市町村保健師の仕事とは?看護師が意外と知らない『保健師』の話

看護師さんの中には、大学の「統合教育※」により、おまけ的な気持ちで保健師免許を取得した人もいるのではないでしょうか。

ところが、看護師として働いていると、どうしても時間が不規則になりがちで、体力的な問題や結婚を期に転職を考えたり、あるいは、病気の人を看護するよりも、病気にさせない「予防」に力を入れたいとの気持ちが高まり、転職を考える時が来るかもしれません。そんな時にふと頭をよぎるのが、保健師への転職だといいます。

 

ただ、多くの人は資格は持っているものの、保健師がどのような仕事をしているのか、よく理解していないのではないでしょうか。学校で習ったはずの「対象は赤ちゃんからお年寄りまで」、「地域全体の健康を守る」ことがピンと来ず、何をしているのか今一つよく分からなかったとの声もよく聞きます。

 

そこで、改めて保健師の仕事場を紹介すると共に、具体的な仕事内容や長所・短所、看護師から保健師に転職した人がよく感じていることなどをご紹介していきましょう。

(※)現在の大学教育は統合教育から選択制が主流となりました。

 

市町村保健師のしごととは?

 

看護師が意外と知らない『保健師』の話

Vol.1 市町村保健師(公務員)ってどんなことしているの?

保健師が働く職場の中で、最も多いのが市町村です。全体の就業者数約5万8500人のうち、半数近い2万7000人が属しています。(※2013年厚生労働省のデータより)

 

正職員の採用試験は基本的に年に一度。よほど大きな都市でもない限り、募集人数はせいぜいひとり。数年に一度、求人が出るといった小さな町も珍しくありません。

 

看護師から市町村保健師になった場合の長所、短所

(長所)

・夜勤がなく、地方都市でも安定した収入が約束される

・人の一生に関わることができる

・自分の判断で仕事をすることができる

・相手の家庭にまで入っていくことができる

・地域にしっかり根を張ることができる

 

(短所)

・事務仕事が思った以上に多い

・上司や首長が変わると仕事内容も変わる

・健康づくり課→国民年金課など、予期せぬ異動もある

・成果が見えづらい

・何をするにも書類が必要

・求人が少ない

 

市町村保健師とは

配属先は主に健康づくり課などの部門で、新卒で入ると、まず母子(保健)からスタートするケースが一般的です。母子の仕事は乳幼児健診に関連し、子どもの多い自治体ではこの事業だけで毎日手一杯となるはずです。

 

ほかに、

  • 生活習慣病対策が中心となる「成人」
  • ・介護問題も視野に入れた「高齢者
  • ・うつ病などの精神疾患を担当する「精神」

などに担当が分かれ、これを業務分担制と呼んでいます。

 

また、市町村内のひとつの地区の全ての業務を担当する地区担当と呼ばれるものもあり、業務分担制と併用するケースもよく見られます。

 

気になる給料は、2015年度の大卒初任給では、香川県高松市で約19万8000円、北海道網走市で約17万2000円、など地域差があります。一般行政職に比べ、少し高いところが多いようです。

 

市町村保健師の仕事内容

では、実際に市町村保健師はどのような働き方をしているのでしょうか? 本来ならどの業務についても、公衆衛生の担い手として、できる限り住民と接したり、担当地区をしっかり見守ることが求められます。つまり、頻繁に外に出て行くことがあるはず(べき)なんですが、実際は事務仕事の比率がかなり高いのが現状。

 

事務仕事の多さは、地方より大都市、人口の多さに比例しています。

 

庁舎内に自分のデスクがあり、書類やパソコンとにらめっこの毎日が続くことも珍しくありません。看護師から転職してきた人だと、ずっと座っていることに戸惑い「最初は用もないのに何度もトイレに立ち、気分転換をしていた」という人もいるほどです。

 

事務仕事の多さは、市町村によってもかなり差があります。健康政策に深い関心があり、保健師の仕事をよく理解している上司や首長がいるかどうかで、働きやすさはかなり変動します。もし、気になる自治体があるのなら、どのような働き方をしているのか、役所や保健センターに一度は見学に行き、場の雰囲気を感じてみることをお勧めします。

 

イメージとちがう?保健師の仕事の苦労

学校で習った保健師の仕事のイメージと異なる経験も多々あるはずです。

母子は「お母さんと赤ちゃんの笑顔」を見られるだけでなく、発達障害や虐待等の問題への介入も含まれます。ときには荒れた家庭への訪問などで、大きなストレスを感じることもあります。成人の特定健診では、一向に上がらない受診率に悩まされ、思い切ったアイディアを出しても「ここは役所だから」と、抑えつけられることもよくあります。

 

保健師は看護専門職の意識を強くもっているのに、役所内では行政職としての仕事ばかり求められる傾向も強く「自分は何のためにここにいるのか」と悩んだという話も珍しくありません。役所の体質、首長や上司の考え方により、保健師のやりがいはかなり変わります。

 

保健師の役割とは?「必要としない」人へのアプローチとやりがい

病院における看護師と患者の関係は、病気やケガに対して共に戦っていく同士のようなものです。早くよくなりたいと、相手は看護師の言葉をしっかり聞いてくれます。

 

一方、保健師が関わる人(住民)は、普通に生活していて、自らは健康あるいは健康と思っている人たちです。「健康のために○○しましょう」と訴えても、簡単に耳を傾けてもらえません。確実に生活習慣病まっしぐらのデータが出ていても、自覚症状がないからと安心しています。

そこにどうアプローチするのか?保健師という仕事の難しさがここにあります。

 

それでも、

「今まで受けていなかった健診を受けてもらえるようになった」

「持病を悪化させないよう、運動をしてくれるようになった」

など、相手の意識を変える(行動変容)ことができたときの喜びは大きいものです。

赤ちゃんからお年寄りまで、人の一生に関わっていけることや、目に見える成果はなくても、その地域の人々を笑顔にしていく楽しさもあります。

 

相手に「また会いましょうね」と言うことができるのも看護師と少し違うところです。

 

余談ながら、地方の市町村保健師の多くは、地元出身者が占めています。地域に愛着があり、その地域のことをよく知っていることが仕事の強みになるからです。市町村保健師が住民にもっとも近い存在である理由も、ここにあります。

 

【西内義雄】

医療・保健ジャーナリスト。足で稼いだ取材で、47都道府県、全ての地域に顔見知りの保健師がいるのが強み。雑誌を中心にした取材・執筆活動のほか、各地の保健師研修で講演も行っている。All About保健師ガイド/HSP東京大学医療政策人材養成講座5期生/H-PAC東京大学公共政策大学院医療政策・研究ユニット、医療実践コミュニティ5期生

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