宇宙飛行士を支える医療職!|JAXAフライトサージャンインタビュー【1】
2013年11月7日、日本の宇宙飛行士・若田光一さんが、宇宙へ飛び立ちました。
若田さんをはじめ、宇宙飛行士を医療面から支える職業。それが「フライトサージャン(航空宇宙医学専門医)」です。
今回インタビューするのは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)でフライトサージャンとして活躍する三木猛生先生。
「宇宙飛行士を支える医療チームって何?」「フライトサージャンの仕事とは?」「JAXAで働くやりがいとは?」など、「宇宙開発に関わる医療職」についてお話を伺いました。
第1回は、宇宙飛行士を支える医療チーム、「宇宙飛行士健康管理グループ」についてお話を伺います。
【Index】
宇宙飛行士を支える仕事
フライトサージャン(以下、FS)は日本語で「航空宇宙医学専門医」。航空・宇宙に関連した専門的な医療の知識・スキルを持った医師のことを指します。
「普段は筑波宇宙センターにいて、地上にいる宇宙飛行士の健康管理をしています。現在は日本人の現役宇宙飛行士8名のうち、日本にいる飛行士のトレーニングや検査の対応ですね。打ち上げが決まった宇宙飛行士の担当になると、FSも一緒に海外の打ち上げ場まで行くことになります」
過去には宇宙飛行士の古川聡さんと星出彰彦さんが国際宇宙ステーション(以下、ISS)へ行った際に、担当を務めたという三木さん。
「ISSに関係する各宇宙機関がそれぞれ医学グループを持っていますが、基本的に自国の宇宙飛行士は自国の医療スタッフが健康管理をしています。ただ、海外の医学グループに医学検査の一部を委託したりすることはありますね。現在も5名の日本人宇宙飛行士がアメリカのヒューストン宇宙センターでお世話になっていて、NASAの医学グループに多くの検査をお願いしています。もちろん、健康管理の責任はこちらにあるので、検査のデータをいただいた上で、我々が結果を見て判断し、対応を決めています」
宇宙飛行士は飛行に備えるため、普段からトレーニングをして健康状態を整えておく必要があります。健康面で全面的に宇宙飛行士のサポートをするのが、FSをはじめとした「宇宙飛行士健康管理グループ」の仕事です。
チーム体制での健康管理
JAXAにおいて、宇宙医学に関わるチームは大きく分けて2つあるそうです。
「『研究』と『運用』という形で分かれています。医療現場でいうと、研究と臨床みたいなものですね」
研究チームは、宇宙環境を利用した医学研究をその役割としています。
他方、運用チームは、宇宙でのミッションをこなす宇宙飛行士をサポートするのが仕事です。三木先生の所属する「宇宙飛行士健康管理グループ」はこちらのチームに含まれます。
「健康管理グループの長は医師で、かつFSです。JAXAのFSは現在4人います」
宇宙飛行士健康管理グループにはほかにも、医療職以外の職種の方々が所属していて、お互い連携しながら宇宙飛行士の支援にあたっているそうです。
三木先生が組織図を描いて説明してくれました。
- BME(バイオメディカルエンジニア、医療システム技師)
職員が交信をするときの通信設備の準備や、国際的な文書の管理支援などを担当します。例えば、宇宙に関する国際的なルールが変わった際に、BMEが他国から連絡を受けて情報を展開します。
- 生理対策担当
宇宙飛行士の運動トレーナーにあたります。宇宙飛行士は筋力の維持や骨量の減少予防のため、1日に2時間ぐらい運動の時間をとっています。この運動処方を作り指導をする役割です。
- 放射線対策担当
ISSの周りは地球上と違って大気がなく、太陽からの宇宙放射線が届きやすいです。そのため、放射線対策担当が太陽の動きを常にチェックし、宇宙放射線のレベルが上がった際には警告を発します。
- 精神心理担当
心のケアを担当します。宇宙飛行士が軌道上で見る本やDVDなど、リラックスできるものを用意したり、2週間に一度の精神心理面談を行ったり、月1回程度、ご家族とのテレビ電話の回線をつないだりします。
このほか、さまざまな領域の問題に対処するために、外部の専門家の方々にも相談役としてご協力をいただいているそうです。
宇宙に関わるナースのお仕事
「実はつい先日から、JAXAの健康管理グループにも看護師さんが加わりました。
元々、筑波宇宙センターには健康増進室という部署があって、JAXA職員の健康管理をしているのですが、そちらには看護師さんが何名かいらっしゃいます。新しくいらっしゃった方はそちらと併任の形で、我々健康管理グループの仕事にも加わってくれています」
取材時はまだオリエンテーション段階で、どんな仕事を担うかは今後決まるということでしたが、病院の看護師のようなケアの場は今のところあまりなさそう、とのこと。
「おそらく我々のサポートや、個人情報が満載のカルテ管理といったお仕事を担ってもらうことになると思います。病院でのような業務があるとすれば年に数回、宇宙飛行士の医学検査ですね。そのときは普通の看護師さんのように血圧を測ってもらったりします」
ちなみに、看護師が宇宙開発事業に関わる例は他にもあるのでしょうか。
「NASAでは宇宙飛行士の緊急訓練のときに、インストラクターとして看護師が登場します。
また、NASAの施設だと、ジョンソン宇宙センター内のクリニックにも看護師さんがいますね。そのクリニックでは、宇宙飛行士と施設職員、両方の診療を行っています。入り口が宇宙飛行士用と職員用と2つあるんですよ(笑)」
また中には、「地球に帰還する宇宙飛行士を迎えに行く」という、大役を担う看護師も。
「ロシアのソユーズロケットに搭乗した宇宙飛行士が地上に帰還する際、最後は円錐形のカプセルに乗って戻ってきます。
これを迎えに行くスタッフの中に看護師さんがいるのです。NASAが契約している、国際的な医療スタッフ派遣会社の看護師さんですね。だいたい1人の宇宙飛行士に1人ぐらいつく形で行っていると思います。
日本人の看護師さんはいませんが、もしいてくれたら、日本人宇宙飛行士は嬉しいかもしれませんね(笑)」
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写真はカザフスタン共和国、クスタナイ空港での帰還セレモニー。前列右が古川宇宙飛行士、その後方が野口宇宙飛行士、後列右端が三木先生です。
多種多様な職種の方々が連携しつつ、宇宙飛行士を支えている「宇宙飛行士健康管理グループ」。第2回では、その中核を担うFSの仕事について、詳しく伺います。
【次の記事】宇宙飛行士の健康管理を担う仕事
【宇宙飛行士を支える医療職・JAXA『フライトサージャン』インタビュー】
Vol.1 JAXA・宇宙飛行士健康管理グループとは?
取材協力:JAXA 筑波宇宙センター
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