわけです。
また、医療機関の看護師で患者の就労支援を担っているのは、がん患者であれば、主にがん専門看護師・がん領域の認定看護師など。
しかし、これまでは患者の就労など、社会的背景を具体的に知る機会がなく、看護師が患者の仕事内容にまで踏み込むのは難しい状況でした。また、必要に迫られても企業の相談窓口がわからないといったケースもあります。
今回のガイドラインで示されたように、患者の就労状況が書面で提出されるようになれば、看護師はこれまでより患者の全体を捉えた支援を行うことができるようになります。また、企業の相談窓口が明確になることで、なんらかの対策を講じることもできるようになるでしょう。
ただ、ガイドラインはあくまで手段を示しただけに過ぎません。現在のところ、どこまで実践するかは企業や医療機関の裁量次第です。
しかし、昨今はがん患者の3人に1人が退職を余儀なくされているというデータもあり、今後はガイドラインをいかにして周知し、現場で積極的に活用していくかが、働く患者を救うカギとなるのかもしれません。
(参考)
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