バクテリアルトランスロケーション|“コレ何だっけ?”な医療コトバ
『エキスパートナース』2015年4月号(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
バクテリアルトランスロケーションについて解説します。
織田 順
東京医科大学病院救命救急センター長/主任教授
バクテリアルトランスロケーションとは・・・
- 絶食が続く場合によく聞くコトバ
- なるべく腸管を使うことで予防
〈目次〉
- バクテリアルトランスロケーション(bacterial translocation)とは?
- -バクテリアルトランスロケーションはどんなとき起こる?
- -バクテリアルトランスロケーションはなぜ起こる?(メカニズム)
- -バクテリアルトランスロケーションとはどんな症状?
- バクテリアルトランスロケーションのポイント
- バクテリアルトランスロケーションにどう対応する?
バクテリアルトランスロケーション(bacterial translocation)とは?
バクテリアルトランスロケーションはどんなとき起こる?
バクテリアルトランスロケーションはショック状態が遷延したあとや、高度重症状態、免疫低下状態で起こりやすくなります。
バクテリアルトランスロケーションはなぜ起こる?(メカニズム)
バクテリアルトランスロケーションの機序としてはおおむね、以下が考えられています。
- ①腸内細菌叢が異常に増殖
- ②免疫不全状態
- ③腸の粘膜の透過性亢進
通常では、菌はバリアを超えて移行することはできません。
しかし前記①~③のような要因で腸管から体内に移行すると、腸間膜リンパ節から肝臓、脾臓、腹腔へと移動します。重症な場合、例えば出血性ショックや敗血症の際のエンド トキシンショックなどでは、菌が直接血流に入ります。
さらに最近、“菌そのもの”が腸管を通過しなくても、外来性物質(PAMPs[memo]、病原体関連分子パターン)が受容体にはたらき炎症過程を進行させるようなものも、広義のバクテリアルトランスロケーションととらえるように発展してきています。
memoPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)
身体は菌が体内に入るとその抗原性を認識して攻撃するが、“菌まるごと”でなくとも、その“一部のパターンだけ”であっても反応して、攻撃を開始するようになっている。この一部パターンは本来、体内にはないものなので、「病原体関連分子パターン」と呼ばれる。
バクテリアルトランスロケーションとはどんな症状?
特異的な症状というよりは、全身的な炎症が進行する、ととらえるほうがよいでしょう。特異的な症状はありませんが、特に感染巣のない菌血症などではバクテリアルトランスロケーション併発の可能性があります。
バクテリアルトランスロケーションのポイント
「腸管が弱っているから休ませる」は間違い
バクテリアルトランスロケーションが疑われた場合、“バリアとしての腸管が弱っているから”、あるいは“腸内細菌叢が乱れているから”腸粘膜の安静を図る、したがって栄養投与は腸管を使わずに休ませる……というのは間違いです。
使用しなければ腸管粘膜はさらに弱ります。腸内細菌叢を整えていくためにも経腸栄養を適切に行っていくべきでしょう。
バクテリアルトランスロケーションにどう対応する?
循環管理と経腸栄養の使用が重要
バクテリアルトランスロケーションは「消化管粘膜のバリア機能」「腸内細菌」「免疫能」のバランスにより生じます(図1)。
このうち何らかの手が打てるのは、消化管粘膜のバリア機能を整えることと、腸内細菌叢を整えることでしょうか。そのため、まずは適切な臓器血流の維持(循環管理)と、できるだけ経腸栄養を使用することが重要でしょう。
プロバイオティクスと呼ばれる、善玉菌を経腸的に投与することにより正常細菌叢の回復をねらう治療方法(ビフィズス菌投与)もとられます。このように、経腸栄養が推奨されていることがわかります。
誤嚥を防ぐ
経腸栄養投与の際は誤嚥対策も重要です。米国版の栄養ガイドラインであるSCCM/ASPEN栄養管理ガイドライン(1) で述べられている、経腸栄養における誤嚥のリスク減少に関する推奨を表1(1)に挙げます。
[引用文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
P.34~35「バクテリアルトランスロケーション」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社