患者を移送するとき、頭を下げてはいけないのはなぜ?
『根拠から学ぶ基礎看護技術』より転載。
今回は患者の移送に関するQ&Aです。
江口正信
公立福生病院診療部部長
患者を移送するとき、頭を下げてはいけないのはなぜ?
頭部が低くなると、不安感が強くなったり、気分も悪くなるためです。
〈目次〉
頭を下げないようにするのは
顔がいくら進行方向を向いていても頭が下がっていたら、前方に視野が広がらないため、患者に不安感を与えます。また、頭が下がれば、重力の作用により血液の循環の変化や臓器への圧迫が加わり、患者にとっては不快感しかありません。
したがって、頭が低くならないように移送することが重要です。そのために、斜面や階段を上がる場合は進行方向に頭から先に進み、また、斜面や階段を下る場合は足から先に進みます(図1)。
ストレッチャーでの移送は
1人の看護者(A)は足部を前進し、ほかの1人(B)は患者の顔色に注意しながら、後ろから押して移送します。
担架での移送は
担架で移送する場合には、背の高い看護者が頭部側を持ちます。背の高い人は腕の位置も高いので頭部側を持つと自然に高くなるからです。上るときは前を、下るときには後ろを下げて、患者の身体が水平になるようにして運びます。
車いすでの移送は
ただし、車いすで移送する場合には、上るときには前向きですが、下るときには、前向きだと患者が前へ倒れる危険性があるので、後ろ向きにします。
とくに注意を要する場合
創傷のある場合には、患部を高くします。また、麻酔のさめない患者、とくに低比重の麻酔薬を使用している場合は、頭部を高くしないようにして輸送します。
移送のコツ
- 援助の際には、ふらつきや転倒・転落を防ぐ安全保持に重点がおかれます。
- ストレッチャーのサイドレールを上げ、必要時安全ベルトを締め、止まっているときはブレーキを確実にかけます。
- ストレッチャーとベッド間での移乗の際は、ストレッチャーの高さはベッドと同じ高さか移動する側を2~3cmほど低くして、水平に移動できるように調整をします。
- ストレッチャーの方向転換時は患者の頭側が遠心力の影響を受けないよう、頭側を軸にして足側の回転で向きを変えるようにします。
- 患者にこれからどうするかをきちんと説明し、患者ともタイミングを合わせることが必要です。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術』 (編著)江口正信/2015年3月刊行/ サイオ出版