生活保護受給者の医療費を知っていますか?―過剰受診・不正請求問題
医療費抑制に向け看護師らが訪問する取り組みをスタート
生活保護の総支給額は年々増え続け、2014年度には3.8兆円を突破する見込みです。
実は生活保護費のうち最も多い割合を占めるのは、受給者の医療費ということをご存じでしょうか?
その割合は、約半分にものぼっています。
こうした事態を改善するため、政府は来年度からケースワーカーと看護師、薬剤師など医療者が受給者を訪問する仕組みを導入。
生活保護受給者の過剰受診や医療費の不正請求防止を強化する取り組みをスタートさせます。
【目次】
生活保護費のうち “医療費”は1兆6000億円!
生活保護の総支給費は10年前の2004年度には2.5兆円だったのと比べると、10年間で1兆円以上も増えています。
内訳は2011年の例で見ると、医療費が全体の47%(1兆6000億円)、生活扶助(一般生活費)が35%(1兆2000億円)、住宅扶助が15%(5000億円)の順で、医療費が突出して多いことがわかります。
生活保護費負担金(事業費ベース)実績額の推移<厚生労働省>
※平成23年度までは実績額、24年度は補正後予算額、25年度は補正予算案、26年度は予算案
看護師にとっても大問題。業務過多につながる「過剰受診」
生活保護費の中で医療費が多くなる原因には様々なことが考えられます。
まずは受給者の過剰受診。
基本的に医療費の自己負担分がゼロの受給者は、薬局で市販薬を買うよりも病院を受診した方が金銭的な負担は軽くなります。
そのため、一般の人がちょっとした体調不良は市販薬で治そうとするところを、生活保護の受給者はすぐに病院を受診する傾向があるといわれています。
こうした実態について現場で働く看護師からは疑問の声も聞かれます。
Web上のナース掲示板では、
「生保患者の権利意識が高すぎる!」
「毎日のように来て、態度が横柄」
「湿布を大量にもらって仲間に配ってる」
「肝疾患なのにいつも酒臭い」
などなど、理不尽な状況から来るストレスを抱えることも少なくないようです。
病院側の過剰診療 生保患者の医療費は割高とのデータ
また受給者の過剰受診に加えて、受け入れ側である病院の問題もあります。
基本的に医療費が全額税金から支払われる受給者については、医療費の未回収(いわゆるとりっぱぐれ)が起こることはありえません。
そのため健康保険を使う患者よりも、生保の受給者に対して過剰な検査などが行われている可能性も指摘されています。
大阪大学の田倉智之教授らの研究で、生保受給者の医療費が国保の患者と比較して割高であることが明らかになりました。
研究班によれば生保患者の医療費は1人当たり月平均8万1000円に対して国保患者は7万1000円。
高齢者では大きな差は見られませんでしたが、働き盛りの現役世代に限ってみると1.7倍の開きがありました。
疾患別でも例えば高血圧の医療費は、生保では1人当たり月平均7万9000円に対し、国保の5万3000円の約1.5倍など生保患者の医療費が割高になっている傾向がわかりました。
以前からこうした事実が指摘されていましたが、データとして示されたことで、今後の医療費のあり方に議論を呼ぶことになりそうです。
「ぐるぐる病院」ってなに? 3年間で34回の転院
さらには生保患者をたらい回しにする、いわゆる「ぐるぐる病院」という問題も注目されつつあります。
基本的にとりっぱぐれのない生保患者の医療費ですが、入院期間が長引けばそれだけ医療費が減算されるのは他の患者と同じこと。
そこで医療費が減算される前に、短期間で複数の病院の間で入退院を繰り返す、「ぐるぐる病院」と呼ばれる現象が問題視されています。
一部報道では、病院間をたらい回しにする病院ネットワークの存在も暗示されています。
この問題については2014年に生活保護の実態調査を行った総務省が、厚生労働省に対して実態の把握とチェック体制の整備を勧告しました。
総務省の調査では、3年間で34回の転院(同一病院に8回入院)で年間医療費が724万円、2年間に25回転院(同一病院に5回入院)で年間医療費が857万円などの事例が指摘されています。
総務省の勧告に基づいて行った厚労省の調査では、2014年の5~8月の3ヶ月間だけでも頻回転院(90日間で2回以上の転院)は1428人にものぼりました。
厚労省では生保患者を転院させる場合の必要性について検討するよう、自治体に通知を出す措置を取っています。
ジェネリック活用、在宅訪問で適正化は進むか?
増え続ける社会保障費を抑えるために、生活保護における医療費の適正化は急務です。
政府はすでに生保患者に対して積極的に値段の安いジェネリック薬を推進するなど対策を行っていますが、いまだ十分な効果は見られていません。
新たな制度では、ケースワーカーがレセプトを点検して不適切な事例を指導する際に、看護師や薬剤師を同行することで専門家の視点から適切な医療受診を説明してもらうことが狙いです。
こうした取り組みによって過剰受診や医療費の不正受給が防止され、限られた医療資源が適正に使用される環境を作ることは急務といえそうです。
(参考)
生活保護費の推移(厚生労働省)(PDF)
生活保護の人、医療費割高…「自己負担なし」で過剰な診療?(ヨミドクター)
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