専門看護師は新たなフェーズへ、次代のCNSに寄せる期待
日本看護系大学協議会(JANPU)2020~2021年度理事 井上智子さん
国立看護大学校長(2016~2021年度)。JANPU専門看護師教育課程認定委員会委員長(2006~2008年度)、クリティカルケア看護分科会委員長(2009~2010年度)。
「専門看護師(CNS:Certified Nurse Specialist)」が誕生して25年以上が経ち、「専門看護師は新しいフェーズに入った」と話すJANPU理事・井上智子さん。これからの専門看護師に寄せる期待について、専門看護師の教育・養成に長く携わってきた立場からお話を聞きました。
専門看護師を目指す道は開かれている
――専門看護師の養成は「大学院修士課程の修了」を必要とする点が大きな特徴と言えるかと思います。
日本では看護師の養成課程が複数あり、ひとくちに看護職といっても、その教育背景は本当にさまざまですよね。その中で大学院教育は確かに特徴的です。
ただ、近年は大学の看護学科が数多く新設され、新卒看護師の約4割を大卒者が占めるなど、「大学における看護基礎教育」は既に一般化してきています。
こうした現状も踏まえれば、基礎教育に加えて大学院でさらに2年看護学を学ぶことは、専門職のキャリアアップとして必ずしも“特殊”ではないのではないでしょうか。
また、大学院、専門看護師を目指す道は、大卒者以外にも開かれています※。すべての看護師に「自身のキャリアと地続きなんだ」と感じてほしい、そう思っています。
※看護専門学校卒などの看護師は一定の条件をクリアすることで看護系大学大学院の受験資格が得られます。
高度・複雑化する医療の中で、専門看護師は
――医療ニーズが高度化・複雑化している中で、専門看護師に期待されることとは?
医療現場では、これまでにも増してチーム医療の重要性が高まっており、今後、「掛け声だけのチーム医療」では、いよいよ立ち行かなくなるでしょう。
重要なのは、それぞれの専門職が対等に意見を交わし、その専門性を発揮していくこと。
診療の補助と療養上の世話を担う看護師は「チーム医療のキーパーソン」とされますが、特に専門看護師には、高度な教育・訓練を受けた看護師として、これからの時代のチーム医療を牽引するような活躍が期待されると思っています。
――専門看護師によって発揮される看護の専門性とは、どのようなことでしょうか?
高い臨床判断の能力が必要となる専門看護師について語られるとき、ともすると、医師の専門性に近づくことが重要であるような誤解を生じることがありますが、当然それは本質ではありませんよね。
専門看護師は、医学的な知識や手法をより深く備えますが、拠って立つところはあくまで看護学であり、看護の専門性です。
たとえば、ある患者さんの治療方針について検討するようなとき、専門看護師は医学的な知識を用いて検査データを読み解き、今後の病状を予測して、医師と議論することもあるでしょう。
しかし、その視点は看護職としてのもの。患者さんの治療と生活を同時に見てケアする看護師の視点は、治療を主とする医師とはやはり異なります。
医師のカウンターパートとして高度で専門的な看護を実践する、そこに専門看護師は存在感を示すのではないでしょうか。
看護師のキャリアはもっと多様に、もっと自由に
――1994年に専門看護師制度が誕生してから27年。これからの「専門看護師」についてどのようにお考えですか?
制度ができて四半世紀が経過し、専門看護師は新たなフェーズに入ったと思います。
それは「専門看護師が専門看護師を育てる」フェーズです。
今後、専門看護師としてさまざまな現場を経験した人たちが、大学院で次世代の専門看護師の養成に携わるというケースが増えてくるでしょう。
この世代交代によって専門看護師に、あるいは看護全体にどんな化学反応が起こるのか、私はとっても楽しみなんです。
専門看護師に限りませんが、看護職のキャリア形成は本来、もっと多様で、もっと自由なものです。臨床現場でエキスパートや管理職を目指すのもいいし、教育や研究、行政の分野にもどんどん出ていっていい。
私はずっと、「専門看護師は変革者であれ」と(修了者たちを)送り出してきました。もしかしたら、ちょっぴり気負いすぎなのかもしれません。
けれど、それぞれのフェーズ、それぞれの場所で変革を起こす存在であることは、これからも変わらず専門看護師に求められることだと思っています。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
(参考)
看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査(厚生労働省)
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